リオンの気持ちを汲めといわれても、具体的に何をどうすればいいのか分からない。

それを云うと、
「男って云うのは、女を護りたい生き物なのさ」
と、ジョニーは詩人のように歌っていたけれど。


そもそも、それは端から大きな間違いがある。

男と女じゃなくて、上司と部下だし。守るのはの仕事だ。

「やれやれ、お前さん、全然わかっちゃいないね」
「分かってないのはジョニーさんですって。リオンにはマリアンさんと云う愛しの君がいるんです。超絶美人なんですから!」

「へぇ、是非ともお目にかかりたいもんだ」

と。
リオンの痛い視線を背中に受けて続ける会話が何とも生きた心地のしない事!

結局、大人しく出来ていたのはほんの数分の事で、はあっさりと紐を切ると晴れて自由の身となった。


「ヒャッホー! シャバの空気だぜ!」


ファイヤーボール、ファイヤーボール。アイスニードル。ファイヤーボール。

初級昌術をぶっ放すたびに、ジョニーが後ろで笑い転げている。全身全霊で失礼な奴だ。こちらとら、本気でビビったと云うのに。

上級昌術怖い。初級昌術しか使わない!”

発言がよっぽどツボに入ったようで、
あれだけギスギスしていたのが嘘のようにチョッカイをかけられる。甚だ鬱陶しい。

けれども、ちょっと気を逸らせばリオンの殺気をビンビンに感じるので、意識が逸れるのは非常に助かって、はジョニーと一緒に無駄にはしゃいだ。


ギターで歌う彼にあわせて歌ってみたり
(ジョニーには歌がなかなか上手いと褒められたが、ルーティには敵地なの分かってる!?とキレられた。よっぽどうるさかったらしい)

そのギターって何で作られてるんですか?
プレー中に疑問に思ってみた事を聞いてみると、のらりくらりと答えをはぐらかされた。
よっぽど危険な物質でできているに違いない。なんていったって、破壊力が半端じゃないからだ。


笑ってられたのは、主に前半だけ。


最深部にいたバティスタとの戦闘は、なかなか後味が悪くて。

きっと彼はフィリアに惚れてたんだろうなあ…
そう思ってしまうのは、淡い期待か何かなのだろうか。

無理やり外そうとしたティアラ。
電流の音。
焦げた臭い。


忘れずに覚えていなくちゃいけないと思った。
見ていなくちゃいけないと思った。

バティスタを助けられる方法なんて、全然思いつかなくて。結局見過ごす事になってしまった自分。
リオンの時もこんな風に、どうしようもない現実を見ているだけになってしまったらどうしようかと思うと、息が詰まって。

「泣くくらいなら見るな」

そう言われてぐぃっと顔を下に押されて、はじめて自分が泣いていた事に気づく。

「……泣いてないです」

しゃくりあげながら云うと、リオンは少しの間黙り込んで。

「本当に…手のかかるヤツだ」

呆れたように呟いた。




【リオンの気持ちとかタイトルの英語とか面倒になったある日の事】





「うーみぃは広いーなおおきいなー!」

黒十時艦隊すげー!
はキラキラと視線を輝かせながら、青い海と、白い雲が彩る空を見上げた。

甲板に出て来たまではいいものの、そわそわといてもたってもいられなくなって、
更に高い所へ行こうと梯子を上ると、今はちょこんと飛び出た一角の上に座って上機嫌でいる。潮風はちょっとベタつくけど、気持ちがいい。


続きを歌おうと口を開きかけたとき、
ドアが開く音が聞こえて、は口を噤んだ。


出て来たのはリオンとスタン。


珍しい取り合わせだなぁと思ったは、内心あ!と、声をあげた。

そうか、これ、あの青春イベントだ!



俺はイレーヌさんが初恋だぜ! 
お前、好きなヤツいるのかよ! 的な。(かなり脚色されてます)

こういうのは男の聖地だな。
女が立ちいるべきじゃない。ましてやこの位置じゃ、会話まる聞こえだ。

そりゃあゲームをプレーした身なので、細部に至るまで赤裸々に知ってはいるけれど、だからこそ、聞いちゃいけない事は分かっている。
つーか、男の恋バナ聞くとか、想像しただけで寒いし!(←本音。

梯子に足をかけると、スタンののぼせたのろけ話が聞こえて来た。
完璧な乙女思考だ。どうせなら乙女ロードを推進したい私。いいと思う、スタリオ。

ふ、とは口端を持ち上げて自嘲気味に笑う。

その乙女思考のせいでとんだ被害を受けたものだ。
それがリオンに対する気持ちなら、むしろ応援したのに(←まだ云うか)、萌え。

恋にボケたスタンのせいで大事な食事が…。
思い出しただけで行ってぶっ飛ばしたい気持ちになったが、甘酸っぱい気持ちに胸を打たれて、勘弁してやるか…とは音をたてないように梯子を下り始める。

この位置は丁度、リオンとスタンからは死角になるはずだ。
静かに下りてドアから出れば、絶対に気付かれることはない。


けれど。


(スタンもリオンも、大人の女性が好きなんだねぇ……)


またもや思考がズレた。


つーか基本、男の人って皆そうなのかな?
女の目から見たら、ルーティたちの方がよっぽど味があると思う。ましてやこっちも美人だし?

儚い美人に弱いのか…。
いやはや、そう考えると、パーティに美人は多いけど、あいにく儚いと云う形容詞が似合う人間は一人もいない。みんなある意味どこか図太い


そうか、それがいけないのか…
ツンデレと儚い女性は男の永遠の憧れなんだな…。

そう言うキャラ狙ってみるか?


わたし、別にアンタの事……守りたい訳じゃないんだからっ!

やべぇ、キモイ。
つーかこれ、どんなツンデレだよ?え?これツンデレ?(←混乱。



一人ブハッと噴き出したくなった唇を押さえる。
あー、こんな時がいたらなぁ…と、非常に残念な気持ちになった。この混乱に的確なツッコミを入れて欲しい。

そしたら、
あー!それがツンデレね!
ってなるのに……。



「それで、リオンにはいるのか?そんな人」

スタンの言葉にハッと己を取り戻したは、いかん、いかんと首を横に振って梯子をおりはじめた。
だいたい、そういう修学旅行の夜みたいな会話は、こんな炎天下の中じゃなくて、枕をかかえてしてほしい。男同士、いつも部屋一緒な癖に。

「…ぼくは…」












































マリアンがトゥキダカラ――――!


突然頭の中に現れたチャ○・ド○ゴ○(のマネする人)が叫んで、ボハァアァッと息を吐いた。

ちょっ、バカ、お前!今出てくんなっ


出て来たが最後、今度は脳内が勝手にその声をみどりかわボイスに変換しはじめる。


マリアンがトゥキダカラ――――!(ちょっと高めのリオンボイス)



やべぇ!これはやべぇ!
爆笑したい気持ちを必死に堪えた瞬間、ぐらりと後ろに傾く身体……。

あれ?私、何で両手で口押さえてるわけ?

と、いうことは、だ。

今梯子にあるのは両足だけということで……。

(ギャァアアアァァアアアアアアアアアアアァアアアア!)

背中から真っ逆さまに落ちる身体。
悲鳴は何とか呑みこんだが、ぶつかる音は絶対デカイし、さすがにその時の声は抑えられる自信がない。

ってか痛いって!

(うぉぉおおおぉおお――ッ!!???)


そろそろぶつかる。
ギュッと瞳を瞑ったが、来る予定の衝撃が来ない。
それどころか、妙に弾力性のある何かにぶつかる。

(ぅ?)

おそるおそる目をあけると、瞳いっぱいにジョニーの顔が映って、は「ギャア!?」と悲鳴をあげた――なななななな何が起こった!?

グルグルと目を回していると、ジョニーがひょぃと下ろしてくれる。
どうも抱きとめられたらしい、という事を理解したとたん、は恥ずかしくなって両手で顔を覆うと、へなへなとしゃがみこんだ。





どんな乙女的展開だよ!

だから私は乙女ロード推進派だっていっt……!





それに、ジョニーさん?」

「……!」

バカか私は!
ぶつかる衝撃音は鳴らなかったのに、悲鳴あげてちゃ意味ないじゃん!


パカッと口を開けてると、スタンの後ろからリオンが顔を覗かせて、目があったと思ったら勢いよく視線を逸らされた。坊ちゃんの様子が変だ。

そんなことより、私の頬っぺた絶対赤い!

見える面積を少しでも減らそうと手の平をひらくと、
まさか自分たちの会話を盗み聞きしていたとは思わない(ましてや笑うのを我慢して落ちたとは夢にも思わないだろう)スタンが、「どうしたんだ?」と首を横に傾けた。


「え!?……あ、いや、あの…」


誤魔化さなくては!
いたいけな青少年たちの恋バナを立ち聞きしてたなんて、可哀想で云えない!


「え、あの、いやね…!そ、空が…青いから…」
「青いから?」

「オレがプロポーズしてたんだ。なあ?」
「そうそう、プロポーズされて………」




ねぇよ!


どんな誤魔化しだよソレ!
ちょっと無理があるっちゅーの!


意気揚々と笑うジョニーの顔に右ストレートを食らわそうとしたをよそに、事の成り行きを知りもしないスタンは真面目に受け取ったらしい。

「ぷ、ぷろぽぉず!?」

と、可愛らしく裏声で驚いてくれるのはたまらん萌え。
けど、ンな訳ないでしょーが!

「ち…、ちが!違うからね!ジョニーさんのおちゃめなジョークですよ!
ってか、会って昨日今日の人がプロポーズするわけないじゃないですか、現実的に!

会った時の殺伐な空気感忘れちゃやーよ!めっちゃギスギスしてたでしょ!?ね!?どー転んでもそんな乙女な展開にはならないって!

フラグは立たないよ!」


そっか、フラグは専門用語だ。


「ふ、フラグっていうのは……!」


ついにはフラグの説明をしはじめたとき、
「それじゃあ聴いてくれ」
と、何を考えたのかジョニーがギターを抱えた。


じゃぁん
乾いた音を皮切りに、能天気な、ラブソングのようなそうでもないような曲を歌いはじめるジョニー。

「これがオレの気持ちだ!」

演奏が終わって豪語したジョニーの姿に、スタンが「おぉ!」と、敬愛を込めたような歓喜の声をあげて、ぱちぱちと手を叩く。
一方のは、ポカンと目を瞬くばかりで。

たっぷりの間をおいたのち、



「意味わかんねーよ!」



ツッコミを入れるしかなかったのである。






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だんだんキャラが壊れて来た。
姉が一番おかしくなってる………