「ゲンザイ コノ デンワ ハ ツナガッテ オリマ セン」 ガッシャーンと音をたてて受話器を置いたは、寸ともせぬ間に鳴り出した携帯に「ひぃいい」と悲鳴を上げた。 「もうマジ無理ムリむり!!いやだァアアアァ!」 携帯には”跡部景吾”の発信者名。 見たくもないホラー映画を突き付けられたような顔で携帯を見たが半泣き状態で耳をふさいでいると(電源を切る度胸はない)、 風呂からあがって来たが「何で取らないの?」との携帯を手に取った。 「うわ!?…ッ」 「あほべ様じゃん」 ちらりとこちらを見たに、恐ろしいスピードで首を横に振って出るなと言うサインを送る。 きょとんと瞬いたは携帯とを見比べると、見るも鮮やかな笑みを浮かべた。 「昨日から妙にソワソワしてるなぁと思ってたけど…姉ちゃん、何か隠してるよね?」 「…え」 「面白いこと、隠してるよね?」 うふふ うふふふふ 「はいもしもし「ギャァァアアアアア!!!」」 悲鳴をあげてから携帯電話を奪い返そうとしたを華麗によけ、 彼女は「面白いことなら何でもおっけー」と、内容も聞かずに承諾を出したのだった。 【プロローグ】 「学プリ?」 「…うん」 何故正坐しているのか いやはや隠し事をしていた(更に最悪な状態でバレた)後ろめたさに、何となく正坐をしていただったのだが、五分もせぬ間に足を崩した――痺れた… さりげなくふくらはぎを擦っている彼女を横目で見つつ、は「何で今頃」とカレンダーを見る。 「学プリって確か夏休みの話じゃなかったー?」 「うん。でもホラ、夏休みは夏休みでドキサバがあったじゃない?ンで、全国大会が終わったこの時期に企画を回したんだって」 「へー」 んで? 本題を要求したからあからさまに視線を逸らすと、「それで?」と追及の手がさらに伸びた。言い逃れはさせないつもりらしい。 抵抗しようとも思ったのだが、 結局返事をしてしまったことには変わりないのだし(その後電話をしても取りあってもらえなかった人)、仕方ないのかなぁとは重い溜息を吐きつつ口を割った。 (このまま黙秘していても、カツ丼は出てこないしなぁ) 「学園祭で」 「うん」 「歌って欲しいって」 「…ふーん」 意外に淡白な返事である 「…そんだけ?」 「いや、むしろ姉ちゃんが何でそんなに嫌がるか分かんないんだけど」 「だって!人前で歌うのはもう勘弁なんだってば!」 「別にいいじゃん。姉ちゃんの度胸なんてそもそもないんだから、減ることもしないし」 ひどい言われようだ。まあ今に始まったことではないのだが。 が押し黙ると、は「何だそんなことかぁ」と拍子ぬけしたように冷めたお茶を一口飲んだ。 「じゃ、じゃぁさ!そんなにたいして面白いことじゃないならさ!断ってもよくない!?」 「……あきらめ悪いよね」 さぁ電話しよう、今しようと携帯を持ち上げようとしたの手をパチンと叩いて、 はチッチッチと指を横に振ると、ニヤリと口端を持ち上げた。 「姉ちゃん、面白いことって言うのは、機会さえあればいくらでも作れるものなのだよ」 楽しみだなぁ ウキウキと席を立って部屋から出ていくの後ろ姿を見送りつつ、「ですよねー」というくらいの気力しかには残されていなかったのである。 → |