「家もある、お金も長期滞在にならなければ何とかなります。問題は家事です」
ちなみに今晩の食事は出前の寿司だ。
と忍足はラーメン位でいいのではないかと言ったのだが、これに異を唱えたのはもちろん跡部で、
「俺様にラーメンを食えってか、出前寿司を食べるだけでもありがたいと思え」と、寿司ひとつに無駄な金持ち根性を見せた。
はたはたこれから先が思いやられる、とは心の中で軽くため息をつく。
「私がしようかなと思っていたのですが、学校に行くとなるとやはりひとりで家事負担はキツイかと・・・」
「基本的な家事くらいなら俺も出来るで」
それは助かりますと安堵したが腕を組んで椅子に座っている跡部を見、忍足も視線を向けたが、
ものの数秒もしないうちに「それじゃぁ二日交代と言う事で」と話の筋を戻した――「待て」
「大丈夫です。そもそも跡部君に期待はしてませんから」
「あぁん?大体、いちいち作んなくても出前でいいだろうが」
「そんなお金の使い方してたら生きていけませんって。いつまで滞在するようになるか分かんないんですよ。
今の言葉を聞いての通り、跡部君に財布持たせるのは禁止ということで」
「跡部、さすがの俺もフォローできへんわ」
何ともいえない表情をした忍足を見て、眉根を持ち上げた跡部は「そもそも」と彼を睨む。
「何でてめぇと一緒に暮らさなきゃならねぇんだ」
「そんな事言われてもな、俺も一緒に来てしもうたんやし」
「大体、てめぇが図々しく部室に居座ってなきゃ今頃ッ」
二人暮しだったんだぞ!と言えるはずもない跡部が苦渋を飲むと、暗に言いたい事の分かっている忍足は逃げるように視線を泳がせた。
忍足に罪はない。不穏な空気を肌で感じたは、慌てて口を挟んだ。
「でも、私は忍足君が居てくれて凄く助かるよ」
どかんと跡部の地雷が爆発して、彼はギッとを睨む。
「俺様だけじゃ不安だってのか」
「今までの会話で跡部君のどこが安心なんですか。私だってまさか忍足君が居て助かると思う日が来るとは思いませんでしたよ」
「、お前にとって俺って随分都合のいい男なんやなぁ・・・」
ほろりと涙を拭う振りをした忍足に「褒めてるんですよ」とは茶をすすると、改まって口を開いた。
「と、言う事で。家事は主に私と忍足君が二日交代で担当。跡部君はまずごみ捨てと風呂掃除からはじめましょう」
「跡部がごみ捨てと風呂掃除なぁ・・・
まぁ、金も限られとるし、いつもみたいに世話焼いてくれる執事もおらんしな。いい世間勉強なんやないか?」
ごみ捨てと風呂掃除という未知の領域だが、やるからには最高の働きで見返してやりたい。
色々とシュミレーションしている為仏頂面に見える跡部の耳元に忍足は口を寄せた。
「跡部、ここでの経験は結婚生活の練習になるで」
「あぁん?」
「は豪華なものに囲まれん普通な結婚生活を望んどるはずや。ああいうタイプは夫のさり気ない手伝いにぐっとくんねん。
ここらでええとこ見せ取ったら、きっときゅんとくるはずやで」
「やってやろうじゃねぇか」
突然張り切った声を上げた跡部を見て瞬いたが、「忍足君何言ったの」と問うと、「禁則事項や」と彼はニヤリ笑う。
デカイ図体でみくるちゃんのマネするな、とツッコミを入れたものの、まぁやる気になってくれるに越したことはない。
跡部のやる気はいつも予想以上の力を発揮する。
たいがいの確立で空回りしているが
「じゃぁさっきの通りの役割分担で行きましょう」
「ああ」
「後、学校では話しかけないで下さい」
「ああ・・・あぁん!?」
「忍足君もです」
「なんでやねん」
ずずっとお茶をすすったは、「目立ちたくないからです」と言い切った。
「それとも、お二人とも目立たずに学校生活を送れる自信がありますか」
尋ねている割に、無理だと言わんばかりの瞳で見られた跡部と忍足は視線を逸らす。
「俺は跡部と違って目立とうと思って目立っとるんとちゃう。天才っちゅーのは、自然と人をひきつけてしまうもんなんや」
「寝言は寝て言ってください。とにかく、話しかけないでくださいね」
んじゃぁおやすみなさい、と立ち上がって部屋に戻った彼女が去ってから、忍足は跡部に首を巡らせた。
「跡部、せっかく同じ学校通えるのに、憧れの学園生活は遠そうやで」
「・・・」
夢の学園生活は果たして訪れるのか、どちらにしてもまだ遠そうだ
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