「うぉおおおおおおお!!もらったぁああああああっ」

体育祭では欠かせない競技である騎馬戦。それは、男子の競技であり女子はそれを応援するといったものである。
しかしここ立海代付属中学校は、もう一つ騎馬戦に並ぶ――否、騎馬戦よりも欠かせないといわれる競技があった。











「なあ、お前マジに出る気かよ、ケンカ祭り」
「あったり前ジャン。出なくてどうすんの、そんな面白そうな戦」
「戦ッ!?」

ケンカ祭り。それは立海代付属中学校、もとい、立海代付属中・高で学校設立時から伝わる体育祭競技。
それに出陣して怪我を負った女子は数知れず。各ブロックの女子が血と汗握り拳と拳をぶつけ合い成り立つ競技

「なーんて言われたら出ないでいいわけないじゃんっ!」

どうやらクラスのやつら全員に上手くコントロールされたようである。
赤也の隣りにいた柳はため息をつくと、口を開いた。

「訂正しておくが、ケンカ祭りは相称で本来の名は”戦国乱闘”だ」
「大して変わんねー」

柳の説明に水を差したのはブン太で、柳の向かいに座ってぼりぼりとポテトチップスを貪り食っている。
ちらりと柳はブン太を見ると、「真田に見つからないように」と注意してまた話を戻す。

「戦国乱闘は二年の競技で、各ブロックから一人ずつ総大将となる女子を上げ、クラスの男子がその女子の指示にしたがって相手を倒していく競技だ。
それに、倒すと言っても相手のブロックのマッチ箱を奪うか総大将がどこかにつけている皿を割ればいい話だ」

が学校で凶暴化したのはつい一か月前のことだ。
クラスの男子が、と仲良くしてくれている女子をいびって笑っていたのがカンに障ったらしい。

相手の一番偉そうにしていた奴(とはいっていたが、多分そこらへんの男子全員蹴散らしたんだろう)を机に叩きつけ、




「あんまり調子乗ってると、その頭形なくなるぐらいボコボコにしてやるからな、ん?」



と笑顔で吐き捨てたらしい。そりゃ山吹中の亜久津直伝の凄味を利かせ、満面の笑みでそんなこと言われればおびえるだろう。
それに以前までは大人しく、むしろ男子にいびられる側だったが(トリップ前)こんなこと言ったんじゃ、怖がらないわけがない。

そのままそいつの襟首つかんで床にたたきつけ去って行ったの噂は、その後学校中の噂になった。
そして三年まで回る頃には、その話は「地味だった子が、相手の男子を頭の形なくなるまでボコボコにして10分の9殺しにした」という話になっていた。

それを聞いた真田は慌てての所へとんで行ったが、当の本人は「んなことしてないよ、ちょっと脅しただけ」とふわりと笑って答えたらしい。
真田は今でもその言葉が信じられないという。


そんなこともあって、隣のクラスとのクラスで秘密会議が行われ「切原が総大将がいいんじゃないか」ということにでもなったのだろう。
まんまとでっちあげられた(まあ、あながち間違ってはない)話を聞かされ話に乗ってしまったはある意味馬鹿だ。

「ルールを簡単に説明するならば、各ブロック勝ち上がり形式で試合を行い、勝ったブロックは三か月分の学食ただ券がもらえる。
それぞれブロックごとにマッチ箱を持っていて、それを奪いあう競技だ。
そして最後に勝ち残ったブロックの総大将は、最後の社交ダンスでキャンプファイヤーに火をつけることになっている」

部室には、赤也と柳とブン太としかおらず、他のメンバーは委員会で話し合いがあっている最中だ。
ブン太の隣りに腰かけたは、興味なさそうに「へー、そう」と呟く。


「ま、ようするに全員ぶったおそ―じゃねーの?的な感じでしょ」


にぃっと笑ったに、三人は結局全員集まるまで「それは違う」と言いきれず終わってしまった。










体育祭当日。騎馬戦を終え、各ブロックの二年生男子はそれぞれ準備を始める。
のブロックは赤で、その旗はまるでの血の気の濃さを表すように真っ赤に染まっていた。

のブロックにいるレギュラーは仁王とブン太のみだった。
そしてこの競技には毎年恒例学校全体で”賭け事”が行われている。

「さて、毎年恒例、クラスに一票ずつ与えられる勝者予想権の発表を行います。
予想が当たったクラスには、クラスに一つずつエアコン・暖房器が付きます!夏の暑い時期、冬の寒い日には欠かせません!

一番票が多かったブロックは…                   赤です!
なんと、全校24クラスと先生方とで25票のうち、20票を集めております!今までに見ない票の多さです!
次に多かったのは――」

しかし、赤ブロックの総大将であるは一人盛り上がって校内放送なんか耳にも入らず、ウォーミングアップを始めている。


『総大将は、毎年陣の中で男たちに指示をする役目とされているが、それは競技のルールというわけではない』


わかってるよ、柳。それは自分なりに暴れていいってことだよね。
にやりと笑みを零したは、慌てて口元を押さえた。できるだけ考えていることは相手に見せないようにしておかなければ。


第一試合、赤ブロック対黄ブロック。

確か、赤也は青ブロックだったはずだ。次の青対緑の試合で勝ってくれればいいのだが。
そう考えながら自分の位置についたは、試合開始の笛があったのと同時に、そばにあった指示用のマイクで大声を張り上げた。


「総大将だけ残して、全員ぶったおせぇえええええええええええええええええええええ!!!!!!」


マッチ箱は、陣の真ん中の箱の中に入っている。
それを開始一秒でぶっ壊したは、懐にそれを入れて自分も走り出す。


「おぉっと!これは今までにない策略です!
あっ!マッチ箱が入っている箱を壊しました!なんということでしょう!そして総大将自身が相手ブロックに向かって猛ダッシュです!」


全校生徒が唖然としてを見ている中、柳だけが小さく笑みを零した。


「おらおらおらおらおらおらおらぁああああああ!!!!」


殴って殴って蹴って蹴り倒して、すごい勢いで赤ブロックが押していく。すでに黄ブロックの男子は10人程度になっている。
黄ブロック総大将の女子は、悲鳴をあげてマッチ箱にすがりついている。


最後の男子を蹴りあげたは、ゆっくりと敵陣に歩み寄る。





「遠からんものは、音にも聞け
近からんものは、目にものを見よっ!(BASARAネタ)」





ゴスッと鈍い音がして、総大将がでこにつけていた小皿が割れる。唖然としている総大将を除け、マッチ箱を壊し取り出す。



赤ブロック、完全勝利。












次の青ブロック対緑ブロックでは青ブロックが勝利したが、なぜか緑ブロックは安堵の色を見せていた。
対して青ブロックは、まるで今から悪夢を見るかのように、全員が顔を真っ青にしている。

「いや、ちょっと待てよ。おい赤也、切原が怖がるもんとかねーのかよ。俺ら、自分のブロックに票入れちまったから、負けるわけにはいかねーよ」

その瞬間、全員の表情が明るくなる。

「怖がるもんはねーけど、喜ぶもんなら…」







「今から、赤ブロック対青ブロックの決勝戦を開始します!」

試合の笛が鳴ると同時に、赤也が指示用のマイクを総大将から引っ手繰る。



ストォップ!!、ちょい俺と交渉しよーぜ」



ピタリと運動場に動きが無くなり、赤ブロックも青ブロックもぴくりとも動かない。



「お前この間東京であるUMA際っていうのに行きたいって言ってただろ。それ、一緒にいかねーか?その代り、この勝負負けてくれよ」
「ちょぉっと待った!」


が一瞬怯むと同時に、校内放送のマイクを引っ手繰ったブン太と仁王が声を上げた。


「俺らはに賭けてんだよ。あっさり負けてもらうわけにゃいかねーんだ。
、お前が勝ったらUMA際+カラオケ歌い放題!」

「んなッ!先輩たちずるいっすよ!じゃあUMA際+カラオケ歌い放題+俺とゲーセン!」
「それプラス俺のお手製ケーキ!」
「焼き肉!」
「仁王の女装!」
「はぁ!?め、メイド喫茶!」

「ちょぉ待ちんしゃい。なんで俺が女装せないかんと」「そりゃーお前…暑いの苦手ならそれぐらい我慢しろぃ」
「…んじゃあ道連れじゃ。真田と柳と幸村で三角関係ごっこ


しーん、とあたりが静まり返る。
「いいじゃろ?」と、医療用のテントで近くに休んでいた幸村に聞くと、「んぅ、まあ冷房・暖房には負けるかな」と笑った。
遠くから「まてぇええええええ!!!!」という声が聞こえたが、きっと気のせいだろう。


「決定じゃ」


仁王がにやりと笑うのと同時に「行け!野郎どもっ」というの声が校内に響き渡った。











「まぢありえねー」
部室でぶーたれていた赤也に、はにぃっと笑って「残念だったね」と声をかけた。

ー」

後ろから抱きつかれたかと思いきや、振り返ると女装した仁王がいた。
赤也と、部室に入ってきたブン太が「仁王ぉおおおお!!」と叫んでも仁王は知らん顔で「どうじゃ、似合うか」とに聞く。

「似合ってますけど、どうせならハイソじゃなくてくるぶしがよかったです」
「なんじゃ、は俺のすね毛が見たいんか。
それに仕方ないじゃろ、姉貴の至急持ってきてもらったもんじゃから、当時の靴下しかなかったんじゃ。」

「あ、じゃあ結構です。どっちもかわいいし。うっはーもう連れて帰りたいぐらいですよ仁王先輩」
「じゃろ?今度の他校戦で女装も使ってみてもええかもしれん」
「というかハイソとスカートの間の絶対領域がたまんないッス。つーかそのミニスカ反則ですよ先輩」

微妙に会話が成り立っていないのは本人たちが気にしていないからよしとして、赤也とブン太は早速仁王をから引っぺがすことにした。
が、「赤也はまだしも、これはブン太が言ったんじゃから抱きつくぐらいいいじゃろ」という言葉にブン太が引いて、一人では無理だと赤也も引いた。

「やばい、やばい。なんかもう全部やばい。仁王先輩かわいすぎ。ああもう写メとっていいッスか!?」
「だーめ。こんなかわいい姿はしか見ちゃいかん」
「えー。けどあたししかってところがまた萌えッ!」

「自分のことかわいいっていう仁王の発言はスルーなんだな」というジャッカルの言葉にも二人はスルーだ。
そしてレギュラー全員がそろうと、は机をバン、と叩いて満面の笑みを見せた。


「んじゃみなさん、UMA際、カラオケ歌い放題、赤也とゲーセン、ブンちゃんお手製ケーキ、焼き肉、メイド喫茶…
それと真田・柳・ゆっきーの三角関係ごっこで。よろしくお願いします!」


結局一番得をしたのはだと、誰も気づかなかったのだろうか。否、柳と幸村、仁王ぐらいはわかっていただろう。
はその後、七つの約束を果たしてもらったうえ、クラスには冷房・暖房セットと三か月分の学食ただ券がもらえたのだった。