これは、使節団として妹がグランコクマに滞在したときの、ある日の出来事。





vsグランコクマ!01〜妹のグランコクマ奮闘記ッ!〜






「え?マルクト軍とオラクルの共同演習、ですか?」


首をかしげたに、「はい」と笑顔でジェイドは頷いた。



「共同演習…ねぇ。
あそういえばー、ジェイドさんって役職なんなんですか?いっつも陛下の隣にいらっしゃいますけど」



彼女は完璧に話の路線を変えて、ジェイドを見やる。
彼はそんなに苦笑を零す。



「マルクト帝国軍第三師団師団長です。どうぞよろしくお願いします、神託の盾騎士団参謀総長ならびに第三師団師団長殿」

「うっへー師団多いなー。よく舌噛みませんでしたね、大佐」

「ありがとうございます。――ところで、共同演習の話をそろそろしましょうか、
「あれ、やっぱり覚えてました?」



「逃れたと思ったのになぁ」と零したと云う事は、やはりしたくなかったらしい。
彼女は面倒くさそうに後頭部をかくと、「わかりました」とこれまた面倒くさそうに頷く。




「それでは今日の昼、マルクト軍の演習場を貸してください。
各自自分が得意とする分野の武器をもって来る事を伝えて置いてください。それからお疲れ様会をするので宴会場の準備よろしくお願いします。

それではあたしはうちの師団員に伝えてくるので」




思ったよりはきはきと指示を下したに、ジェイドは驚かされていた。







マルクト軍第三師団と、将官クラスの代表として来たアスランはマルクト帝国軍の演習場で、今か今かと率いるオラクル騎士団第三師団が来るのを待っていた。
みな軍服や甲冑に身を包み、指示があったとおりおのおのの武器を持ち、綺麗に整列している。




「いやーすいません、お待たせしてしまって」




現れたたちにマルクト軍の兵士達は度肝を抜かれることとなる。
誰一人として、甲冑を着ていないのだ。



「今日はどうぞ、よろしくお願いします」



差し出された手に、アスランは戸惑いながら手を差し出す。



第三師団長殿、本日は共同演習という話で間違いはなかったでしょうか…?」

「?ええ。もちろん」



彼の言葉に首をかしげたは、アスランとの握手を終えるとパンと手を叩いた。
その音に、唖然としてオラクル兵を見ていたマルクト兵も気を引き締めて背筋を伸ばす。



「共同演習では、せっかくなのであたしに指揮をとらせてください。
またこの一ヶ月の滞在期間の間に共同演習を行いと思っていますので、その時はマルクト伝統の演習方法を教えていただきたいと思います。

と、いうことで。みなさん、この箱から紙を引いて行って下さい。オラクルはこっち。マルクトのみなさんはこっちです。」



にこりと。
あくまで彼女は笑顔でそう云った。

何がなんだかわからないまま、とりあえずマルクト兵はくじを引いていく。――もちろん、ジェイドやアスランも。
オラクル側の第三師団員はいつもどおりだと言いたげな顔をしていた。


最後にジャンともあまったくじをひく。



「では皆さん、書いてあった番号札と同じ番号札の人を探してください。
マルクト兵とオラクル兵でコンビを組んだそのチームでタッグマッチをしていきたいと思います。

戦わないチームは対戦チームの戦いを見て、思ったことをそのまま叫んでください。
ただし、罵倒はダメです。

そこはそうしろー!とか、あの技使えー!とかそんな感じの応援をよろしくお願いします。


一試合終わったら、全員でその対戦の反省会をします。
反省会の間での一回の発表につき一ポイントもらえます。


ついでに、ポイントは宴会で使えますからね。
十ポイントでご飯一杯追加権、二十ポイントでお肉一皿追加権、三十ポイント以上で飲み放題権。

四十ポイント使って、お肉二皿追加、とか使い方はさまざまですからね。
いっぱい食べたい人は一杯発言した方が得だと思いますよ。はい、では相方探してください」



そういってから、自分もさっそく相手を探し始める。



、何番ですか?」

「あたし5番です。…大佐は?」


「奇遇ですねぇ。私も5番ですよ」



「これは運命ですかね〜」なんて絡んでくるジェイドに「そんな運命いりませんよ〜」と笑顔で返す。
辺りの温度が氷点下まで下がったように感じられる。


「ありゃ、ジャンはアスランさんだったんですね。こりゃバランスが取れてない感じになっちゃいましたね」

「それも面白いんじゃないですか?」

「そういえば、大佐ってアスランさんより階級低いんですか?大佐と少将だから…えっと…」
「ええ。大佐のほうが階級は低いですよ。――師団長殿はそんなことも知らないんですか?」


指を折って数えているに、ジェイドは悪趣味な笑みを浮かべながらメガネのつるを押し上げた。



「ええすみませんね。飛び級で参謀総長なんかになったもんで、間の階級のことわかんないんですよ。
ちゃんと勉強はしてるんですけど、単語とか綴りとか生活習慣とか歴史とか文化とか…それ以上に覚えなきゃいけないことばっかりで」


「あなた、十代後半でしょう。どうしてその歳になってまだそんなことを覚えているんですか?」

「浮浪者だったところをイオン様に拾われたもんで、
喋れはするんですけど、どうにも基本的な学習からして遅れてるみたいで…」



そうこう話している間に全員パートナーを見つけたらしい。
は声を張り上げると、奇数と偶数を両サイドに分ける。



「試合では、どちらか一人でも一本取られたら負けです。
ですから、できれば甲冑脱いだ方がいいですよ。こかされる確立高くなりますし」



以前オラクルで団員達とこの演習をしたときに、いつの間にか試合が甲冑を着たお互いをいかにこかすかというものになっていた。
それ以後誰一人として甲冑を着て演習に参加するものは居なくなってしまった。


の言葉に早速甲冑を脱ぎ出すマルクト兵にジェイドは苦笑が零れる。
同時に、自分は軍服で参加していたよかった、とも思う。大の大人が人前でいそいそと甲冑を脱ぐ姿など面白い以外の何ものでもない。


「では始める。01と02、前に出て」










「ところで先ほどの話に戻りますが、」

視線は戦闘をしている団員たちに向けたまま、ジェイドが腕を組んだ。



「浮浪者、ということは孤児か何かだったんですか?」

「まあそんなもんですかね。
今ではイオンが――イオン様が保護者みたいなもんです」


「それはまた奇妙なことですね」



あの冷徹非道といわれる鉄仮面少年が、こんな珍妙な少女の保護者、というのも笑える。
それに、さして歳も離れていないはずだし、イオンの方が年下だったように思う。



「大変でしょう、その歳にして基礎知識から学習するのは。
それに参謀総長と第三師団師団長を兼任して、サフィールの弟子として彼の抗議を受けているんでしょう?」


「そうですね。でも、どうにだってなりますよ。
空白の時間があったことは今どうあがいたって変えられないんですから。

あたしが今しなきゃいけないことは、大変だと嘆くことよりも、自分がしたいことができるように、少しでも多くの事を学んでおくことです」


「…見上げた根性ですね〜」



やれやれ、と肩をすくめたジェイドには自身有り気な笑みを作った。

「そーでしょ」

自分の十代を振り返ってみても、こんなではなかった気がする。
少なくとも、こんなに前向きな思考は持っていなかった。

もしピオニーがいなければ、今も――



そこまで考えたところで、隣のが「18、一本!」と叫んだ。
どうやら準決勝でジャンとアスランのチームが勝ったらしい。




「うーん、やっぱり思ったとおりあたしらが決勝になっちゃいましたね。
ま、でも。お互い頑張りましょう」


差し出した手を握る。本日二度目だな、と思いながら。
アスランは自分の手を握る少女を見ながら、こんな気さくな女の子が戦う姿なんて想像もできない、とも考えていた。


「フリングス少将、は強いですよ。油断せずに行きましょう」
「ああ、もちろんだジャン君」

「大佐ー、おなか空いてきましたやる気一気にダウンです」
「それは残念ですね、。私も今やりかけの執務があったことを思い出して気落ちしているところです」


団員達はまったくやる気が違う、と苦笑を零しながらその会話を聞いていた。
片方は俄然やる気だが、片方はまったくと云っていいほど緊張感というものを感じられない。



「さて、では行きますか」



ゴングを合図に一瞬にしてが間合いを詰める。
譜術・攻撃を一挙にこなせるが前衛を担当し、譜術士のジェイドは後衛として譜術でサポートする、という作戦か。


は同じく前線に出て来たアスランと刃を交えると、獅子戦吼を食らわす。
何か来ると肌で感じ取った彼は瞬時にそれを避け、に剣を振り下ろした。



「唸れ烈風!大気の刃よ、切り刻め――タービュランス!」

「雷雲よ、刃となれ――サンダーブレード!」



ジェイドとジャンの詠唱はほぼ同時だった。
タービュランスはアスランを襲い、サンダーブレードはジェイドを襲おうとする。

さすがのアスランはタービュランスを自分の剣で威力を半減させる。
ジェイドに向かっていた雷撃は――


「サンダーブレード!」


が叫んだと同時に発生した雷撃で相殺されてしまった。
そしてタービュランスでくらったために一瞬ひるんだアスランにむけ、が剣を突き出す――


「っ!」


と見せかけて、思い切り足払いをかけた。
思わずバランスを崩しそうになったアスランだったが何とか思いとどまり、体勢を整えなおそうとしたところで、首元に冷たい鉄が突きつけられる。

はにっこりと笑って、アスランの言葉を待った。


「……―――まいりました……」












「さすが、というかなんというか…やはり、殿はお強いな」


お疲れ様会の席でのアスランの一言。
その言葉には単なる感想、というよりもむしろ喜びが込められていた。軍人だからこそ、というべきか。



「いやいや。アスランさんも強いッスよー。
あたしなんかまだぺーぺーなもんで。あ、ジャンお茶ついで。ついでに横の肉とって」



は男よりは断然小さい口に、隣で食べまくっている男の団員たち(といっても団員は男ばかり)と同じ量を詰め込んでいる。



「こちらに来て一週間以上になりますし、この街のことも大概把握できてきましたか?」

「ええ。毎日子ども達がいろいろ教えてくれるんで、結構街の事わかりました。
それに、陛下もこの街のことだけでなく国のこともたくさんお話してくださりますし」



そう言って、ほぼ流し込むかのようにお茶を一気飲み。
そして今度は自分でお茶をつぐと、はジャンの方を向いた。



「ジャンは?
もともとこの国のお貴族様で、陛下に謁見した感想とか、首都の状況とか見てどーよ?」

、貴族に”お”はつけなくていい。
…そうだな。陛下はマリアに聞いた通りの人だな。

首都については、大通り以外の小道や裏通りもきちんと整備してあるし、商店街もよく栄えている。いい街だと思う」



二人の会話に「おや」と零したのはジェイドだ。



「ジャンはグランコクマの人間でしたか。
それにマリアというのは、以前宮殿に仕えていた第七音譜術士ですか?」

「はい、そうです。
彼女は宮殿を辞めた後、うちの専属として働いていました。今はどこにいるか、わかりませんが」



ジャンの言葉に「おやおや」とまたジェイドは零す。
このおっさんはおどころくことが多い。



「あなたはハリス伯爵家の御子息でしたか」

「…?ジャン、ハリスって何」

その食べれるのか、的な目を辞めろ。
ハリスは俺の姓だ」



軽々と言ってのけたジャンに対して、が目をまん丸にした。



「ジャンって苗字あったの!?」

「むしろ貴族で苗字がないことがおかしいだろう、普通」
「つかジャン・ハリスってさえねー」

「お前、なめてるだろう俺のこと」



真顔で「いやいや、ジャンはハリスって顔じゃないよまぢで」と云う
生まれながら持ってる姓に対してそんな顔じゃないといわれてもどうしようもないのだが。



「つか初めて知ったんだけど。書類とかにも書いてないよね?あれ、あたしが読めてないだけ?」

「いや、書いていない。
ハリス家の息子だと知られると、いろいろやかましいことになるからな。伏せている」

「ハリス伯爵家はグランコクマでも三本指に入りますからねぇ」

「ジャン殿も、大変でしょう」



ジェイドとアスランの言葉に、本当にジャンが超大金持ちの息子だということを実感させられたは、「うへぇ」と零した。



「ジャンってなんか、金持ちでイケメソで銀髪でマルクト士官学校卒業してて第七音譜術士でオラクルの師団長補佐とか…
なんかウザ

「なんだその身も蓋もない罵倒は」


「えーだってさーなんかさーそれって超エリートでことでしょ?
これで無愛想で仏頂面じゃなかったら完璧パーぺきってことでしょ?やっぱウザい以外の何者でもないよ

「とっても褒められてますねージャン」

「カーティス大佐、これは褒められているのではなく完全にけなされています



相変わらずのジャンの真顔の突っ込みに、アスランが笑い転げている。



「もーアスランさん笑いすぎですよー。
あ、ジャンお肉二皿追加ね、お野菜も二皿追加、あとお茶なくなった。頼んできてくんない?」



根っからの世話焼き男児は、すぐさま立ち上がって従業員のところへ行ってしまった。
その間にも、はばくばくと肉とご飯を口に突っ込んでいる。



「まるで犬ですな」

「どっちかっていうと、親と子どもじゃありませんか?
もちろん、が子どもですけど。…と陛下がそろって二人に板ばさみなんて、本当に手に負えなさそうですね〜」



後日、ジェイドの言葉が的中することとなる。



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小説の方を呼んだら、アスランさんが意外と普通のひとで普通の喋り方だったことにびっくりした…
でも今さら変えるのめんどうだし、なんか喋り方だけでも特徴ないと消えちゃいそうなんで、うちのアスランさんは某系の喋り方のいじられキャラで(←



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