カーテンを開けると、眩しいほどの太陽が体中に降り注ぐ 君に会えるからだろうか 「……いい朝だ」 うん こんなに気持ちが弾むのは きっと誕生日だからってだけじゃないと思うな 【エメラルドライン】 「機嫌が良さそうだな、精市」 頭上に影がかかって視線を持ち上げると、見慣れた赤い番傘が瞳に映って、首を横に向ければ涼しい顔をした柳が少し後ろに立っていた。 「おはよう」と言えば「ああ」と淡白な返事が返って来て、幸村はふわりと微笑む。 「いい天気だな」 「桜も丁度見ごろだ」 今年は早々と暖かい季節が訪れ例年より少し早く桜の開花を迎えたのだが、 その後すぐに寒さが舞い戻って来たため、桜はいつもより長くピンク色の淡い花を咲かせているらしい。 ご託はどうであれ、まだ少しつぼみの残った桜並木はうっとりとため息が出るほど美しくて、 幸村は番傘から見える桜の景色に視線を戻すと静かに頷き返した。 「なんだか変な感じがするな」 ポツリと零すように呟いた幸村の言葉に柳が視線を向けると、 彼は小さく口元に笑みを浮かべていて、まるで絵画の一枚のようにはかなげな姿がそこにはある。 「きっと、桜も病室から眺めることになると思ってたからだろうな …それとも見られない覚悟をしてたからかな?」 何とも答えようがない柳が黙り込むと彼はそれは承知の上で言ったようにくすりと肩を揺らして微笑んで、 「確か去年の今日も、こうやって柳と歩いてたな」と記憶を辿るように遠い目で空を仰いだ。 「ああ。 そしたら丁度赤也が…」 「ぶちょー!柳せんぱーい!」 こうして来たんだ、と柳の言葉にかぶってバタバタと駆けてくる音と共に、元気な後輩の声が聞こえてくる。 呼ばれてるぞ、と柳が幸村に言うと、 「部長は赤也なのにな」と幸村はかわいい後輩が駆け寄ってくる方向へ首を巡らせてパチリと瞬いた。赤也がつんのめっている。 「もー。赤也ジャマ!」 原因はどうやら後から両手で突き飛ばされたかららしいと分かるまでに少し時間がかかった。 おっとっと、二三歩よたりとした赤也の脇から飛び出して来た少女は猛ダッシュで駆けて来て、 「ユッキー、柳せんぱい、おはよー!」と両手を広げる。 「珍しいな、一緒に登校か?」 「赤也ってば寝坊して切原さんに置いて行かれてんの!ぷぷっ」 「バッ!?余計なこと言ってんじゃねーよ!」 慌てて再び駆けだした赤也をひらりとかわすように幸村の影に隠れたはニヤリとあくどく微笑んで、 捕まえようと赤也が手を伸ばすと、そんな彼女は一周幸村と柳の間を走って学校へ向って走り出した。 「急がないと遅刻だよー!」 「待て!!」 「赤也のぶわぁか」 べぇっと舌を出した挑発にまんまと乗っかった赤也が、それ見ろ全力だと言わんばかりに地面を蹴る姿を見て、幸村と柳は顔を見合わせる。 「今年は賑やかだな」 「がいるからね」 仕方ないと番傘をたたんだ柳とせーので駆けだせば少し生ぬるい風が頬を撫でて、幸村は思わず目を細めた。 「うお!?早いッ」 「ー、急がないとすぐ追い越されるぞー」 「バカヤロウ!勝負はいつだって全力なんだ!手加減なんてするんじゃ…ぎゃ!してください!」 一気に距離を縮めてきた赤也と幸村、柳に慌てて言うと彼らは元のペースに戻って、 どうやら赤也もはじめから追いかけっこを楽しむつもりだったらしい。 はニカッと笑って前方で歩いているの仁王と柳生の方へ走っていく。 「におー!やぁぎゅ!」 「よぅ…朝から賑やかじゃのう…」 「幸村君に柳君まで…それからさん、わたしは柳生だと言ってるじゃないですか。変なところを伸ばさないでいただきたい」 「やぁぎゅ、やぁぎゅ、やぁぎゅ」 「鳴き声みたいに言わないでくれたまえ!」 キラリと光るメガネを持ち上げて言った柳生の横をけだるそうに歩いていた仁王は キツネがほほ笑むようににんまりと両端の口角を持ち上げて笑うと柳生の頭に手を乗せる。 「ほら柳生、追いかけるぜよ。仲間外れはいやじゃろ」 「…仕方ないですね」 赤也に並んでえいさと仁王、柳生ペアが加わり くるりと首を巡らせた柳生が「おはようございます」と幸村と柳に言ってきたのに「おはよう」と笑顔で答えて、 相変わらずテニス部って変だよな、なんてモソモソ話している生徒を横切ってどんどん前へと進んでいくと、見慣れた赤髪とツルピカが見えた。 「ブンちゃ――ん!じゃこぅ!おっはよ〜!」 「…何の騒ぎだ?」 「おいおい、朝からランニングかよ…」 ぷーっと膨らましたチューイングガムをパチンとはじいたブン太の横で、苦い表情で立っているジャッカルの横を通り過ぎようとしたは、 突然飛び上がるとパシンとジャッカルの頭を片手で叩いた。 「えーくせれーんと!」 「…」 「……」 足早に駆けていくの後ろ姿を呆然と見ている間に赤也と仁王、柳生が通り過ぎて行く。 ジャッカルと顔を見合わせたブン太は何を考えたのか片手を持ち上げるとペシリとジャッカルの頭をはじいた――「えーくせれんと!」 瞬間駆けだすブン太の背を追ってジャッカルはそれと走り出す。 「待てブン太!」 「あっはは!エークセレント!ー、さっき真田が少し前にいたぜ〜!」 「任せろ!」 営業に出ていくサラリーマンのような雰囲気を醸し出しつつ歩いている真田の背中を見上げると、 にぃと笑ったが飛び上がって近づいて、さーなだと後から抱きつくと彼はビクリと小動物のように図体を震わせた。 「!抱きつくなといつも言ってるだろうがッ」 「真田の背中は大きいからね、ついしがみつきたくなるのだよ」 「どういう理屈だ!…む、なぜ走ってる?」 「きゃー!敵襲だぁ!」 ぴょんととび上がった刹那真田の帽子を持って逃げ出す。 黒い帽子をかぶった状態で駆けていく姿に状況を読めずポカンとしていると、 一軍が通り過ぎた後に幸村は真田の背中を叩いて「ほら、行くぞ真田」と笑った。 意味が分からぬまま走りだした真田が思いだしたように「幸村、たんじ…」と言いかけたとたん 柳が真田の口元を無言で押さえて、彼は「むぐ?」と柳の手の中からくぐもった声を上げる。 「空気を読め、弦一郎」 ますます意味が分からない 首を傾げると、幸村があははと声をあげて笑った――「悪いな、真田。おめでとうは一番に欲しい人がいるんだ」 ここまで聞けばそれがだということをみなまで言わずとも理解した真田は、 なるほどと言わんばかりにこくりと頷くと、気を取り直したようにまっすぐと前を見据えて大きく口を開ける。 「全員!負けは許さんぞ!」 「出たのー、真田の一喝」 「負けは許さんって…たかだかランニングだろい?」 「仁王!丸井!全力で走らんかッ」 「真田ふくぶちょー早ッ!?」 「バカモノ!現部長がOBに負けてどうする!」 「なるほど。引退してからの練習量が問われるというわけですね…これは負けられませんよ、桑原君」 「…あと三年は続くんだろうな…これが……」 「ははは!赤也、お前が一番最後なら罰ゲームだからな」 「ちょ、ぶちょー!そりゃないッスよ!あーもう!!悪りぃけどお前がドベな!」 「やだー!」 「当然だがのカウントはなしだ」 「ずり――!」 「それでもあたしは赤也には負けん!」 のんきに笑いつつどんどんスピードを上げていく幸村。 メンバー全員が必至で走ってようやく見えてきた校門には見知った姿がもう一つあって、 幸村は太陽を見上げた時のように眩しそうに目を細めると強く地面を蹴りあげた。 「やっべぇ!幸村のヤツ、本気だぜ!」 「「ぎゃぁああああ」」 想像もしなかったんだ 青空の下でこんなに綺麗な桜が見れること 「な…何でみんな走ってるの!?」 「先輩!とりあえずこっち来て…幸村ぶちょー止めてください!俺、ビリだったら罰ゲームなんスよ!」 「とか言ってる間に赤也どんどん追い越されてるよ」 「何…!?あーもう!現役テニス部なめんなァアアアア!!」 「あ、スピード上がった」 「ム…」 「…そろそろ幸村に負けるのも癪になって来たな、弦一郎」 「ああ。負けるのはそもそも性に合わん」 みんなでこうやって走れること 「幸村が学校の間はどこで時間を潰すんじゃ?」 「うーん、図書館で本でも読んでようかなぁと思ってるー!」 「おすすめの洋書があるのですが…」 「ごめーん。洋書は無理ー!」 そして 来年も走れること 「ジャッカル!てめぇ四つも肺持ってんだから少しは手加減しろよ!」 「持ってねぇよ!」 何よりこれほど強く大切だと思える人ができて 「ぶはっ」 「あ、姉ちゃんにウケた」 「あははははは!!」 こうやって笑顔で笑ってくれて ああ この景色を一生忘れないでいよう 駆け抜けた夏 これから駆け抜ける夏 どれだけ季節を重ねても、この春を、この目で見る今の景色を胸に焼き付けていられるだろうか? きっと大丈夫だな 「ぎゃー!ぶちょうが一位!」 だってほら 「おはよう、」 「おはよう。…それから、誕生日おめでとう、幸村君」 こんなに君が愛おしい そして 「「「「「「「「幸村(ぶちょー)(ゆっきー)誕生日おめでと――――!!!!!!!」」」」」」」」 こんなに今が、愛おしい +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 遅ればせながら、ゆっきー誕生日記念…です ゆっきーのアルバムが大好きで大好きで…!!くぅっ! エメラルドラインを聞いたときに、駆け抜ける妹さんと立海が見えて書きたくなりました。 ゆっきー大好きだずぇ! これからも最凶でいてくださいッ |