「えー、本日の本試験では、タッグマッチの戦法をとる。

オラクル騎士団では団員同士のチームワークが最も重要なものであり、
それを養うためにも本試験では今現在同じクラスでない者とタッグを組んでもらい、――」


本日、本試験当日。


長かったような短かったような…
まあ少なくともアッシュのスパルタ指導とリグレットの容赦ないデスクワークは辛かったです、はい。


ぐだぐだと長ったらしい説明が終わり、相手を見つける時間がとられるとすぐに後ろから襟首を掴まれた。


「いくぞ、


相変わらず無表情無愛想のジャンは返事もしていないの腕を掴んでさっさと試験官の元へと歩みより、番号札を受け取る。
そして01と書かれた(どんだけ決断力あるんだってーの!)ブレスレットを一つは自分の左手にはめ、もう一つはの腕にはめる。

根っからの世話焼き君だよね、とは口に出さないでおこう。
(怒ったらママ怖いんだもん)


アニスとアリエッタはどうやらそこそこのナンパ君に誘われたらしく、問題なさそうだ。
おっと、遠くからの目線が痛いぜ。イオン、あんな虫とアリエッタを組ませるんじゃない、お前が組めみたいな視線を送らないでよっ!



「わかっているな、。この戦いが終わり、明日の朝礼では公式発表だ。気合入れて行くぞ」

「あいよー、旦那。
つーか、あたしらに当たる相手も可哀想だねェ。あたしら負けたらアッシュに何されるかわかんないから、本気でいくし」



本試験は、六神将・ヴァン・イオン・モースと、ダアトの大御所は全員試験官として見に来る。
師匠であるアッシュの目の前で負けるわけにはいかない。――とはいっても、ここ二カ月の特訓で負ける気なんてさらさらないのだが。


今回の試験は勝ち抜き戦だ。一位は特別クラス行き確定らしい。
というか、一位を取らなければ殺される。マジでアッシュによって鮮血に染められてしまうッ


「01、03。前に出なさい」


「さてさて、行きますか―」








vs.一位の座!







試験は順調に進み、ついに二組目準決勝。一組目はもちろんたちで、もちろん勝った。一日で150組のトーナメント戦は長いと思う。
すっかり日も暮れ、負けた組は観客席で白熱した試合に野次を飛ばしていた。


「25、33」


呼ばれて出て来た二組は、アリエッタのチームとアニスのチームだ。
まさかこの二組が戦うとは。


はベンチで内心うきうきしながら二人の試合を見守った。
この試合では、アリエッタはお友達(魔物)を使えないし、アニスはまだトクナガを持っていない。

ようは、どれだけ男を使いこなせるかという事だ。(違う)


試合開始の合図と共に、張りつめた空気が漂った。







勝者はアリエッタだった。やはり、超えて来た戦場の数が違うからか。
は立ち上がって、ぐいっとペットボトルを仰ぐと剣を差し直してフィールドに出る。


「決勝戦は、01、25!」


歩み寄って、アリエッタと握手する。



「悪いけど本気出すよ、アリエッタ」

「アリエッタも、負けない、です!」



お互い自分の立場がある。お互いがお互いの立場だからこそ、負けられないし、負けてもしょうがないと云える。
「ジャン、援護頼む」と言って剣を抜く。向こうも戦闘態勢を整え、試験官が試合開始を唱えた。





「行く、です!」


彼女は早速上級譜術を唱え始める。
やはりというかなんというか、男の方は詠唱を邪魔されないようにこちらに剣を向けた。

その瞬間、ティアの「詠唱中は護ってっ!」という言葉を思い出した。あ、やべ鼻血出そう



「前より威力増してますよ、っと。サンダーブレード!」


詠唱なしで譜術を使っていいとの了承が出たので(もちろんヴァンから)、今回の試験ではバンバン使いまくっている。
前よりも太く鋭さを増した雷の束は、アリエッタの足元を横に滑って彼女のバランスを崩させた。

そしてくるりと方向を変えたかと思うと、一度上に上がって男の足元へ落ちる。



「秘儀、雷使いってね!」



見た事もない技の使い方に観客席がゴオッと沸く。
気を良くしたの隣を風のようにジャンが通り抜け、すばやく男の番号札を弾き飛ばした。


男が番号札を取られ負けてしまったので、一人になってしまったアリエッタは焦りを浮かべる。
それでも逃げ出そうともせずに次の手を考えている姿はさすが六神将と言うところか。


一度詠唱は止まったものの、男が攻撃を受けている間にもう一度唱え直したのか、上空に闇の塊が浮かぶ。


「ネガティブゲイト!」


――時間短縮のために中級に格を下げたか。


「レジスト!」


ぎりぎり攻撃を受ける直前に叫び、優しい白い光がジャンを包む。
攻撃をもろにくらった自分自身にはキュアを唱えた。


が唱えたレジストのおかげでネガティブゲイトに止まることなくアリエッタに走り込んだジャンは、躊躇なく剣を振り下ろした。
それをアリエッタはぎりぎりのところで避け、険しい顔でポケットの小型のナイフを抜く。

アリエッタはなんとかナイフで応対するものの、やはり戦闘型ではないためナイフを弾き飛ばされてジャンが剣を振りかざす――



「ジャン、危ないッ」
「ッ!」

「ビッグバン!」



防御譜術を唱える間もなく、二人に重圧がかかった。
息さえできない重圧に、身体が酸素を求めて口を開く。やっと重圧が終わり、は大きく息を吸って吐きだした。


「リザレクションッ」


突然の酸素にビックリした身体が地に伏せながらごほごほと堰が漏れる。
回復したおかげでどうにか体勢を整え直したジャンがすばやくアリエッタの番号札を切り裂いた。





「試合終了!」




それを皮切りに、ジャンが大の字になって地面に倒れた。
HPは回復したものの、やはり身体の負担は取れていなかったらしい。

そりゃそうだ。まさか秘奥義来るなんて誰も思ってなかったよ(切実)



アリエッタも悔しさと試合中のジャンからの威圧でへなへなと座り込んでしまう。
ぎゅぅっとスカートの裾を握って、ついにはしゃくりあげ始めてしまった。


はゆっくり立ち上がってアリエッタに歩み寄ると、その小さな身体を抱きしめる。


「ごめんねぇ、うちのジャンが。怖かったでしょ、仏頂面が

「お前…黙れ」


息も荒く、言葉も途切れ途切れだが、和やかな雰囲気にアリエッタが安心してに抱きついた。
彼女のようなまだ小さな子供が、家族のように接している人物相手に戦えと言われるのも心苦しかったに違いない。



「お疲れアリエッタ。晩御飯はなんだろうねェ」

「ぅう…っ」



落ちつかせるように背中を撫でるの声は穏やかだった。
先ほどまでの張りつめた緊張感はない。



「すげぇ、」と。観客席で誰かが零した。
上級譜術であるサンダーブレードを自分の意思で自由自在に動かすといい、すばやい決断力と判断力を持つジャンといい。

アリエッタに至っては、秘奥義を使って見せたのだ。
ビッグバンの重圧は、観客席にも多少なりともかかったと思われる。


そして波が来るように、拍手喝さいが試験場を埋め尽くす。



「わお、嬉しいね」

「そりゃそうだ。俺らはアッシュ師団長のスパルタにも耐えたんだからな」
「アリエッタも頑張ったです」



「勝者、01!」という試験官の言葉に、とジャンは嬉しさと共に安堵のため息を零した。





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レジスト→譜術防御力UP
リザレクション→回復譜歌



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