「おじちゃん、おかわり頂戴」 あいよ、と返事が返ってきて、目の前に並々と酎ハイが注がれたジョッキが置かれる。 がそれに口をつけると、ビールジョッキを片手に持った友達は、とろんとした目で「アンタまだ酎ハイな訳?」と頬杖を付き、 にぎやかな酒の席で水をさすような表情をした彼女を、は「別にいいでしょ」と横目で見た。 「ビール苦手だし」 「ホント、いつまでたっても子どもだねぇちゃんは」 三人の友人のうち一人がそう言うと、別の子がいやいやと首を横に振る。 「東京に出てこれるようになっただけでも随分進歩だよ。一時期は地元でも会おうとしなかったじゃん」 「ああ。ウチらの中で唯一引きこもり経験のある子だものね」 辛辣な言葉の数々に眉根を寄せていると、真向かいに座っていた子が「まぁまぁ」と宥めるように微笑んだ。 「ホラ、二人が上京しちゃうと中々連絡も取りづらくなるもんなんだよ、ねぇちゃん」 「うわーん。優しいのは君だけだよ〜」 ぐすんと涙をのんだが焼き鳥に手を伸ばす傍で、 ビールジョッキを置いた友人は悪びれた様子もなく「しかしまぁ」と食べかけの焼き鳥をほおばった。 「引きこもってる期間は長かったけど、立ち直った原因は彼氏サンだった訳でしょ?」 「まぁ・・・彼氏オンリーって訳じゃないよ。ちょっといろんな人に触れる機会があって、たまたまその中の人と付き合いだしただけだし。 でも外に出れるようになったりしたのは彼氏のおかげかも。かなり辛抱強く待ってくれたしね」 「あのに彼氏ねぇ・・・」 「失礼ながら驚いてくれてる所悪いけど、一番驚いてるのは私自身だから」 「高校時代から性格だけはよかったもんね。かなり内向的だけど」 「ねぇ、内向的って分かってるならもうちょい優しくしてくれても良くない?」 君達私の数少ない友達でしょ、と言うと、三人のうち二人は顔を歪めて口先を尖らせて、焼き鳥の串をぶらぶらと振った――こいつらぜってぇ酔ってる 「友達って言うなら、彼氏サンを紹介してくれてもいいじゃん」 「そうそう。写メも、無い!の一点張りだもんねぇ」 「この酔っ払い二人なんとかしてよ」 「・・・ゴメン、その件に関しては私も他の二人と同意見なんだ」 唯一の頼みの綱である子さえもあっさりと手の平を返すように敵陣に加わり、が重いため息をつくと、友人もため息を返した。 「これでも多少は申し訳ないなァと思ってるのよ」 「は?」 「ホラ、うちらも忙しくてあんまり連絡取らなかったしさ、引きこもりしてたってのは知ってたけど、これと言って何してあげれた訳じゃないしね。 そんな友達を救ってくれた彼氏サンに一言お礼を言いたいなと思うのは別に悪い事じゃないでしょ」 見ると、他の二人もうんうんと頷いている。 何だかんだ言って心配してくれてたんだなぁと思うとなんだか嬉しくなって、この友達達と再び向き合うきっかけをくれたあの二ヶ月に感謝を覚えた。 じーんとが感動しているのを見た友人は、途端にへらりと笑って付け加える。 「ま、それは十パーセントで、後九十パーセントは興味だけどね」 「十パーセントって低ッ!友情薄ッ」 「だって初彼が出来たって言いだしてもう五年近くたつでしょー?高校時代のアンタは惚れっぽくて冷めやすかったからね。ちょっと驚いたって言うか」 「それはまぁ・・・望みの無い一目ぼれを繰り返してたらそうならざる得ないと言うか何と言うか・・・」 「過去の事はどうでもいいって!それで、彼氏ってどんな人なの!?年上?アンタ年上好きだったもんねー。大人の余裕!とか言ってさ!」 ここぞとばかりに食いつく彼女の目は爛々と輝いていて、は心なしか椅子を引くと、「どんな人かって」と宙を見上げた。 思えば彼氏が出来たと報告してからと言うもの、何度か食事をしたが、は一切その話題に触れようとしなかったのである。 向こうもきっと聞きたかっただろうに、言う勇気のもてなかったはちょっと罪悪感を覚えて、まぁ別に紹介する訳じゃないしいいか、と口を開いた。 「年下だよ。歳の割りには大人っぽいと言えば大人っぽいけど、だからこそ逆に子どもな部分が凄く目立つ人かな。 仕事も出来るし、外国語ペラペラだし、すっごくもてるし、運動も出来るし・・・なんで私の彼氏なのかなぁ、と思う位凄い人・・・何その目」 「惚気程うざいものはないなと思って」 「アンタらが言えって言ったんでしょうが!見れば分かるよ、見ればね。紹介する気なんて更々ないけど」 「何でよー」 「だってよ。もし自分の彼氏が自分と釣り合わないような人間だったらどうするよ?わざわざ自分の醜態を晒すような真似はしたくないでしょ」 「そもそもそんな人と付き合おうとか思わん」 「あたしもー」 「別に見え張る為に付き合ってる訳じゃないし」 「もしホントにアンタが言うような凄い人だとしたらさ、その人も数多居る女からアンタ選んだって事でしょ? 何?本気の付き合いって惚気てんのかコノヤロー」 「あーもうるさい。この話題は終了じゃ」 おっちゃんつくねくれ!と話題を逸らすようにが手を挙げた時、店のドアが開いて、何気なくそちらに視線を向けた彼女は慌てて手を下ろした。 「なんや、汚い店やな」 「跡部と飲み会だから超高級店とか期待してたのによ、クソクソ!」 な、何ゆえ奴らがココに居る!? 「いい社会人が何言ってんだ。てめぇらの懐心配してここを選んだ樺地に感謝しろ」 「俺ここ知ってるー。この前雑誌に載ってたよ、知る人ぞ知る名店だって!」 「ビール何人ですか?俺はウーロン茶にしようかな」 「酒の席でウーロン茶はねぇだろ。最初の一杯位付き合え」 「はい!宍戸さん!」 「俺はウーロン茶にしてください」 「・・・日吉のその協調性のなさは相変わらずだね」 ぞくぞくと入ってくる顔見知りにぞぞぞと背筋があわ立つのを感じ、は顔を見られないように壁に向き直ると、黙々と焼き鳥を食べだした。 そんな彼女の気持ちを露とも知らず、友人達は「ねぇねぇ」と浮き足立ったように耳打ちしあっている。 「かなりかっこよくない?」 「顔はいいけど、私はもっと細身のめがねがいい。どしたのちゃん、急に黙って」 「嫌、改めて焼き鳥のおいしさを噛み締めてるだけです」 頼むから話しかけるな、と言うオーラを出してみたものの、誰一人気づいてくれない。 それ所か「あれって跡部景吾じゃない?」と言う言葉にヒィィイと息を呑んだ。 「うわ、本物だ。テレビで見るのもカッコイイけど、実物もイケメンだねぇ」 「跡部財閥の御曹司でもこんな店来たりするんだー、友達ファンだから教えてあげよう」 「でもアピールするのは止めた方がいいんじゃない?この前もしつこく言い寄ってきてたグラビアアイドルを手ひどく振ったって雑誌に書いてたよ。 “彼女一筋って所が彼の人気を高めている原因のひとつかも知れません”ってフォローも入ってた」 「まぁ跡部財閥敵に回したいゴシップ社なんて居ないでしょ。下手したら俳優とかアイドルよりテレビの露出多いし、でも彼女一般人なんだってねー」 「彼女うらやましいかも・・・」 ポツリとこぼした友達の言葉に思わず「はぁ?」と真顔で言ってしまうと、は慌てて口を手で押さえて、ごにょごにょと言いよどむ。 「だってさ、有名になる前から付き合ってたって言ってたし。 彼氏があんな有名人だから好きになった訳じゃないなら、逆に肩身が狭いって言うか、引け目を感じちゃうかもよ」 「あ。それあるかもー。もしかしたらその彼女来るんじゃない!?」 乾いた喉を潤すように酎ハイを飲んでいると、友人達は完璧に聞き耳体制に入っていて、は苦笑を零した――来ないよ、ココに居るもの 「せやけど、この面子で集まるのも久しぶりやなぁ」 「社会人っての漠然としかつかめてなかったけど、こうなってようやく親の偉大さってマジに分かるもんなんだなぁって思うぜ」 「向日先輩の口から一番出てこなそうな言葉ですね。親御さんが聞いたら泣きますよ」 「日吉、お前のその一言多いのは変わらねぇな」 「お褒めの言葉をどうも」 「だけどちゃんこっちに来てるんでしょー?せっかくだから会いたかったなぁ・・・跡部ぇ、何でつれてきてくれなかったの〜?」 「友人達と飲み会だとよ。大体、アイツがこの面子の中堂々と出歩きたがる訳がねぇだろうが」 ちらりと友人の目がこちらに向いて、が何かを言う前に「結構居る名前だもんね」と笑っている。 確かに私がかの有名な跡部の恋人だなんて想像の範疇を超えてるよ、とは安堵した――後は私が余計な事をしなければいいのだ。 「前に来た時は確か跡部先輩がホテル貸しきった時でしたよね」 「んな調子でデートとか困んじゃねぇか?」 「まぁな」 「跡部が跡部財閥継ぐのは見えてた事やろけど、テレビに引っ張りだこになるのは想像してへんかったやろうしなぁ・・・ テレビに出るたびにヒィィイ!て言うてそうやな」 「うっは!侑士似てるッ」 「せやろ、こう両手でほっぺた押さえて悲鳴あげんねん。 ヒィイイ!・・・痛ッ、なんや串が飛んできおったで!」 きょろきょろと忍足が辺りを見渡す前に、がさっと身を隠すと、友人は「何してんのよ!」と慌て、「嫌、手が滑って」と苦しい言い訳を零した。 半ば条件反射で投げてしまったは、手が出ないように両手を押さえる。 「でもよ、デートもろくに出来ないんじゃ、さっさと結婚しちまった方がいいんじゃねぇか?」 「別に結婚資金に困る訳じゃないですしね」 「だな。五年以上付き合って、今更躊躇する事もねぇしよー」 「アホやながっくん。プロポーズっちゅうんはタイミングが命や」 「さんはタイミングより押しの方が効果的なんじゃないですか?あの人なら勢いに流されて結婚承諾しそうですよ」 「「「「確かに」」」」 抑えろ、抑えるんだ、と半ば涙目で串を握り締めた彼女は、さすがの私も流されて結婚したりせんわッ!と心の中で日吉にとび蹴りを食らわせた。 「跡部、ここらでぐっとの心を掴むんや」 「あーん?んな事てめぇに心配されなくても・・・「ええか、跡部」・・・スイッチはいっちまったな。岳人、砂ズリよこせ」 誰一人聞いちゃ居ないと言うのに、忍足はどんっとテーブルにジョッキをのせると、めがねを光らせる。 「男は愛してるなんか言うたらあかんのや。 そしたら彼女は不安になるやろ?あたしの事ホンマに好きやの?ってなるやろ? そん時に言うてやるねん――振り向いたら俺が居る、それが答えやってな」 「何で遙時のキャラソンやねん! アンタが言うと犯罪の臭いプンプンやわッ」 思わず立ち上がったは、満身のツッコミを入れた後ハッと目を開くと、思わず両手を頬に添えた――ヒィイイ! しまった、手を出しちゃいけないと言い聞かせてたあまり口を出してしまった、どどどどうしよう 見ると、ぽかーんとした顔で友人がこちらを見ている。 何とか誤魔化そうと口を開く前に、ジローが両手を上げて「ちゃんだぁ!」と嬉々とした表情で言い、 忍足は「今の彼女が乙女ゲー好きやねん」と飄々と言うのを聞いて、はしゃがみこんだ。 「もうお前なんかストーカーで捕まれ」(投げやり) 「・・・の知り合い?じゃぁ・・・・さっきから会話に出てたって・・・跡部景吾の彼女って!?」 「あ、嫌、あの・・・その」 しどろもどろになっているの傍らに居た友人が「んな訳ないじゃん」と口角を持ち上げて笑うと、何を考えたのか日吉を指差す。 「ちゃんの好みは絶対コッチ。むしろ跡部景吾は苦手なタイプでしょ」 「「あー、確かに」」 「なんや、可愛い子らやな」と愛想笑いを振りまき始めた忍足の脳天にチョップをくらわしたが、 「アンタに嫁にやるくらいならいっそ私がこの子を・・・ッ」とさめざめ泣き出し、日吉はそれを見て心底嫌そうに眉根を寄せた。 「スイマセンが、俺にも選ぶ権利があります。大体、こんな人好きになる物好きは跡部さん位のものですよ」 「日吉ィィイ!むやみに胞子振りまくんじゃないッ(言いふらすなといいたい/混乱しています)」 「この人 は 跡部さん の 彼女 です」 「スイマセン。ちょ、も、ホントに黙ってください」 挙句の果てに土下座したを見て、岳人がケラケラと笑っていて、友人達は「が跡部景吾の彼女・・・」と目をむく。 「ちゃんが、跡部景吾の彼女・・・」 「あの彼氏居ない暦十九年のの初カレが、跡部財閥の御曹司・・・」 「あの万年片思いだったちゃんが、跡部景吾の彼女・・・」 ぷ、と誰かが噴出した途端、三人でいっせいに笑い出したのを見て、はギャァアアと悲鳴を上げると耳を塞いだ。 驚きや意外性などをぶっ飛ばして笑うしかないらしい 「だから嫌だったんじゃ言うのがッ!」 「彼氏に友達も紹介せず忍足、日吉相手に漫才とはいい度胸だな・・・挙句の果てには俺様が彼氏だと言いたくなかっただと?あーん」 塞いでいたにも関わらず、その怒りがふつふつと沸いている声は聞き逃せなくて、 「へ」と言ったが跡部を見ると、般若のような形相を見てひぃっと息を呑んだ。 「嫌、そう言う意味じゃなくて、あ。嫌、そう言う意味なのはそう言う意味かも知れないんだけど、 跡部君が恥ずかしいんじゃなくて、跡部君につりあってない私が恥ずかしいと言うか・・・」 取り乱して言い訳をするよりも、それを聞いていた跡部の方が痛みを堪えたような顔をしたのを見て、彼女は驚きに言葉を無くす。 「俺は、てめぇと居て恥ずかしいと思った事なんざねぇよ」 その表情に何も言えないから視線を外した跡部が、「帰る」と言って店を出て行くのを呆然と見ているしか出来ない。 宍戸は視線を天井に向けて「あのよ」と口を開くと、いいにくそうに言葉を濁した。 「ああ見えてアイツ、お前の友達を紹介してもらえない事結構気にしてたんだぜ」 「・・・へ?」 「そうだよー。ちゃんは跡部の状況とか、俺達を通して知ってるでしょ? でも跡部はちゃんの気持ちとか他の人から聞けない事すっごく気にしてたよ。ホラ、ちゃんあんまり自分の考えてる事言わないし」 「テレビに出て欲しくないって言ってくれたら、出るの止めるのにみたいな事も言ってましたよね」 「・・・今だって、あれだけ追い詰められて“別れる”って言えない辺りキツイですよ。まったく、先に惚れたほうが立場が弱いって言うか」 「ってか跡部大丈夫かいな。アイツ一人で歩きよったらわんさか女に囲まれるねんで」 「いつも樺地が追い払ってるもんなー」 部員の言葉にサァっと血の気を引いたがあたふたしていると、顔を見合わせた友人達はぽんっと背中を押す。 「引きこもりから立ち直らせてくれる彼氏なんてめったに居ないから、大事にした方がいいんじゃない?」 「見え張るために付き合ってるんじゃないんでしょ」 「跡部財閥を手放すのは惜しいって。ホラ、早く行く!走るッ」 「う、うん!」 走り出したは、転げるように店から出ると、きょろきょろと辺りを見渡した――どうしよう、見つからない。 携帯を取り出そうとした時、「跡部景吾だ!」と言う声が聞こえて、再び携帯をポケットにしまったは声のした方へ駆け出した。 これほど跡部が有名人で助かったと思った事はない。 必死に走っていると、人だかりの中で仏頂面をしている跡部を見つけて、は足を止めた。 こういう時、何と声をかけたらいいのだろう。 友達の振りをして無難に声をかけるべきだろうか、と口を開きかけて、いい留まる。 そんな事したら余計に傷つけてしまう。 だけど、こんな所で堂々と声をかけれる程強気にもなれなくて立ち往生していると、女の子が跡部の腕を引いて引っ張っているのが瞳に映った。 「あ」 その時、何も考えずに体が動いた。 思わず人ごみをかきわけて跡部の袖を掴んでしまい、は周りの女の子の視線を一身に浴びながらしどろもどろになる。 でも、それ以上に不機嫌そうな彼の目に胸が痛んだ。 「あ、の」 声がかすれて、心臓の音がスピーカーのように聞こえながら、頭が真っ白になる。 「何アンタ」と言う冷ややかな声に身が凍って、それでも袖口を掴んでいる手を離さないで居るは、ぎゅっと瞳を瞑った。 「連れて、かな、いで下さい」 「は?」 「その人、仕事も出来るし、外国語ペラペラだし、すっごくもてるし、運動も出来るし・・・なんで私の彼氏なのかなぁ、と思う位凄い人だけど、 反面俺様でナルシストだし、偉そうで、ちょっと気に食わない事があったらすぐ機嫌が悪くなって、 そのくせ妙なところで優しいから、私が自分の事言わないって言うけど、おんなじ位言わない人なんです」 この子誰?え、もしかして彼女?うわ、超冴え無くない?という言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡って、は唇を噛み締めると、跡部を瞳に映した。 「行かないで下さい。 先に惚れた方が立場が弱いとか日吉に言われたし、私、跡部君とも全然つりあいません。でも」 あれだけ追い詰められて“別れる”って言えない辺りキツイですよ 「跡部君が私を想ってくれてる以上に、好きな自信あ、あります・・・ッ」 顔から火が出るとはまさにこの事だろう。 がからっきしの度胸を使い切ってふらりとめまいを起こした肩を掴んだ跡部は、くしゃりと笑うと「ばーか」と頭を撫でた。 「俺様の方が好きに決まってんだろうが」 一気に機嫌が浮上したのか、跡部は口角を持ち上げたまま「ファンサービスは終わりだ!」と周りに居た女の子達を追い払いだし、 「何なのよ」と憤慨した女の子達が去っていくと、はへなへなと道端に座り込んで顔を両手で覆う。 「一生分の度胸を使い果たした・・・」 「ま。てめぇにしちゃ良く頑張った方じゃねぇか」 「明日のゴシップ紙は見ものですよ。跡部景吾の彼女の目撃情報!とかって言って、彼女達がボロクソ言ってるのが載るんですから」 「どこまでマイナス思考なんだてめぇは。そんな事した会社は俺が即効つぶしてやるよ」 「それは頼もしいことで」 もうどうにでもなれ、とさじを投げたような返事しか返さないを横目で見た跡部は、ため息をつくと「褒美をやるか」と意地悪く笑った。 「あんまり高級なものは困りますけど、貰えるもんなら貰います」 「金関係じゃねぇよ。なら、てめぇも跡部だな。もう俺の事は苗字で呼ぶなよ、ややこしくなっちまうからな」 「・・・は?誰が跡部ですか」 「貰えるもんは貰うんだろ。跡部の姓をやったんだから、てめぇは跡部だ」 「はァアアア!?」 町中に響き渡るような素っ頓狂な悲鳴を上げたが「待ってくださいよ!」というと、 途端に目元を吊り上げた跡部がドスのきいた声で詰め寄ってくる。 「まさか、いらねぇとか言うんじゃねぇだろうな」 「・・・あ、ありがたく頂戴致します」 思わず返事を返してしまったはパカリと口を開くと、頭を抱えた。 あの人なら勢いに流されて結婚承諾しそうですよ、という日吉の言葉がよみがえってくる。 な、流されちゃった・・・流されて結婚承諾しちゃったよ私――ッ! 「結婚式は国内でしてやるから、友達全員呼べ」 「って言われても、私友達少ないですし・・・」 「新婚旅行はどこがいい?」 「あー、ニュージーランド行きたいです」 「何釈然としない顔してやがんだ」 焼き鳥屋までの道筋を戻りながら交わされる会話の中、跡部がそう問うと、はくしゃりと顔を歪めた。 「私もオンナノコですから、プロポーズにそれなりの夢みたいなのを持ってたんで、 まさかああくるとは思わなくて、どんだけ上目線のプロポーズやねん、と言うか・・・ でも跡部君らしいし、こんなプロポーズされるの世界で私位なものだろうと思うと嬉しい辺りが非常に病んでいるのではないか、と そっちこそなんですかその顔」 「跡部君じゃねぇだろ」 「・・・け」 「け」 「けいごさん・・・?」 「何で疑問系なんだ。下の名前知らないとか言ったら地獄のテニス特訓だからな」 「知ってますし、それだけは勘弁してください!私が運動神経無いの知ってるくせにッ!」 うがぁと声を上げたを見て、跡部は「どんなプロポーズ期待してたんだ?」と話題を逸らすと、 夢はあったのだろうが大して深くは考えていなかったのだろう、「どんな・・・?」と首をかしげてしばし考える。 「俺が幸せにする、とか?」 「期待を裏切らないな、てめぇは。んな寒い台詞誰が言うか。それに、幸せにする気がねぇんならプロポーズなんてしねぇよ」 「それはそうですね」 越前なんかに任せるんじゃなく、俺がお前を幸せにしたいんだ 本当はその笑顔も、その涙も全部俺のものにしてしまいたい 「俺様を選んだ事、絶対後悔させねぇ」 「期待してます」 「辛い時は俺が傍に居て、嬉しい時はお前の喜ぶ笑顔を見て、そうじゃない時は俺の傍でのんびりと笑ってりゃいいんだよ お前に傍に居て欲しいんじゃない 俺がお前の傍に居たいんだ」 中学三年生の夏から変わらない気持ちを伝えた跡部を見たは、遅れてカァアアと頬を染めると、視線を逸らした。 「今のはかっこよかったです」 「俺様はいつもカッコイイ」 「・・・ハイハイ。でも、かっこよくない景吾さんも好きですよ私は。 テレビで見る余裕の表情より、何気に自分の言った事にうっすらと頬が赤い所の方が好きです」 「物好きな野郎だな、てめぇは」 「景吾さんに言われたくないですよー」 どちらからともなくつながれた暖かな手と同時に、二人の道がひとつになった、そんなある日の出来事だった。 □おまけ□ 「アホベ様と姉ちゃん、結婚おめでとー!」 「せやけど跡部、浮気は男のロマンやで。それだけは忘れたらあかん」 「誰が浮気なんかするか」 「そうそう。アホベ様にそんな甲斐性ある訳ないじゃーん。 大体、浮気なんてしたら一貫の終わりだよ。ちゃんが怒ると思ったら大間違いだべ? 多分“え?浮気?男の人って皆するものでしょ”とかあっけらかんと言いながら影で傷つくタイプだから」 「そりゃキツイわー。怒られたほうがマシやな」 「しかもちゃんは影で傷ついても、アホベ様に成り代わろうとする人間は一杯居るからね、しかも性質悪いのばっかり。 リョーマとか、ユッキーとか」 「・・・跡部、骨は拾ってやるで」 「だから浮気しねぇっつってんだろ」 ちょっとビビる事いってんじゃねーよ |