え?妹さんにお題?いやいや、そんなの知りませんって。何その企画。え?もう始まってる?だから聞いてないってばっ!ちょ、まっ
企画書?これが?ん〜何々、「恥ずかしがり屋さんさんに5の課題」?なんであたしが恥ずかしがり屋って知ってるのっ!?
はい?そんなことはおいといて、ってどこに持ってくのさ!ちょっとここに戻してよ!え、無理?いやいや、ちょっと人の話聞けってば!
というわけで、妹さんに5のお題
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mission01:目を見て話す
「うん、無理」
まず始めに言っておくが、はなんてったって人間不信だ。いや、そこはえばるところではないと誰か彼女に伝えてほしいのだが。
それでも彼女ははっきりと言った。「あたし人間不信だから」
苦手なことは、まず目を見て話すこと。じゃあ普段どこ見て話してるかって?喉。鼻、口元、その人の顔の奥の壁。それか下向いてる。
「けど始末書書きたくないなら、この手で行くしかないと思うぞ?」
「いやいや先生、何いってらっしゃるんですか。まだわたくし中学二年生でごわすぜ?始末書なんてそんな…」
まぢっすか、とそちらを見ると、笑顔が返ってきた。眩しい、これも見れないっ
「校長のベンツ水浸しにしたあげく、お前ん所の部長まで水浸しにして。しかも授業に関係のないお面をつけて登下校。プラス花壇の種まき」
どんどん非行があげられる。いや、非行というほどのものではないものばかりだが、一応非行とみなされているようだ。
「んでそういう非行が多い生徒には、うちの校長が提案した名づけて”恥ずかしがり屋な君改造計画☆”作戦を実行するか始末書二十枚。
ああ、ついでにこの二十枚っていうのは非行一回につき二十枚ってことだから、お前の場合…」
「やらせていただきます」
しっかりと頷いたが、机の上に置かれた”恥ずかしがりやな君改造計画☆”の企画書を手にした。パラパラとめくる。
自分の顔が青ざめていくのが分かる。これだったら始末書百枚ぐらい書いていた方が楽な気がする。ぜってー恥ずかしがり屋バカにしてる。
こんなのできるわけないじゃん、だって…え、まぢで?まぢでするわけ、これを?いやいや、ホントばかにしてるでしょ、ちみたち。
「目を見て話しましょう。あだ名で呼び合ってみましょう。大声をだしてみましょう。人前で泣いてみましょう。告白してみましょう。
…拷問だろ、これ」
「そうか?あ、とりあえずこのプリントに、どれを挑戦して成功したのか、一緒にいた人に署名してもらってこい。
期間は一週間。なるだけ多ければ多いほど、プラスされていくから、もしかしたら多すぎれば成績にプラスされる可能性大」
そんなこと言われたってこれは…無理、あるでしょ
とは言ってみたものの、やはり成績にプラスされる可能性大と言われればしないアンポンタンはいない。ナポリタンだっていない。
どんなにケチャップを足してやると言われたって、塩コショウに味付けされて人気がでるなら頑張るしかないだろ、うん。(話ずれてる)
ただしかし、そこには問題がある。今までケチャップ一筋だった人生がいきなり塩コショウに変われるかってんだ。(だから話が…)
俺はケチャップ一筋で生きて来たんだ。どうやれば上手く塩コショウの人生を歩めるのか、全く皆目見当がつかねーよ、兄貴。(パスタネタやめよう。)
バカヤロー、コノヤロー。お前そんなんでどうすんでぃ。そんなんじゃ売上向上にならねーじゃねーかコノヤロー。(だからやめようって)
だってよぅ、いきなりケチャップが塩コショウなんていうハードボイルドな人生に変われるわけないじゃないですかっ!なれてもトマトケチャップぐらいっすよ!(もういいよ…)
「だからお前いい加減そのパスタネタやめろ、馬鹿」
「えー、でもこれ結構真剣な話だよ?信介がケチャップ人生と塩コショウ人生、今からどちらを歩むか先輩の米太郎にアドバイスされてね、」
「、これは真剣な話だろぃ。お前が現実逃避するな」
は目の前に座っているブン太を横目で見てから、座りなおした。「けどさ、実際結構重要だぜ?ケチャップはそう簡単に塩コショウになれねーよ兄貴」
「知ってる。お前がすんげー恥ずかしがり屋なこと。いつだって俺と話すときはそっぽ向いてるし、こっち向いてる時は途方もないところを見てること。
レギュラーじゃないやつがお前に触ろうとすると華麗によけてること。他の奴としゃべる時は敬語なこと。
人前で絶対弱みみせないことも、本当のこといっつも言わないことも、学校では滅多に大声出さないことも、俺はしってる。」
「知らなくていーんだけどさー」とは唇を尖らせる。
信介はどうするのだろう。ハードボイルドな人生に変わりたい気持ちなんて全くないのだが、成り行き上なるしかない。
しかし信介にはもう塩コショウに生まれ変わるしかないのだ。それしか道はなくなってしまった。自分で断ってしまったのだ。
それでもそう簡単にケチャップが塩コショウに変われるわけなんてないことを、きちんとわかっている。わかっているからこそ、変わらないといけない時もわかっているのだ
「いるんだけどさー」
「だからお前そのパスタネタやめろってば。…実際気に入ってるだろ、ホントはすんげー気に入ってるだろ、そのネタ」
「それでもやっぱりそう簡単に変われないんだなーこれが」
うぅん、とブン太の話も聞かずに首をかしげたがハッと顔を上げた。「一個既に達成!ほら、あたしブンちゃんって呼んでる!」
「おぉ!」とさすがにこれにはブン太も声を上げた。なんだ、やればできるじゃないか。これだったら塩コショウの人生も歩めるかも!(俺まで洗脳されたっ)
じゃあとりあえず、
「俺の目を見て話せ」
「無理。それだけは絶対無理。あたし絶〇先生と同じぐらいかそれ以上人間不信プラス人と目見てしゃべらない能力が発達してること自覚してるもん」
「しらねーよバカ。ほらよ、昨日なんかテレビみたんだろ?ちょこっと俺の目見るだけだろぃ」
「さっきからバカが多いんだけど」と文句を言ってから、はごくりと唾を飲み込んだ。もしかしたら、自分だってやれるかもしれない。
信介はどこかできっとハードボイルドな人生を求めている。今だって、一歩だが塩コショウの人生に近づいたではないか。
大丈夫だ、きっとやれる。ほら、ちょぉっと目を見て話すだけ。話す…だ、…け…
「むーりーだーッ!」
「お前なあ…」
がヒステリックに頭を抱える。ブン太も呆れて頭を抱える。
「大丈夫だって。俺もじーっと見てるから」「それが嫌なの。なんかほら、目見られるのって真実見抜かれるみたいで嫌じゃない?」
同意を求めてみたがあっさり「別に」とぶった切られてしまった。なんか少しずつ機嫌が悪くなっていっているのは気のせいじゃない、きっと。
「もしあたしが頑張って目見て話したら、ブンちゃん機嫌直す?」
「考える」
うぅん、とは唸った。頑張れ自分。ブン太に怒られると結構きついぞ?実はケチャップから塩コショウに変わるよりもきついかもしれないぞ?
むむむ、ともう一度うなってから、「ぶ、ブンちゃん」と必至こいて目を見ようと頑張る。焦点があったら、目を離さない…
「昨日はレッドか、カーペットを、み…みま、見ました、はい。くはっ」
目が―っ!と叫びながら目を押さえるに噴き出すと、ブン太は「ま、お前にしちゃ上出来じゃん」と褒めてやった。
「まー、目を離さないようにして瞬きしないのはどうかと思うけどよ」「それは言わないお約束」
ほら後七日もあるんだし。他校のやつとかにも手伝ってもらって、いっぱい印鑑押してもらえばいいだろぃ?
プリントには丸井印が二つついていた。
□
mission02:あだ名で呼ぶ
でね、結局信介は頑張ろうとしたと思うんだ。だってほら、みんなが憧れるハードボイルドに一歩ずつ近づこうとしてるんだからさ。
きっと米太郎だって応援してくれてるよ。だから信介、もうちょっと頑張ってみようと思うんだ。あたしも
「へー、面白いことするんだね立海って」
「嬉しくないです…というかなんで千石さんはここにいらっしゃるんでしょうか」
から取り上げた企画書をめくりながらこちらを向き、「だってちゃんに会いたかったし」とあたり前のように告げる。
ふーん。と何度か呟いてから、が座っている席のまんまえに座る。
「ねーちゃん、俺のことキヨって呼んで」
「無理です、先輩ですし。というかぶっちゃけ千石さんで精一杯なんですよ」
む、と表情を渋くした千石が、「じゃあ元の世界でも千石さんだったわけ?」と聞くと「あたり前です」とあたり前ではあってほしくなかった返事が返ってくる。
「キヨスミとか呼ばなかったの?」「な…何度かは」
ぱぁっと一気に顔を明るくした千石が、の両手を自分の両手で包みこんで「じゃあできるって!」と笑った。
「ほら、目を見てキヨって。それだけでいいんだよ?」
「それだけはあたしにとって世界の子どもたちが一度に笑うぐらいありえないことです」
むっとまたしても表情を渋くした千石。だが頑固者には慣れているのか、「だーいじょうぶだって」とすぐにまた笑う。
「ほら、目見て」
ぐいっと、先ほどのブン太とは違い強引にほっぺたを両手で挟まれて強制的に千石の目を見るようにしむけられる。
それから千石の顔が近づいてきて、消しゴムを間に挟めるか挟めないかの距離になって、千石はにっこりと笑った。
「このままキスされるのと、キヨって呼ぶのどっちがいい?」
「キモイすわ。なんか財前クンの気持ちが今わか、ちょっ」
んーと鼻から声を出しながらだんだん狭まる距離に思わず「わかりました!呼びます!」と声を出す。
ここはテニス部の部室だぞ!?誰か入ってくる可能性は大きいのにッ!ぱちっと瞳を開いて「うん、頑張って」と千石が応援する。
しかし距離は縮まらずとも離れることもなく、近過ぎてめまいがする。
少し青緑がかった千石の瞳が、濃い茶色のの瞳を捉える。近過ぎて瞳がそらせない。うぅ、とうなるが千石は動こうとしない。
これはもう諦めるしかない。もう一度諦め半分で唸ってみたが効果なし。
「き、き、……キヨ…すみさん」
「もーしょうがないなーは。まいっか、今はこれでも」
やっと離れた千石に安堵のため息を吐きながら「どうしてでしょう、千石さんといると甘になっちゃうんですよ、ギャグが」と告げる。
「あたりまえだよ。だって俺がちゃんとイチャイチャしないと気が済まないからね」
千石は胸ポケットからペンを取り出して二つ印をつけると、それをみて満足げに笑った。「またこよーっと。それじゃ」
「あたし以上の嵐だ…」
□
mission03:大きな声を出す
信介はもう懲りた。四つで十分じゃないか。だってノルマは五つなんだもの。頑張ったじゃないか。あと一つぐらい、許してくれる。
ハードボイルドなんて夢のまた夢。自分には到底とどかない領域なのだ。ある意味絶対領域、聖領域。自分には届かない存在。
ケチャップは塩コショウにはなれやしないのだ。世界中の子どもたちが笑ったら空も海も笑っちゃうのとおんなじぐらい無理なことなのだ。
「んなもんちゃんと信介にきいてみねーとわかんねーじゃねーかよッ!」
声を荒げた赤也を制すように、赤也の隣りに座っていた柳は「赤也」と名を呼んだが、赤也は止まる気配がない。
ぐっと拳を握るとそれを机にたたきつける。「ホントは信介だってハードボイルドになりたいんだ。なりたくてなれないから、開き直ってるだけなんだよっ」
わかる、わかるぜ信介…赤也の呟いた言葉に、は息をのんだ。
「けどさっ、けど信介は無理だって悟ってるのに頑張る必要ないじゃん!無理なことがんばるより、できることがんばった方がいいよ!」
「けど米太郎さんだっていってたじゃねーかよ!そんなんじゃ売上向上にならねーって…売上向上できなかったら信介は死ぬんだぞッ」
「それで信介が解放されるんだったらいいじゃんかっ!生きることを強制するのはよくないよッ」
だんだん二人の声はボリュームを増す。柳は頭を抱えた。ここは公共の場。市立図書館である。
学校ならまだしも、市立である。大規模な公共施設である。ボリュームが上がるにつれて周りの視線もこちらによって来る。
「その辺にしたらどうだ。信介もきっと二人が争うことを望んでいないと思うぞ」
「けど柳先輩」「柳…けど信介はっ」
「信介はきっと自分で道を切り開くことができる。お前だって、できるに決まってるだろう?」
柳は菩薩の頬笑みをに向ける。そしてプリントに赤也の分も署名すると、それを渡した。「大声は時と場合によるな」
「そうだねー」と答えながら赤也と、柳は席を立って出口へと向かった。場所を変えて勉強するのだろうか。
三人の様子を影から見ていた柳生は、ぽつりとつぶやく。
「問題、そこじゃないですよね」
□
mission04:人前で泣く
米太郎は人前で泣いたことがないという。(ちょっと待て、もしかして最後まで引きずるつもりかこのネタ)
「ハードボイルドは人前で涙なんかみせねーんだ」が、彼のスタンス。それを今更変えることが出来ない。
「だからね、米太郎って結構悲しい奴だと思うわけよ」
「最初の設定がよくわかんねーんだけどさ、結局米太郎さんって誰」
すっかりルドルフになじんでいるは、観月にお茶とお茶菓子を出してもらっている。先ほどはアヒルと会話していた。神業だ。(アヒルじゃないだーね!)
祐太はクッキーを一つ頬張ってから、もう一度に問うた。「んで、お前は何が言いたいわけ」
「人前で泣くって結構難しいと思うんだ!
1から3はもう出来たから問題ないとして、残るは4と5。5は適当に何かいうとしても、ほら、人前でなくって結構むずかしいでしょ?」
まあ確かに。と頷く祐太から視線をはずしては紅茶を口に運ぶ。おいしい。
ハッとひらめいたが、カップを机に置く。ごと、と音がして少し紅茶がこぼれてしまったが、まあ致し方ない。
「じゃ、あたし人前でなきます…
にゃー」
「んなこったろうと思ったよ。お前ってホント幼稚だよな」
るっせーよとぼやきながら、は零した紅茶をだいふきで拭いて、残っている紅茶をもう一度口に運ぶ。
祐太は紅茶が飲めないらしいので、オレンジジュース。寮生活はなんとも優雅な暮らしをしているものだ。
「はい、祐太署名」
「いやムリだろ。今のなしだろ。」
「いやいや、そんなことないっすよ。ないたことに違いはない。おやじギャグだとか言われようとあたしはこれで付き通す。人前で泣くもんか」
絶対に泣かないぞ、と決意を瞳に映すを見て、「しょーがないなー」と先日の千石と同じセリフを吐きながら祐太はペンを持った。
「お前、今度ショートケーキおごれよ」「okまかして」
にんまりと笑ったが、署名された祐太の印をみてからさらに笑みを濃くした。「5つめは決まってるんだよね」
何気に、あと一つで15個だ。結構この1週間頑張っている方である。明日で20個がんばるぞ!
□
mission05:告白してみる
ふふふふふ、とは隠そうとしても隠しきれない笑みを、あえて隠さずに見せていた。――真田に。
真田は座らされた席でわけがわからない、全く理解不可能だという視線をに向けている。ちみで20個到達なのだよ。
「ちみー、なめちゃいけないよ?ちみは皇帝なんて呼ばれているらしいがね、残念ながらハードボイルドには勝てないよ。
信介はあと一歩でハードボイルドに到達する。世界中の頂点に君臨することができる。信介は立ったまま気絶なんかしないよ。
気絶してなお君臨するのではなく、塩コショウとして売上向上を目指す工場長として君臨するのだ!」
「わけがわからん」と一刀両断してみせた真田を睨むが、すぐににっこりと笑顔を作る。
「じゃー告白しまーす」片手を挙げ、は宣言してから口を開く。
「実はあたし…」
「Dを見てから姫<黒姫派になっちゃった…九郎君かっこいいよねー、あたしあの人ならついてくわー」
(なんのネタかはご想像におまかせします。略すとPPDになるあれのネタです)
「わけがわからん」
またしても真田の一刀両断。「んなこといいから」と真田に押しつけたのはペンと企画書。
「ここに真田って書いて…そうそう、ありがと」最初からこうしてもよかったのだが、一応しておくにこしたことはない。
「おっし!かーんりょ!」
「ってことで、先生よろしくお願いします。あ、成績プラス期待してますんで」
にこにこと満面の笑みで企画書を提出したは、踵を返そうとしてやめ、ちゃんと提出したことに対して驚いている先生を見た。
「ケチャップだって塩コショウになるんですよ」
だからほら、結局は。ハードボイルドの道は険しいけど無理じゃないってことだよ(え、ちがっ)