「青い海、青い空!
どこまでも続くこの海を、目に見えない清々しい海風があたしの頬を撫でながら通り過ぎていく…

きた…――来たよ、あたしの時代ッ!


ついにダアトから脱出したぁああああああッ!!!



両手を挙げ、嬉々として叫んだの頭を景気よくはたいたのはジャンで、彼は呆れながら手に持っていた水を飲んだ。



「アホか。皆様に誤解されるような言い方をするんじゃない。
今回は仕事でダアトを出たんだ。忘れてるんじゃないだろうな」



「そんなわけないじゃん」とふて腐れて叩かれた頭を両手で押さえているは、そんなわけありそうな人物である。
二人のいきさつを見ていた団員達は、ケタケタと笑っていた。



は詩人になれるなぁ」
「いやいや、二人で漫才師にもなれそうだぞ」

「ったく、平和だなあ二人とも」



実習訓練で、の事を「団長」と呼んだ団員を、「団長なんて呼ぶんじゃねぇよッ!」と彼女が一喝したのはまだ記憶に新しい。
「あたしなんか呼び捨てで十分だ」となぜか踏ん反り返った彼女を見て、団員が噴出したのは云うまでもない。



――――「参謀総長として、これから一ヶ月間和平交渉のためグランコクマの宮殿に滞在してもらう。
       くれぐれも無礼のないように…といいたいところだが、そんなこと気にせずにらしく楽しんでくるといい」




ふわりと優しく微笑んだリグレットの胸に迷わず飛び込み、顔を真っ赤にして困惑した彼女に泣く泣く別れをつげてここまで来た。
滞在中はイオンや六神将のみんな、アニスに手紙を書くことに決めている。滞在中の士官学校は公欠となるらしい。



「もうすぐ着くぞ」



言ったジャンは、いつのまにかもうすでに使節団用の服に着替えている。
はまだジャージだったため、慌てて部屋に入って六神将の制服に着替えた。

帰って来ると、団員達もいつの間にか鎧に身を包んでいる。



「…ネクタイが曲がっているだろう」



の制服を見て、「ネクタイがないと締まらない」との理由で勝手にネクタイの支給を頼んだジャン。
彼はに歩み寄って歪んだネクタイを直すと、「まったく世話が焼ける」と零した。




「さっすがオカンだな」

「恋愛のれの字も見えないぐらいに過保護だな」


「……怒りますよ」




額に青筋を浮かべたジャンに「おぉこわ」と口々に言って団員は散らばる。
そうこうしている間に、グランコクマの港についたらしい。




「さーて!はりきっていきましょー!」






13:vs.補佐官






謁見の間の扉を二回叩いて、「入れ」という合図で扉を開ける。
目の前には、王座に肘をついてこちらを見やるピオニー陛下の姿があった。もちろん、その隣にはジェイドの姿が。

歩み寄って前まで来ると、ジャンとは膝をついて頭をさげる。
団員達は一ヶ月間の荷物運びをしているので、謁見できるのは二人だけだ。



「お初にお目にかかります、ピオニー陛下。
我々の長期滞在を快く引き受けてくださり、まことに感謝いたします」



つっても、あたしが聞いたの今日だけどね


「頭を上げろ」とのピオニーの言葉に、二人は下げていた頭を起こした。



「すまねーが、今日の和平交渉は明日に引き伸ばししてもらねーか?
急な用事がはいっちまってよぉ」



目を見開いて「何故ですか、」と口を開こうとするジャン。
それもそうだ。一ヶ月と長い期間のように思われるが、和平交渉は何かと時間が掛かる。一日でも無駄にしたくないのだ。

そんな彼の口元を隣からガッと押さえたは、驚いているピオニーとその隣のジェイドをよそに、にこりと笑う。




「それはまことに嬉しい所存です。私も仕事があるので」




「は?」とマヌケな声が四法八方から聞こえた。
ジャンとジェイドは確実に言った。




「ほぉ。それは?」




面白そうにピオニーが聞く。
和平交渉以外に仕事があるだなんて。といいたいのだろう。




「グランコクマ探検をしようと思いましてっ!」




きらきらした瞳ではっきりとそう云ったに、一同がぽかんとした。
ピオニーは腹を抱えて笑い始め、ジェイドはこめかみを押さえる。

スッと立ち上がったのはジャンで、彼はいつもの仏頂面で「失礼します」と云うと思いっきり腕を振りかぶっての頭を殴った。




「あいたーッ!」

「ふざけるなッ!お前自分の仕事が何かわかってるのか!?わかってないんだろ、わかってないんだと言えッ!
オレが船の中で何度も説明したが今はなかったことにしてやるから頭をこの大理石に押し付けてわかってなかったんだと言え!陛下に謝りやがれッ!

クソ野郎やはりお前なんかが参謀総長になるべきじゃなかったんだ!今からヴァン総長に申し立ててきてやる!
ダアトは大恥だぞこの野郎ッ!



うるさーいッ!

お前はあたしの後ろに付いてくればいいんだよ!いいじゃん和平交渉の街をきちんと知っておかないといけないでしょ!?
あたし仕事ちゃんとわかってるもん!あんたが耳にたこが出来るぐらい言ってたからちゃんと聞いてましたよーだッ!

バカ!離せ!団員共!助けろ!団長様がクソ補佐官にさらわれてるー!!




が叫んだ瞬間に、謁見の間の大きな扉が開いて、滞在準備をするためにすっかり鎧も脱ぎ捨てた団員達が入ってきた。
慌てた様子の彼らは、なぜか口元が笑っている。



「だから船の中でいったろーがジャン。こいつが和平交渉なんて固いもんつとまるわけねーって」
「オレも言った!」

「うるさいですよ!こいつを強制退場させるの手伝ってください!」



もうすでに漫才にしか見えない


ピオニーは笑いこけているし、ジェイドは相変わらずこめかみを押さえてなにやら考えている。
陛下お使えの兵士達は笑うのを必死に耐えていたり、何が起こっているんだと未だ唖然としていた。




「あーうけるッ!おい、待て待て。強制退場させなくていいぞ」




目元を拭いながら、ピオニーがジャンを止めた。




「実はな、オレの急用ってーのもグランコクマの見回りだからよ。一緒に来るか?」




その言葉にパァッと顔を明るくさせたは、「本当ですか!?」とピオニーを見た。
「おう」と笑った彼に、は自分を抱えて強制退場させようとしていたジャンを見やり、「べぇッ!」と行儀悪く舌を出す。




「ぜひご一緒させてください!」




「ああ、変なのが来たな…」と。
隣でジェイドが呟いたのを聞いて、ピオニーはまた笑った。



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