なんか、普通に目が覚めた。


いままでの緊張感は何処に……?
はむくりと身体を置きあがらせると、キョロキョロと辺りを見渡す。

古ぼけた遺跡の前。
蔦が絡まり、ボロボロに崩れた壁は風すらしのげずに、意味をなしているのか、いないのか。いたるところから感じる気配はモンスター?明らかにダンジョンの風景だ。


「……何でわたし、生きてるんだろ?」

ぽつりと呟いたのをきっかけに、断片的な記憶が走馬灯のように頭の中を駆け抜けた。

力いっぱい押したリオンの背中、戸惑う彼の顔、スタンたちの決意を込めた笑顔、氷の壁、突き抜けて押し寄せて来た水流。途切れた意識。
「生きてるとは思えない状況だったけどなぁ」


そして、もう一つ。


「……ここ、どこ?」



地下洞窟じゃない。
その外で見た景色でもない。

でも、どっかで見た事あるような風景――。そう、それはまるで…。


「天国だったりして。ぷぷっ」


唇に指先を当てて、笑えないジョークを一人かましていると、奥から騒がしい声が聞こえてきた。数人がもめているように言葉が重なり合っていて、何を云ってるか聞き取れない。



「ら、――がいたんだ!」
「つまらない――を、言うな!」

「おい、――ル!」
「さっさと――!」


ああ、よかった。この気配は人だったんだ。
とりあえず、ここがどこか聞こう。

ダルい身体を起こして、声が聞こえる方角へ首を向けたの瞳に、甲冑姿の兵士が映った。次に、眩しいくらいの金髪が見える。
物陰から現れたのは、両手を縛られた野郎二人と、兵士三人。

天国じゃなかった。普通に知ってた場所だった。


「え」

呆気にとられたを見つめる、虚を突かれたような十個の瞳。
はゆっくりと両手をあげると、愛想笑いを繕った。


「あの……その、これは…」
「もう一人いたぞ、捕まえろ――!」


「ふ、不可抗力なんだってば――ッ」




【再会の時】



捕まった。
は背中を突き飛ばされて前につんのめると、狭い部屋の中に野郎二人ともども押し込められた。

勢いに任せて倒れる身体をたくましい腕が支えてくれて、はぎこちなく笑う――「すいません」

「いえいえ、お嬢さん。か弱い女性一人を支えられなくて何が男。俺は誓います、あなたの一生すら支えてみせると……」
「あ、いや、今だけで結構です!」


一生なんて重い!


コンマの速さで離れたを、名残惜しそうに見つめる青年………ロニ。
は引き攣った笑いを向ける中で、心中、「どうしたものか」と一人ごちた。


(まさか、D2にまで来る事になるとは…)


リオンを護って、てっきりあの場所で死んだものだと思ってたけれど、どうやらまだの課題は終わっていないらしい。

ドンドンと扉を叩いた後、諦めたようにその場に座った少年、カイルを横目で見て、が苦虫を噛むような表情をしていると、彼は思い出したように「わ」と声をあげた。


「ごめん、オレ――!」
「へ?」

突然謝られて、は驚く。

「オレが遺跡にいた女の子の話をしてたから、それでアイツら、お姉さんをその子と思っちゃって…!」
「え!?い、いやいや。別にいいんだよ!だって、立ち入り禁止の場所にいた事には変わりないんだから、どっちにしろ捕まってただろうし…!」

むしろ、一人で寂しく閉じ込められるより、若い男の子たちが一緒にいた方がお姉さん萌えられる…ゲフンゲフン。


とんでもない言葉が口をついて出てくる前に、両手で蓋をした
そんな彼女を前に、カイルはパチリと瞬くと、首を傾げた。


「それで、お姉さんは何であの遺跡に?」
「それは……」


遺跡にはいなかったはずなんだよ!いたのは地下水路だったんだよ!


口ごもったは、瞳を伏せる。


何かが意図してあの場所に飛ばされ、そもそも生きかえさられた事に間違いない。


(エルレインの仕業かな?
でも、わたしは別に英雄に恨みを持ってる訳じゃないし…)


彼女にとってのメリットはない、はず。

ならば、見習いの仕業と考えるのが一番筋が通る。


例えば、だ。
この場所にはエルレインに蘇らされたリオンがいたはず。姿を偽りジューダスとなった彼は、物語の終盤までいる大事なキャラクターだ。

そのリオンは、あの時死ななかった。つまり、今この世界のどこかで生きている。

エルレインに関わっていない(でいて欲しい)彼が、この場であの変な仮面をつけて寝ているなんてことはあり得ない。なら、その代わりが必要だ。


(それが、わたし?)

つまり、リオンを助けただからこそ、彼の穴埋めとしてカイルたちと物語を進む事も課題となったのかも知れない。
それならそれで構わない。
カイルとロニのコンビは(腐的な意味で)大好きだし、リアラもリナリーもかわゆい。ハロルドにいたっては全身で愛を叫びたい。天地戦争時代萌え!

カイルたちと一緒に旅をして、
そのストーリーを隅々まで見て行くのも楽しそうだ。





いや、絶対楽しい!


















リオンがどこかで生きていてくれるのなら。
きっと、何でも楽しい。
















「…わたし、レンズマニアなの。それで、レンズハンターのマネゴトしてたんだ」
「へぇ、そうなんだ!ウチのお母さんもね、昔レンズハンターをしてたんだっ。――俺、カイル。カイル・デュナミス」

「ロニ・デュナミスです。お嬢さん」



だから、動くのと手を握るのが早いんだってば君は!

戸惑うべきなのか、でも女性として挨拶(?)してくれる事を嬉しく思うべきなのか、分からないまま笑う。


「わたしは、。よろしくね」


にっこりとほほ笑んだ時、頭上から物音がした。首を巡らせて見上げたの瞳に、信じられない物が映る。


竜の骨と目があい、驚く間もなく、黒いマントが翻った。
身を乗り出した彼のつややかな髪が靡いて、聞きなれた少し高い声が、耳に入って来る。


「――?」


なん、で。


予想もしなかった展開に、は開いた口がふさがらないまま、頭上にいる青年から瞳が離せなくなった。


なんで、なんで。
なんでここにいるの?

生きてるんじゃなかったの。それとも、普通に年取って、そんな妙な格好をする趣味に目覚めたの?


息ができない。
呼吸を忘れた喉がひゅっと鳴って、は唇を震わせた。



「……ぉん」


飛び降りて来た彼が、目の前に着地する。動きを固めたままのの腕を手繰るように寄せられて、は薄い胸板に額を打ち付けた。

「会えないと思った」


耳をくすぐる、綺麗な声。
すがるように背中に回った腕の力が強くなる。


「もう二度と、会えないと」


それは、こっちの台詞だよ。ううん、会わない方がよかったんだよ。会えない方がよかったんだよ!



なんで


なんで
どうして



こんな所にいるの?




わたしは、あなたを助ける事が出来たんじゃないの……?




リオン。