ドリーム小説 すやすやと寝息を立てているを、向かいの席で頬杖ついて眺める。何分くらい経っただろうか。起こしてやったほうがいいのは間違いない。でも起こす気にはなれない。起こしたら起こしたで、終わらない課題を再開するに違いない。それを思うと、なんとなく面白くなくて、起こしたくなかった。





図書室に足を運んだのはただの偶然だった。魔法歴史学で出された課題にまだ手をつけていなくて、そういえば、なんとかって本読めばその課題結構解けるぞ、とトレイ先輩が教えてくれたのを思い出した。

ふらりと図書室に立ち寄ってお目当ての本を探そうと辺りを見渡していると、教科書と参考書を机いっぱいに広げて必死の顔でプリントに向き合っているを見つけた。


「あれ、じゃん。あ、それこないだクルーウェル先生に怒られた時の課題だろ?まーだ終わってなかったわけ?」

「エース。いやこれ3日で終わる量じゃないんだってマジで。まず文字を解読するのにすら時間がかかるってのに…読み書きに困らないエースでも1週間はかかる課題だよ?もーークルーウェル先生の愛の鞭が痛すぎるッ」



ガシガシと頭をかいたは、一瞬だけエースへ上げた目線をプリントに戻した。ブツブツと呟き、プリントに何かを書いては消し、また書いていく。としては先ほどの一往復で会話は終わったらしい。すっかりエースの存在は遮断されてしまったようだ。


ま、別にいいけど。


エースは目的の本棚へ歩いて行って、人差し指で整列している本の背表紙を撫でる。うっすらと記憶にあったタイトルと一致する本を見つけた。その本を抜き取って、なんとなしにの目の前の席を陣取る。

机の上は隙間なく本とプリントに埋め尽くされていて、その隙間に両肘だけ陣取って本を開く。それから課題に出ていた内容を思い出しながら、解説されていそうな部分に視線を走らせた。


それから30分した頃だっただろうか。すぅ、すぅ、と規則正しい音が聞こえてきて、本から視線を外すと、がプリントの上に突っ伏して寝ている。「んだよ。結局寝てやんの」け、と悪態ついて、読んでいた本を、の放り出していた本の上に乗せた。それからなんとなしにの寝顔を眺めていた。


コイツとその姉の
物珍しい魔法が使えない人間が入学したらしい。そう聞いて、ちょっとからかってやろうと思ったのが、思えば運の尽きだった。

散々、振り回されてばかりだ。
そりゃ自分やデュースが撒いた種もあるけれど、ほとんどはコイツらだ。何にもできないくせに首を突っ込みたがる。文字も読めなかったくせに必死で勉強についてこようとする。人のこと散々巻き込むくせに、どんどん新しい人間を惹き寄せる。


「…おもしろくねー」


コイツに課題を渡す時のクルーウェルの顔。アレは期待している奴にしかしない。この間部活であった時にの話をしていたフロイドの顔。いつになく上機嫌だった。


全くもって起きる気配のないの額に、軽くデコピンをかましてやった。ガバ!と飛び起きたが、両手で額を押さえながら目をまんまるにしてエースを見ている。



「ね、…寝てた?」

「寝てた。しかもそこの回答、綴り間違って違う答えになってっし」

「え?!どこ?!」



が慌てて身を乗り出し、エースの前にプリントを寄せる。ふわりと風が舞い上がって、ほんのり甘い匂いが鼻をくすぐった。「あー、ここ」気のない雰囲気でプリントの1箇所を指さすと「わ、ほんとだ」とはプリントを持ち上げて椅子に座り直した。遠のいた香りに名残惜しさを感じたのは、きっと気のせいだ。


「てかそれ、おわんないんじゃね?」

「う…やっぱり?誰か先輩に聞くかなぁ…。いっそクルーウェル先生に聞きにいくか…」


降参、と言いたげに首を横に振ったに「は?」と自分が思っていたよりも幾分低い声が出た。キョトンとした顔でがこちらを見る。



「もっと身近に聞けるやついるじゃん」

「…え?もしかしてエースのこと言ってるわけじゃないよね?」

「はぁー?オレじゃムリって言いたいわけ?
その時の授業、オレはお前と違ってちゃんと出席して聞いてたし。ノートも取ったし。課題自体は…まぁオレもちょっとは考えないとわかんないかもしれないけど?よりはわかるね絶対」



話しながらだんだん腹の辺りがムカムカしてきて、拗ねたような口ぶりになってしまった。睨みつけるようにを見ていると、彼女はふっと吹き出した。「なんだよ」突然気恥ずかしくなってきて、唇を突き出してそっぽを向く。


「いや。ごめんね。そーだった、私には頼れるマブがいるんだったなって反省したの。


ありがとう。エースがいてくれてよかった」


顔の向きはそのまま、横目でを睨む。ホント、コイツは。わざとらしく大きなため息をつきながら、席を立った。のしのしとゆっくり歩いて長机をグルリと迂回しの隣の席に座る。



「マジでお前たまーに寒いこと言うよね。デュースに負けてない」

「あらぁ、お年頃の男の子には恥ずかしかったかしら??」

「んでたまにすげぇババアみたいなこという」

「ぶっ殺すぞクソガキ」

「教えてもらわなくていいんですかねぇ?」

「う、すんませんしたッ!」



「わかればよろしい」と言いながら、の方に身を寄せてプリントを覗き込む。肩がぶつかって、すぐ真横にの顔。さっきと同じ、少しだけ甘い香り。ほんっと、全く意識もしてねぇからなこの女。




「どれわかんねーの」

「んと、こっからここが課題はわかってるけど解き方がわかんなくて、こことここは何が書いてあるか解読不可能」

「んー。じゃあまず課題内容わかってないところからしよーぜ。文字わかったら解けるとこもあるっしょ」

「うん!おなしゃす!」




あーあ。オレってほんと優しい。


「はいはい。明日ランチ奢れよ」

「もち!ほんと、エースとマブでよかった!」


そんでもって、最近わかったけど
恋愛はあんまし上手くないかも。