謝って済むなら警察は要らないと言うが、人生そう上手くはいかないもの。
生まれてこの方初めて平謝りと言うものをしてみたが、は見事に首となり、少女の家に出戻る事となった。

申し訳なさそうな顔をして戻ってきたを見た少女の家族達は、嫌な素振りも見せず再び面倒をみてくれ、
おかみさんは台所で手伝いをしていた時背中を二三度叩くと、噂を耳にしたのかやんわりと慰めてくれる始末――誰にでも譲れないものはあるさ、と


別段そこまでこだわってる事でもなかったのだが、それを訂正する間もなく城下町ではちょっとした流行種の噂として流れてしまい、
特に戦の被害者を初めとする戦を快く思っていない人たちには、兵にたてついた度胸のある女と勘違いしたようで、ある種の変わり者のレッテルを貼られる事となった。

まぁ元々元の世界でも変わり者だと言う自覚はあったので、その事に対してさして戸惑いはなかったが、
道を歩けば知らない人に声をかけられると言うのは、軽く対人恐怖症のとしてみれば心休まる場所がない。

「花子ちゃん、あんまり遠くに言っちゃ駄目だよ」
「うん」

唯一心休まるのは花子と手を繋いで、彼女がお気に入りの川原へと遊びに来る事位だろう。
風が二人の髪を靡かせて、花子の手の中に握られたかざぐるまがカラカラと回るのを見たは、石の上に腰を下ろすと、膝に右頬を乗せて口ずさんだ。


いつのまにここに いつのまによそに
水玉模様のぼくが両手を振り返す

ただ通り過ぎただけ 君が回るため
何処吹いた風でした くるりかざぐるま



「そう言う出会いってあると思うかい?」
突然上にかかった影に顔を上げると、瞳に映った慶次の姿にがぎょっと目を見開いて「何で」と口を開き、慶次は断ることもなく隣に胡坐をかいて座るともう一度尋ねる。
「そう言う出会い、アンタはあると思うかい?」

「・・・そうですね、あると思います。貴方は?」

とりあえずお互い名乗ってないのでそう尋ねると、慶次はいたたまれない表情をして、水に足を浸す花子に視線を向けた。
「あって欲しいって感じかな。でも俺は、時々反対方向に回しちまったんじゃねぇかって思うときがある」

英雄外伝で、慶次と秀吉の若かりし頃の話があった事が脳裏を過ぎった。
二人は唯一無二の友達で、ほんの些細な悪戯心と挑戦心、そして自信から松永を敵に回し、その結果秀吉は「力」にすがる事となる。

それを知っているからこそ、秀吉の事ですか、とは尋ねられず、なんて言葉をかけていいか分からないままが黙ると、慶次は言葉を続けた。

「もし風が吹かなきゃ、変わらないものもあったんだろうけどな」
「きっと、変わらないものなんて無いんですよ」