ドリーム小説 「あ、ジャック発見!」



中庭を横切ろとしていたがこちらをピッと指さしたかと思えば、駆け寄ってくるなりジャックの座るベンチに並んで腰掛けた。「何してんの」「別になんでもいいだろ」「なるほど日向ぼっこね」筋肉質な太腿の上に乗せられた本は両手を広げた状態で伏せられている。

「サバナの人ってわりかしぽやーっと外にいるのよく見かけるから」

気性は荒めの癖に日向ぼっこは好きなところホント動物っぽい、とこの間に言ったら「それ絶対サバナの人の前で言っちゃダメ」と凄まれたのを思い出し、はそこで口をつぐんだ。

ジャックが何も言い返してこないところを見ると、どうやら日向ぼっこで間違ってはいないらしい。

「他の奴らは」と尋ねたジャックに「補修?」と答えてから、うーーんと大きく伸びをした。


「私もバイトまで日向ぼっこしよーっと」


スクールバッグを膝の上に置いて、教科書を取り出す。ぱらぱらと広げられたページにはジャックの知らない文字と横文字が所狭しと並んでいる。


「お前、異世界から来たんだったな」

「えー、なにそれ今さら?」

「なじみ過ぎててたまに忘れちまう。そういう見たこともねえ文字とか見ると、そういやそうだったって、思い出すんだよな」

「あはは。浮いてないならいいことだね。は?」

「アイツはアイツで馴染んでんだろ。
補修言い渡された時4つ同じ顔が並ぶのも見慣れたしな」


あちゃー、ジャックに4バカばれてっぞー。
は笑顔で「わかる」と頷いた。フォローはしない。あのガーンな顔が4つ並ぶのをいつもにやけ顔で見ているからである。



「今度さぁ、オンボロ寮で課題合宿しよってエースが盛り上がってデュース巻き込んでるんだけど、ジャックも来る?焦り顔が4つ並んだの見れるかも」

「フン。気が向いたらな」



とかなんとか言いながら絶対来てくれる。ジャックってそういう可愛い奴なのだ。それからポツリポツリと、気が向いた時に話をして、気づけば




「おいジャック。なんだソレは」

「うっわー、爆睡。ヨダレ垂らされてないっスかジャックくん。シシシ」




肩にもたれかかって小さく口を開け爆睡しているを横目で見下ろしてから、ジャックは眉間の皺を寄せた。「笑ってないで助けてくださいよ先輩方」

かれこれ10分ほど前からこの状態だ。は鞄を抱きかかえて、右手に持つ教科書は今にもその手からこぼれ落ちそうだ。
ジャックも何度か声をかけたり揺すったりしてみたものの全く起きる気配がなく、だからといって立ち上がったり逆方向に倒してしまうのも何となく出来ずにいた。

そこに通りがかったのは部活のためにグラウンドへ向かっていたレオナとラギーで、もちろんそこに参加する予定のジャックが困った様子でベンチに座っているのをからかいに来たようだった。

ジャックのヘルプに「なぁんでオレ」がと肩をすくめたラギーに反して、レオナがに歩み寄った。ポケットに両手を突っ込んだまま屈んで、イジワルそうな笑みをしたままの寝顔を眺める。



(あーあ。オレ知らないっスよー)



ラギーは両手を頭の後ろで組んでそっぽを向いた。レオナにしてみれば普段の仕返しくらいのつもりなのだろう。間抜けな寝顔を1分ほど眺めてから、徐に右手をポケットから出してデコピンをかます。



「あだ!」



ビク、と反応してから、グリムよろしく口をむにゃむにゃと動かし目を擦る。「ごめんジャック、寝てた」ふやけた声で呟き瞼を開くと、視界いっぱいにレオナの顔。



「れ、」



一文字だけ発したまま固まってしまったに、レオナが口の端っこを気分よさそうに持ち上げる。



「ぼーっとしてると食われるぞ、草食動物」



たっぷり3秒ほど間を置いて、ん゛ん゛!と変な咳払いをしたは「い、以後気をつけます」と言いながら斜め下の方に視線を移動した。その仕草にシュタン、とレオナの尻尾が面白くなさそうに地面を叩いた。

フン、と鼻を鳴らすと「おい、行くぞラギー」と告げてさっさと歩いていくレオナ。「あーあ」と漏らしたラギーはチラリとの生存を確認して「死ぬなよー」と小声を飛ばすとレオナの後を追いかけていった。



「…私、生きてる?ジャック」

「は?生きてるだろ」

「息してる?」

「…レオナさん、結構加減してたと思ったが痛かったか?」

「大丈夫。ありがとう、ありがとうございます」

「おい、本当に大丈夫なのか?」




突如会話能力が低下したに困惑するジャック。
はその後アルバイトに行くまで目を両手で覆ったままピクリとも動かず、心底心配したジャックはアルバイト先のサムズショップまでふらふらのを送り届け、部活には遅れて行った。


(あーりゃりゃ、ジャックくんってばお人好し〜)