「神託の盾騎士団に入るって言ってたけど、入団するには士官学校卒業証がいるよ。
アリエッタが今年士官学校に入学するから、君の分も一緒に出しといた。
明日入学式だから、アリエッタに連れて行ってもらいなよ。その代わり、アリエッタの事ちゃんと面倒見てよね」
わかった?と念を押されてはつい頷いたものの、早速明日入学式と言われて内心焦っていた。
アリエッタはどうやらヴァンに拾われ六神将になったものの、特例として士官学校を卒業せずにいたらしい。
しかしアリエッタがイオンに出会って彼になついてから、彼女は導師護衛役を兼任するために入学することを決めたそうだ。
なんて健気なんだ。こんなナルシスト野郎でも本当にアリエッタは大好きなんだろうなぁ
「アリエッタ、導師護衛役になる!だから学校入学するです!
一緒に入学する、楽しみ」
それでも、嬉しそうにはしゃぐアリエッタを見ると心が和んだ。
イオンが言うには、士官学校は一年で卒業できるらしい。
入学してから一週間は仮クラスで基礎知識と中級譜術までを身につけ、その後クラス分けテストが行われる。
クラス分けテストで決定されたクラスで二ヶ月間で基本の武術、上級譜術を学び、そして本試験でもう一度クラス分けが行われる。
テストでは1から20のクラスに分けられるが、本試験では成績順の20のクラスの他にもう一つ、特別クラスが出来るらしい。
その特別クラスには、基本的に入学から二ヶ月間の中で特に成績優秀の者、
本試験の前日に調査される希望調査で第七譜術師、導師護衛役を希望した者が入れられる、ということだ。
それにしても、今年だけで入学生が300人っていうのは、すごいな…
これを十年続けただけでも騎士団には3000人の人間がいることになる。
そんな大人数の中で今現在六神将のアリエッタは、よっぽどすごい逸材なのだろう。
はちらりと隣に座っているアリエッタを見た。
彼女は至って真剣に話を聞こうとしているのだが、どうやら睡眠欲が勝るらしい。船をこぎこぎしている。
大して耳にも入ってこない教官の話を右から左に受け流しながら、も早速仮眠をとることにした。
案の定アリエッタとは同じクラスになれなかった。
アリエッタは悲しそうにしていたが、どうにか慰めてついた先は20組。仮クラスでも一番最後ってのも何か劣等感を感じるものだ。
クラスの表札を見ながらそんなことを考えていると、ふと影が落ちる。
「おい、どけ」
振り向くと不機嫌そうな若い男が立っていた。
コイツディストと同じ銀髪だッ!
「あ、ごめんなさい」
その男は無愛想に返事もせずさっさと部屋に入っていく。なるほど、同じクラスなのか。
派手だな、と思いながら自分も部屋に入って席に着くと、点呼が始まる。
「ジャン」
「はい」
なるほど、アイツの名前はジャンか。なんか前にもどっかのアニメでそんな名前聞いたような聞かなかったような…まあいいか。
「」
「はい」
よーし、なんか派手でうけるからアイツナンパしてみようかなー。友達は多い方がいいしね。
「それでは、まず…」
02.「vs銀髪無愛想男」
士官学校に入学してもうすぐ一カ月が過ぎようとしていた。
授業のスピードはカメほどのろまだが(近くの男子がそう言っていた)、生憎にとってはチーターのように早い。
そのため、授業に追い付くのに必死で銀髪男を未だナンパ出来ずにいる。
まず第一に焦りを感じたのが、文字だ。
そういえばまったく使っている文字が違うんだった、なんていまさら思い出しても遅かった。
とりあえずノートだけとって、帰ってからアリエッタやイオンが暇な時に教えて貰ったり、(アリエッタは片言な割に文字をすらすら書く。イオンは相変わらず鼻で笑う)
ダアト内で一番大きい図書館へ行ってちっちゃい子ようの文字の本を借りて勉強したりと、大変だった。
だんだん文字にも慣れて来たと思ったら、すぐに譜術の訓練に入った。
唯一の救いは、武術の訓練は二ヶ月目から始まることだ。
譜術は名前とどんな感じで術が起こるかさえわかっていれば、このネックレスが何とかして術を発動してくれる。
なんて便利な道具なんだ。ありがとう神様見習い。
やっぱ見習いでも神様なんだね…。(まだ引きずるのッ!?)
とか何とか言っている間に一週間が過ぎた。
今日はクラス分けテストの日である。
この日には、神託の盾の主席総長であるヴァンが出席することになっている。
あいつ嫌いなんだよなー、と思いながら椅子に座って順番を待っていると、隣の会話が耳に入った。
「今日は、なんかしらね―けど急に導師イオン様がご出席なさることになったらしいぜ」
「ああ、知ってる知ってる。緊張するよな。…でもなんで今回だけご出席なさるんだろうな、イオン様」
あいつ、ゼッテーあたしのこと笑いにきてやがる
ムカツク、むかつく!
段々腹が立ってきていると、隣にジャンが座った。
透き通るような銀髪が、廊下を通りぬけた風になびいて揺れる。
鼻が高い奴は髪が何色だろうと似合うんだろうな…いいなー。とが見ていると、不意に目があった。
へら、と笑ってみせると彼は眉間に眉をいっぱいいっぱいに寄せて目を逸らす。
絶対嫌われてるッ
ナンパする前に振られるなんて…
100のダメージを食らった気分になり、は大人しく前を向いて待っていることにした。
試験の内容は順番が回って来るまで全くわからない。
しかし、二人ずつ呼ばれているのできっと二人で何かするんだろうなということはわかっていた。贅沢を言えば、ジャンとは当たりたくない。なんてったって容赦なさそうだ。
と思ったのもつかの間、「ジャン、。入りなさい」と言われて神様なんて酷いんだ、と嘆きながら部屋に入ると、イオンが今までに見たことのない顔をして座っていた。
彼の表情は氷よりも冷たかった。一瞬、ぞくりと背筋に悪寒が走る。
かと思うと、イオンはと目があった途端いつも通りナルシスト丸出しの表情になって、「せいぜい頑張れ」と口パクで偉そうな応援をしてくれた。
「今から二人には譜術交戦をしてもらう。では、初め」
え、ちょっと待って早くないッ!?
突っ込みを入れている間にジャンは早くも詠唱を始めている。
どうしよっか、とが考えている間にジャンの詠唱は終わったらしく、彼が叫んだ。「フレイムバーストッ!」
げ、やばい
「アピアース・グランド!アンチマジック!」
反射的に譜術防御力を上げる術を叫んで、なんとかフレイムバーストの直撃を食らわずに済んだの額には青筋が立っている。
「なんかわかんないけどしょっぱなから中級譜術で一番くらいそうなのやってきやがって…喧嘩売ってるなら買うよ?
サンダーブレード!」
雷の剣が雷鳴を轟かせながら地面に突き刺さり、そこからバチバチと棘のような電撃が一直線にジャンのもとに走る。
ジャンの身体をとらえた雷撃が水を得た魚のように踊り狂い、やがて嘘のように儚く空気に消えた。
ジャンはレジストを唱えたようだったが、サンダーブレードの強力さに気絶して倒れてしまう。
救護班はしばらく目を見張っていたが、慌てて担架を担いでジャンの元へ急ぎ、試験官は目を丸くしたまま固まっていた。
は肩で息をしながらその場に立ち尽くし、ヴァンは興味深げに薄く笑って、イオンは面白そうに目を細める。
「き、君!まだ教えてもいない上級譜術を詠唱なしで使うなんて…どういう、「聞きたまえ、諸君」…」
「今の事は他言することのないよう。
彼は途中で詠唱を間違え自分の唱えたフレイムバーストが直撃してそのまま気絶し、彼女はなにもすることなくこの試験を終えた。なにもすることなく、だ。
もし、彼女が上級譜術を詠唱なしで使用するという間違った噂など流れようものなら、その本人を見つけ出し、即刻ダアトから出て行ってもらうこととする。
それでよろしいでしょうか、導師イオン」
「ええ」
今度はを含め、そこにいたイオン、ヴァン以外のもの全員が目を丸くした。
ちょっと待ってどういうこと、と聞く前に「りょ、了解いたしました。試験が遅れるので、君は即刻この部屋から退場しなさい」と試験官が言ったので、は退場せざるをえなかった。
「ねえどういうことなのさ、イオン」
帰って来たイオンに掴みかからん勢いのを必死でアリエッタが止める。
彼はドアを後ろ手で閉めてから椅子に座ると、ふぅと一つため息をついてをまっすぐ見た。
「君さ、自分がやったことがどれだけ並はずれたことかわかってるわけ?」
「…は?」
聞き返したを馬鹿を見るような目で数分眺めたイオンは、アリエッタが入れた紅茶を一口すすると口を開く。
「基本的に神託の盾の一般兵士は中級譜術と武術ができれば大抵の戦に出ても大いに役立つ。
それ以上の上級譜術や奥義、治癒術を使えるようにならないといけない、もしくは使わなくてはいけないのはアリエッタのような六神将や導師護衛役だけでいい。
だから、フレイムバーストという中級譜術でも攻撃力のある譜術を使えるような、君の対戦相手の彼は今回の試験ではSSランクに入るわけ。
それなのに、君はその彼に何を食らわしたと思う?
教えてもいない、しかも教わるとしてもこれからずっとずっと先になるであろう術を、詠唱もせずに使った。
しかも、武術もまだ体得できていない、それ故体力もほとんどないであろう君が、上級譜術を使っても息が切れるぐらいで気絶もしなかった。
イコール、君は誰がどう見ても月並みの人間じゃないってことさ」
そしてまた紅茶をすすると、「わかった?」と彼は珍しく確認の質問をした。
不快そうに「わかった」と答えただったが、しばらくして小さな声で「あたしどうなるの」とイオンに聞く。
「ヴァンがどうするかは僕にも皆目見当がつかない。
でもまあ、悪い扱いはしないだろうね。君を育て上げて六神将にするとか、参謀総長にするとかは軽くしそうだけど。
学校の中では、何にもなかったことになるだろうから、真ん中ぐらいのクラスに所属することになるんじゃない?
ビリのクラスに入れるには実力に差がありすぎだし、何もしなかったことになってるわりに上の方のクラスにいたら変だしね。
ところで、僕も質問があるんだけどさ。
結局のところ、どうやってそれをしたんだい?」
それを聞いたイオンの瞳は、薄黒く曇っていた。
いつもを見るような瞳ではなく、ただ一人の導師として。この世界で一番権力のあるものとして。
「それについては、後日話そうよ。あたしもイオンに聞きたいことがあるからさ」
――アリエッタのいないところで
言葉の裏にそう隠して言うと、彼は理解したのかフン、と鼻で笑って「まあ許してあげるよ」と言った。
それにしても、あの氷のような冷たい表情をしたイオンはなんだったんだろうか。
→レジスト(譜術防御力10↑)+FOF(地)=アンチマジック(20↑)です。譜術ってわっかんねー…

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