ドリーム小説
「くそぅグリムめ…、最初から撒くつもりだったな!」
「どうりでと一緒に居るなんていうと思った」
「バカ+バカは不毛でしかないと思ってたけど、まさか罰掃除からの逃げ道につかわれるとは…次は羽交い絞めにして連れ歩いたる」
「やったれやったれ」
忙しなく口は動くけれど、もも全身ズタボロだ。腰が痛いし、砂埃はすごいし、腰は痛い。草むしりって本当にしんどい。
「除草剤撒けばいいのに」
「錬金術で使うから無理なんじゃ? 効果が変わるとか」
そもそもこの世界に除草剤がないとか。じゃなきゃ今日の私たちは何だったんだって話に――
キュッキュッと。
の言葉に、学生時代聞いた覚えのある音が重なる。キュッ、キュッ。スニーカーが床を蹴る音に、二人揃って首を巡らせた。
「バスケ部だぁ。エースいるかな?」
「あれがエースじゃ? …ホラあの、今ボール取ったヤツ。あ、あれ、ジャミル先輩だ!」
「フロイド先輩がいないな」
「サボりじゃ? っていうかめっちゃ青春感ある絵面なんですけど。こんなの学生時代だって見た覚えがないよ」
「この学校ってさ、魔法士の卵が通ってるとは思えないほど普通の部活が多いよね。バスケ部とか、陸上部とか」
「軽音楽部とか?」
「そうそう」
は木陰に。は草に隠れて、汗水流す青少年たちを眺める。
ジャミルがタオルで汗拭いてるぅぅううう、いけめぇえええん! ありがとう神様! そしてありがとう! …だがしかし…
「………なんかこうしてるとさ、益々犯罪臭がしてくるよね。男子高校生の部活覗いてるんだもん、通報される事案だよ」
「言うな。今の我々は身体は子ども、頭脳は大人」
「その名は名探偵」
「なにしてんの? 小エビちゃん」
「「ギャ――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!」」
すぐ後ろ。すぐ後ろからもんのすんごい良い声が聞こえた。ヒィヒィ言いながら耳を押さえるは、草場から身体半分突き出ている。かくいうも、尻もちついた拍子にガラスの腰を強打していた。
「フロイド先輩、なぜここに」
「オレ? オレはね〜ぇ、部活つまんねーって思ってたら小エビちゃんたち見つけてぇ。なに二人でおもしれぇ事してんの? ビクって震えて、稚魚みたい」
「え、じゃあバスケしてたって事ですか!? マジでどうやって…! 瞬間移動かっ」
耳から孕む!と叫ぶの声が聞こえて来そうだ。分かるぞ妹よ。ただわたしは身ごもる前に口から心臓飛び出て、先に死ぬ運命だったようだ。腰が痛い。
ハハッとエースの声が聞こえて来る。
「何やってんの、監督生。バレバレだって」
「エース……。……気付いてたなら、もうちょっと穏便に教えてよ」
「ヤだよ。フロイド先輩の機嫌損ねると面倒だしぃー?」
「そもそもそんな所で覗き見ている方が悪い。ここにカリムが居たなら、刺客を疑った所だ」
「刺客って、そりゃカリム先輩居なくて命拾いしたね、姉ちゃん。………?」
「…………立てない…」
「マジかー」
這う這うの体で体育館まで行って、冷たい床にへたり込むの傍らで、切り替えの速いは応援モードだ。
「行け! エース! そこだ!」
まあ応援に熱が入る気持ちも分かる。
ゲームが再開されるなりフロイドは爆走状態で、スピードもさることながらとにかくシュート数がすごい。
「ちょ、フロイド先輩…! さっきまで全然やる気なかったくせに…っ」
「だってカニちゃん、小エビちゃんに良い所見せようって必死で超ウケる。邪魔しちゃお」
「クッソ!」
唯一フロイドに食らいついているのがエースなのだが、完全に振り回されている。
絶好調のフロイドを遠巻きにしておきたいその他の気持ちの方が分かるは、
「いけー」
「がんばれー」
と小さな声で応援していると、雑に汗を拭っているエースの背中をジャミルが叩いた。
「エース、闇雲に突っ込んだ所で、フロイド相手にどうにかなるものでもないだろ」
「そりゃそうッスけど! ジャミル先輩だって監督生に良い所みせましょーよ! 仲イイんでしょ!?」
「良い所見せなくてもカッコいいぞ、エース!」
「うっせぇ! 外野は黙ってろ!」
「なら…まあ悪くはないが…」
心臓が止まる。
スカラビアの一件を経て、学内で顔を合わせてもスルーだったジャミルが挨拶をしてくれるようになった。
それだけでも心臓に悪いというのに、余裕がある時は料理を教えてくれたりする。しかも一日の出来事を聞かれたりして、勉強の心配もされる。
その度には内心シャウトしているのだが、
仲は悪くないと言質を貰って、感極まった脳内が絶賛万歳三唱だった。
そんな中、もはや何点目か分からないフロイドのシュートが決まる。
それを眺めながらジャミルは、顎に手を添えると「ふぅん」と零した。
(いいんです、いいんですジャミル先輩。
先輩がそこに居るだけで美しい。同じ空間で呼吸が出来てマジ幸せ。推し。推しでしかない。美人)
審判がボールを投げて、フロイドが取る。
もう何回見たか分からない光景で、
フロイドの手の中にあるボールがふと消えた。
ジャミルがボールを持っている。フロイドがそれを追いかける。あっという間に距離を詰めるフロイドがボールに手を伸ばした瞬間、ジャミルが跳んだ。
随分先にあるゴールまで、吸い寄せられるようにボールが弧を描いていく。
ぽすん、と音を立てて入ったボールに、は息を飲んだ。
「あばばばばばばばばばばばばばば」
「語彙力が死んでいる…だと…」
「ジャミル先輩、ずりぃ!」
「何を言ってるんだ、エース。たまたまだ、たまたま」
「はい出た絶対嘘! くっそ、何なんだこの先輩たち!」
「いぃじゃんウミヘビくん! もう一回やろ!」
「だからフロイド、たまたまだと言ってるだろう」
ジャミルのシャツを掴んで憤慨するエースと、その肩に顎を乗せるフロイドの笑み。そんな光景を前にして、とはいたく自然にお手ての皺と皺が合わさった。
「何これ尊い。ここは天国か」
「てぇてぇ。神様ありがとう、そしてありがとう」