ひゅるひゅると風が音をたてて耳元を通り過ぎて行く。
は落ちる体勢のまま手をあごに当てて上を見上げながら、「あちゃー落ちてるなぁ」とのんきに呟いた。
その後下を見ると、見たことのある大きな建物が地上に居座っている。
「あ、ダアト」
と呟いた瞬間、頭と足が逆転して頭から落ちる体勢に変わってしまい、「あちゃーやばいなぁ」とはのんきに呟く。
だんだんと地上が近くなって、このままでは頭ゴンッ!でトリップしたのに意味もなく死んじゃうよ(笑)と言う感じだ。
いや、笑い事でもなんでもないのだが。
どうしようか考えているうちに地面まであと二メートルとなった。
するとピタッと身体が空中で静止して、くるりと頭を上になってまた落ち始める。
ああ、やっぱり見習いでも神様なんだね…。(<信じてなかったの!? by神様見習い)
どすっと尻もちをついて地面に着地し、はのんきに空を見上げて数十分過ごした。
青い空、それを切り裂くように飛ぶ鳥、気持ちがいい風と心地よい日差し。
戦争が起こっている世界とは思えない。――とはいえ、ここはダアトだから被害もくそもないはずだが。
「ねえ君何してんの」
不意に声をかけられてゆっくりとそちらを向くと、イオンが立っていた。
だが彼の口調はが知っている彼のものとは全く別物で、どちらかというとシンクの方が似ている気がする。
「ちょっと、返事ぐらいできないわけ?ムカツクなぁ」
「空見てるだけじゃん。そんなに短気だと人生損しちゃうよ、イオン」
彼はビックリしたような顔をして数分固まると、ふん、と鼻で笑って「僕のこと呼び捨てにするなんてイイ度胸だね」と言った。
なんてナルシストなんだコイツ、いま一瞬泣きボクロが脳裏をよぎったぞコノヤロー。
「君名前は?」
「…」
イオンは眉を寄せて、「無愛想ってよく言われるでしょ」と不機嫌そうに言ったが、「まあいいや」と呟いての手をとった。
「君気に入ったからおいで」
01.「vsナルシスト」
何だかんだ言って面倒見のよさそうな彼は、の手を引いて教会に入ると彼の私室へと連れて行った。
そこにはアリエッタがの記憶と同じ姿のまま立っていて、「その人だれ?」とイオンに聞く。
「さあね。アリエッタ、僕は仕事があるからちょっとこの人の面倒を見てやってくれる?その時にこの人が誰なのか聞けばいいよ」
出て行くイオンを見送った後、アリエッタはのもとに駆け寄ってきてその手を引き、椅子に座らせると自分も向いの椅子に座った。
「お名前はなんていうですか?」
「だよ、よろしくね」
笑ってみせると、彼女もニコニコと微笑んで抱いていたぬいぐるみの名前を教えてくれた。
そして自分の名前も言うと、「、イオン様に好かれてるですか?」と子どもらしい質問を投げかける。
「さあ?さっき会ったらここに連れてこられたからね。
あ、大丈夫だよ。別にイオン…様をどうこうしようとかいう目的で付いてきたわけじゃないからね。」
さっき会ったばかり、という言葉を聞いて怪訝な雰囲気を表に出したアリエッタに苦笑を零すと、「そう?」と言って少女はきょとんとした。
やはりイオンは狙われたりすることが多いんだろうかと思っていると、「、どこから来た?」と聞かれる。
「そうだな…。ここから、ずっとずーっと、遠い場所」
不思議そうな顔をしたアリエッタだったが、「そうなんだ!」と笑って席を立つ。
数分部屋を出て、帰って来た時には熱い紅茶とお菓子を持ってきてくれた。
「このお菓子、イオン様とアリエッタがお買い物に行った時アリエッタのためにイオン様が買ってくれた。
とってもおいしい。にも食べてほしい」
どこか片言なのは、人間ではなくライガに育てられたせいもあるだろう。
お菓子を一つ貰うと、甘すぎなくてさくっとした触感がとても美味しい。ついつい笑顔がこぼれてしまった。
「おいしい?」
「うん、とっても」
アリエッタは嬉しそうに「アリエッタのこと好き」と笑う。
自分もお菓子を頬張ってピンク色のほっぺたを零しそうにしながら「おいしい」と呟く。なんて可愛い小動物なんだ。イオンも惚れるわな。
「ただいま…、って随分仲良くなったみたいだね」
なぜか嫌そうな顔をしたイオンだったが、「アリエッタ、僕にも紅茶淹れてきてくれるかい?」と頼むと自分も椅子に腰をおろして疲れたのかため息をついた。
アリエッタはイオンに頼まれて、パタパタと駆けながら部屋を出て行く。
「ねえあたしって君に好かれてるの?さっきアリエッタに聞かれたんだけど」
「さあ?さっき会ったばっかりだからね。よくわからないよ」
なんて適当な奴なんだこいつはッ!
優雅にお菓子をつまむイオンに心の中で突っ込みを入れてみるが、口にするとせっかく見つけた宿(の予定)を自分から捨てるわけにもいかないので止めておく。
「君、すごく健康そうだから捨て子のようには見えないけど、そんな服見たことないし僕の事呼び捨てにするってことはダアトの人間じゃないんだろう。
荷物が一つもないっていうところからしてお金は持ってなさそうだからね。
なんか面白そうだったし、興味本位でここに連れて来ただけだけど、何か悪かった?それとも、ここが宿っていうのは嫌?」
あまりに的確な推理につい目を丸くしたをふふん、とイオンは偉そうに鼻で笑うと、「僕は頭がいいからね」とこれまた偉そうに言った。
「ホント、ただのムカツクナルシストなわけじゃなかったわけだ」
「…君のその口一回縫ってあげようか」
笑顔で「結構です」と遠慮すると、丁度アリエッタが返ってきてイオンに紅茶を差し出す。
「ありがとう」と彼は笑顔で礼を言って(やっぱりイオンはアリエッタが大好きなんだろうな)、その紅茶を優雅に飲んだ。
「ところで君…えーっと、名前なんだっけ。…?は、これからどうやって生活していくつもり?
ずっとここを宿にされても僕が困るんだけど」
すばっというなぁ、コイツ。
一瞬むかっと来たが顔には出さずにしばらく答えを考えて見たが、やっぱりこれしか思い浮かばない。
「神託の盾に入りたいです、師匠!」
面倒くさそうに眉間に皺を寄せたイオンは「いつ誰が君の師匠になったのさ」と言った後、「ていうかどうでもいいよ。勝手に入れば?」と軽くあしらう。
お前が聞いたんだろうがッ
「へーへーそうですかー」
顎をしゃくって返事をすると、イオンは面白そうに笑った。
その笑顔だけは、年相応だったなんて死んでも口にしないでおこう。(言ったら殺されそうだ)

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