「やだ」

「だめ」

「うはああああ無理ムリむりっ!」

先程から打ったり消したりを繰り返し、そしてそれにあわせて奇声を発している。いい加減母さんに怒られるかもしれない。
そうは言っても、こればかりはどうしようもない。今日は、あの人の誕生日なのだ。



元の世界で、愛しても愛しても届かなかった人。
どんなに頑張っても届かないのに、いつかはこの肉眼で見ることが出来るような気がしてならなかった、あの人。
オレンジの髪に白ランがトレードマークの、一見女好きと思われるけど単にヘタレなだけ。

あの人のとなりに、あたしは今いる。いることが、できている。

まだ彼氏彼女といかないものの、千石さんはあたしが異世界の人と言うこと、彼に会いたかったことを知っている。
まあ話したくて話したわけじゃなく、成り行き上教えなければいけない羽目になってしまったのだが。

そして今日は千石さんの誕生日。
あの人が生まれた、大切な日。多分千石さんが生まれてこなかったらあたしこんなに長く生きてなかったと思う。


Dear:千石さん
件名:おめでとうございます(*^▽^*)/
本文:誕生日おめでとうございます!!
    またみんなで一緒にカラオケいきましょーね



くっはーダメだ。誕生日メールが二文のみってどーよ。
なんか「生まれてきてくれてありがとうございます」に(笑)ぐらいつけてればきっと冗談に見えるって。そうだそうだ。
うぅ、けどムリだ。恥ずかしい…二行目も、”みんなで一緒に”ってところからして相当チキン丸見えじゃんか。

ダメだ。これじゃきっと全然ダメダメだけど、今のあたしじゃこれぐらいのレベルじゃないと、ムリ。
もともと恋愛経験は皆無だし、千石さんのこと考えると恥ずかしくて「うひょぉぉぉおおおおお」とか奇声あげちゃうやつだ。
変態的な妄想するくせに、その内容は殆ど乙女みたいだってよく友達に言われてたし。

そんなあたしが頑張って、がんばってがんばってがんばってコレだ。
ムリだろ。これ以上頑張れとか言うなよ。無理なんだって。ホントムリなんだってッ!

まるでその勢いにのるようにして、送信ボタンを押す。
途中で送信中止ボタンを何度も押そうと思ったが、思いとどまっているうちに送信してしまった。

目の前のミニテーブルの真ん中に携帯を置いて、目の前に正座して座る。
ずっと迷っていたから、すでに日は変って一時間ぐらい経ってる。その時間があたしのヘタレさをあらわしているようでむなしい。

きっとメールラッシュは過ぎてると思う。
檀君とか後輩らへんはちゃんと12:00ちょうどにメールしてそうだし、亜久津や南・まさみんらへんは半ぐらいに送ってるだろう。
けどあなどっちゃいけない。あれだけ友達がいるんだから(しかも大半女友達)、これぐらいの時間ならまだメールが来てるはず。

待っててもしかないか。

そう思って立ち上がったときに、運命の着メロはなった。
立ち上がろうとひざを伸ばしたときに鳴ったので、その体勢のままぴたりと動きを止めてしまう。痛い。

けど、動けない。

どうしよう。どうしようどうしようどうしようッ!
そっと手を伸ばす。何で。だってまだ一分もたってないでしょ。

恐る恐るというかんじでメールを開くと、そこにはただ一文。




外、出てきて




…怒ってる?なんか怒ってるっぽくないですか、奥さん。
あれ。あたしなんかしたっけ。…いやいやしてねーだろ。ただちょっと、ほんの一時間ぐらいメール送るの遅れただけだし。

仕方なしに部屋着に厚いコートをひっかけて外に出てみると、頬も手も耳も耳も、真っ赤にした千石さんが、立っていた。




「え」




なんで、いるの。
いや確かに外出てとは言われたけど、なんか星見てとかそんな感じかと思って…



「もうッ!俺がどれだけ待ったと思ってるんだよッ!
日が変る三時間前にはここで待っててさっ、通る人みんなに変な目で見られるしさっ
しかも肝心の君からのメールは日が変って一時間たっても来ないしさっ!ああもうッ!」

「え、いや、あの」とかあたしが呟いてる声も聞こえていないようで、千石さんが言葉を続ける。
捲し立てるようにして台詞を叫んだ後、いきなりぎゅぅっと抱きしめられた。…抱きしめ、ら…られたッ!?


「ひぃっ!ああ、あのッ」

「俺、今日こそはちゃんに告白しようと思って気張ってなんか昨日から今日の服とか考えて、
台詞とか鏡の前でずっと練習して、南とかまさみんとかにも相談したりして、

来てるメールも全部無視でずぅっとちゃんの文字だけ追ってるのに来ないし、
もう手はしもやけになりそうだし、ほっぺたは冷たいし耳はかじかむし鼻は痛いし。
んで一時間も経ってもう望みないのかとか思ってたりしたら、メールが来てそしたら二文だよ、二文ッ!

しかも内容は”みんなで一緒に”とか書いてあるしさ。
もうホント望みなくて死にそうだけど、ちゃんと告白はしようとか思って呼び出したら、ちゃんなんか私服で可愛いしッ!」


褒められているのか怒られているのか、はたまた告白されているのかわからない捲し立て方である。
これじゃあどう返事していいのかわからない。…いや、返事する気力さえもうない。

だって抱きしめられてるし。だってなんか告白とかされてるし。


「俺、ちゃんのこと大好き。ホント、もう死ぬほど愛してる。
ちゃんのためなら何でも出来る。きっと俺、ちゃんが思ってるより多分ちゃんのことスキなんだ。
だから、俺と付き合って欲しい。ちゃんが嫌なら他の女の子と喋らないし、火の中にも飛び込める」


何故そこで火が出てくるのかはわからないが、とにかく告白されたのは確かだ。
ただ、


「今さら、じゃないですか?ほら、だって千石さん、あたしが千石さんのこと好きなの知ってるでしょ?」
「それでもっ」


じっとこちらを見て、瞳を逸らさずに千石さんはにこやかに言い放つ。

「付き合ってる、って証が欲しいんだ」

ほらね。千石さんは、あたしが元の世界にいたときからあたしが欲しいときに欲しい言葉をくれる。
どんなに会いたくても会えなかったけど、それでも貴方のことを思えたのはきっと今があるって信じてたから。


「あたしも好きです。自慢は、千石さんと会う前から、ずぅっと前から千石さんのこと好きだったこと。
ほんと、多分あたしは千石さんのためなら軽々と命放り出せる。

…けど、別に千石さんが他の女の子としゃべってても束縛したりしないし、火の中に飛び込んで欲しいなんて思いませんよ」



「でもちょっとはやきもち焼いてほしいな」と千石さんが苦笑を零したので、「頑張ります」と答えた。
多分、内心やきもち焼きすぎだけど、顔に出さないのがあたしだから。顔に出せるように、「頑張ります」。

「とにかく、中は入りません?寒かったでしょ、ごめんなさい。あたしがチキンなばっかりに…」

「え」といきなり挙動不審になった千石さんに、苦笑を零す。

「大丈夫ですよ。今日父さんいないし。それに、いい年頃の娘がこんな時間に外に出る時点で怪しいですから」

すると、千石さんも「そうだよね、ごめん」と笑ったので玄関に向かう。
扉の取っ手に手をかけたのと同時、後ろに居た千石さんに片手を掴まれてこけそうになり、そのままダイブ。




「ねえ、今度カラオケいこ。ちゃんと、俺と、二人で」




満面の笑みで、そう告げる。ムリだよ、多分緊張してうたえませんよっ!あの…やっぱみんなで行きません?
そういいたいところだけど、この笑みは強制的なものだと知っているので断れない。


「そ、…ッスね」


なんか曖昧な返事になってしまったけど、今は仕方ない。










「ねーハニー」
「…それ恥ずかしいんでやめてください」

きっと、あたしがこの世界に来ることができたのも、今貴方の隣にいることができるのも。



それを赤い糸と呼ばず、何と呼ぶ。








*おまけ

「ただいまー」
「あら、どうしたの…?って、だーれ、その人」

家に帰ると心配していたのだろう母さんが玄関に出てきた。隣の千石さんを見て
ちょっと口元を緩ませる。
悪趣味な母さんはきっとわかっているのに、直接本人たちの口から聞きたいのだ
ろう。



「…彼氏」
「んなっ」
「あらまッ!」



ぽつりと呟き様に返事を返すと、千石さんは赤い顔を更に真っ赤にして、母さん
は口元に手を当てた。

ちゃん、俺ホント嬉しい」
「きゃーお母さん恥ずかしー」

千石さんは、まさかあたしが自分の事をこんなに早く「彼氏」と言ってくれると
は思っていなかったらしく
母さんはまさかあのふてぶてしい娘がはっきり「彼氏」と言うとは思っていなか
ったらしく

「あーもううるさい!ココアちょうだい、ココアっ」

母さんが慌てて台所に駆けて行ったのを見計らって、千石さんがあたしに抱きつ
いた。

「ホント、嬉しいよ」
「だーもうっ!こんなに恥ずかしいことってないですッ」

ほんと、あたしどうかしちゃったかも…




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▼おまけ(write by ゆでたまご)
妹:「…ねえ姉ちゃん、いい加減部屋戻りなよ」
姉:「うん。この漫画読み終わったらね」
妹:「ちょ、なんで今日ドラゴンボール!?そんな超大作今読まなくてもいいじゃんッ

姉:「クリリンのことか――ッ!!」

妹:「しかもまだそんなとこですか!?もー!!」
姉:(ジロリ。/千石を睨む)
千石:「…あ、あはははは。相変わらず嫌われてるねー…俺」

姉:「千石のことか――ッ!!

妹:「勝手にセリフ置き換えないでくれる!?千石さんに何かあったみたいじゃんッ、出てけ――!」
千石:「来年は越前クン連れて来た方がいい…のかな?」


たぶん