「わかんないの?!だからッ、あたしは!」 本当の姿をしたが、二言目に言ったのはこの言葉で。 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、それを隠すように叫んだ。 「ブンちゃんのこと好き」 ハッキリと彼女がそう言った瞬間、第一声に「千石じゃなくてか」と聞いてしまい、がブチ切れたのを今でも覚えている。 そして今。 彼女は目の前で微笑みながら、楽しそうにケーキを口に含んでブン太を見つめている。 バクバク鳴っている心臓は、きっともう破裂寸前だと思う。 ああその唇に口付けしたいと思う気持ちは、全国の健康男児ならわかるだろう。 これじゃまるで変態みたいじゃないか。 体調が悪い訳じゃない。 けど、今にも爆発しそうなこの心臓は、うるさすぎて病院で見てもらいたいぐらいだ。 そして、先生に言われるのはこう。 「恋の病ですね」 久しぶりに東京に来たは、とにかく早く会いたいからと真っ先に立海に来た。 レギュラー共が輪を作っていたのを、最後に部活に来たブン太が輪に入ると、顔を真っ赤にして彼女の名前を呼んだ。 「お久ブンちゃん!元気だった・・・ブンちゃん?」 放心していたブン太が我に帰ると、ぐちゃぐちゃにしていた髪を整えて、乱れていた服装をピシッと直し、 「よ、よぉ」 と、片手を上げた。 は「プッ」と吹き出すと、笑いを堪えきれずにケラケラと笑いだて、「ブンちゃん何今さら!」と腹を抱える。 気まずそうに頭を掻いたブン太と相変わらず爆笑しているを見て、レギュラーが「微笑ましい限りだ」と言って去った。 振り返った幸村が「今日は部活休んでいいよ、特別にね」と言葉を残して、 パッと顔を明るくしたが「ケーキ屋さん行こ!」と、まだすべてを理解しきれていないブン太の手を取って走り出す。 そして冒頭に戻る、ということなのだが。 会話が続かずについに黙り込んだに、どうにか話をしようとブン太が乗り出す。 「髪、切っただろ」 「うん。似合う?」 「お、おう」 言葉の一回往復で終了してしまう。 ちらりとを見ると、おいしそうにクッキーを頬張って紅茶を飲んだ――「ん?どうかした?」 こうして改めてみると、随分女らしくなったと思う。 最初会ったときは口の悪さと喧嘩っ早く、真田に「女が股を開いて座るなッ!」と怒鳴られていたこともあった。 なのに今は 私服は絶対ジーパンだったのに、最近はスカートとかはいていて。 そこらへんの親父に狙われたらどうするんだっつーんだ。 喋り方も女らしくなって、噂によれば喧嘩もしなくなったらしいし。 それが自分がいるからかな、と考えると恥ずかしくなって穴に入りたくなる。 「ナンデもない」 そっぽを向いたブン太に、にやりと笑いながら「なーに?恥ずかしがってんの?キャワイーなー」と顔を近づけた。 そのさらさらの髪に、柔らかそうな頬に、肌に 唇に触れることが出来たなら 「バカか」 と、照れ隠しでぐりぐりとの頭に手を押しつけてその会話は終了した。 「要は有言実行、だよ。 ブン太はダメだなぁ。もっと押せ押せでいかなきゃもスルーしちゃうよ?」 電話越しにクスクス笑っている声が聞こえて、「出来たらしてんだよ」とすね気味に答える。 「明日もいるから、明日は朝からデートしよ!」と笑ったを見送って、この”恋の病”とやらの薬を貰うために選んだ先生は、 彼も自分が去った後すぐにデートに行ったであろう、の彼氏幸村である。 「キスと言ったら観覧車。観覧車=遊園地。 さあブン太、今すぐに電話して遊園地に誘うんだ」 それは強引すぎだろ、と言いたくなる導きだが、従う他に術はないと判断した。 軽く挨拶をすまして電話を切り、早速に電話をするとワンコールではすぐに電話を出た。 「こんばんは!どうしたの?」 後ろでが爆笑している声が聞こえて、「どうかしたか」と聞き返せばが叫んだ。 「ね、明日のデートの内容話す電話がくるんじゃないかって、ずっと電話待ってたんだ、よ」 「喋るなッ!」 バンッ!と音がして、「そ、それで?」と必死に平然を装うとしているのがバレバレな口調でが聞く。 「明日、遊園地行こうぜ」 「・・・遊園地?」とオウム返しに返ってきて、「嫌か?」と聞くと、は焦って「全然構わないよ!」と答えた。 「いや、ただ・・・」 呟いたの声はブン太に聞こえず、ブン太との電話を終えた後、がに「姉ちゃん達が初キスしたのって観覧車だよね」、 と聞けば、「うん。そうだけど?」と答えたに、は顔を真っ赤にして「明日勝負パンツはかなきゃ!」と的はずれな言葉を叫んだ。 初めは護りたい、とそう思って。 ちゃんとのことを好きになって恋して、でも千石が好きなんだって諦めて。 サバイバル合宿の時にまた恋して、そして諦めて。何回これを繰り返したんだ、と笑いたくなる。 そして今も――の本当の姿を見て、告白されて、また恋をした。 「こっち」 ぎゃーぎゃーはしゃいで、日が暮れてから向かった先はライトの点滅する観覧車。 の手を引くと、この心臓の高鳴りが聞こえてしまうんじゃないかと思うほど緊張がブン太の身体を走り回る。 今度は中途半端な気持ちじゃなくて、ちゃんとのことを好きで、とこれからもずっと一緒にいたい。 肝心なのは”中途半端じゃない好きな心”で、大切なのは、その気持ちを相手にわかって貰うこと。 そして欲しい物はの”その気持ち”。 「うっわぁ綺麗!ブンちゃん下!下見て!」 そして最も大事なことは、今まで考えた理想を現実にすること。 伝わらないかも。でも、なら伝えられるし、伝えれば理解してくれるはずだと、信じて。 そう思うのに、やっぱり一番大事なところで勇気が出なくて、臆病な心が暴れ出す。 「要は有言実行、だよ」 「があんまり頻繁に神奈川に来れないことはわかってる。 それでも俺はずっとお前のことが好きだし、たまに何でだって思うけど今はそれで満足だから。 近くにいれないからわかることだってあるし、だから、その・・・」 こう言うときに出てこない言葉達を恨みながら、「あーもう!綺麗事はナシな!」と叫ぶ。 「とにかく、お前が好きだ」 重ねた唇から感じるの熱と、間近でわかるの匂い。 ああやっとだ。 この空間が、この空気が欲しくて。 少し恥ずかしい気持ちも、まだうるさい心臓も、愛しい想いも、すべて欲しかった。 「あたしも好きだよ、ブンちゃん」 離れた時に言ってくれたその台詞も、その照れたような笑顔も、もう俺の物なんだ。 「わかんないの?!だからッ、あたしは! ブンちゃんのこと好き 好きなの!」 「・・・前も言ったけど、もう一回言わせろぃ。 俺がずっとお前のこと護ってやるから。好きだ」 |