vs.使節団の仕事 「いい?みんなはお留守番係だかんね。 みんなみたいなごついおっちゃんひきつれてこんなか弱い乙女が歩いてたら怪しがられるから、 引き続き滞在準備をしてちょうだい。終わったら自由行動で、八時から夕食らしいから、それまでには戻って来る事。 以上、解散!」 パン、とが手を叩けば、皆それぞれ与えられた部屋へと戻って行った。 その様子を眺めていたピオニーは、「やっぱあいつが団長なんだなぁ」ともっともなことを呟く。 「明らかに見えませんね。 先ほどの探検したい発言と言い…使節団という自覚はないこと確実ですね」 ジェイドの言葉に先ほどのことを思い出したのか、ピオニーは「ぶふっ」と噴き出した。 思い出し笑いはむっつりらしいぞ、ピオニー陛下。 「すみません、時間をとってもらって」 早速行きましょう!という目をしている目の前の少女は、今から某ランドに行く子どものようだ。 思わず頭を撫でたピオニーは、「おう。ちゃんと付いてこいよ」と笑いながら言った。 「ここにも過保護フラグ…」 というジャンの呟きはジェイドにしか聞こえていない。 城を出てすぐに、は突然振り返ってジェイドを見る。 急な事に思わず身構えたジェイドは、それを悟られないようににこやかな笑みを作った。 「…私にどうかしましたか?」 すると彼女はポケットの中からディスト君一号(持ち歩いている)を取り出して、頭を下げさせる。 「はじめまして、ジェイドさんですよね? ジェイドさんの話は、いつも少し頭の哀れな我が師からいつも話を聞かせて貰っています」 「ほぅ、それは興味深いですね…その師匠の話を詳しく聞かせてください」 レンズをきらりと光りに反射させながら、眼鏡のつるをあげた。 「おいおい、それってもしかしてもしかしなくてもサフィールのことかよ!?」 「ええ。頭がおかしくて私の話をしないというような輩はあいつしかいないでしょう。 というか…何年たっても私の事が好きですねぇあのハナタレは」 誰もそこまで云ってねーよ、というツッコミはジャンの心の中で終わらせておいた。 この人物の階級は知らないが、今の黒い笑い方と言い怒らせたら絶対にやばいタイプの人間だ。 「…というか、貴方も物好きですね。あんな人間を師にとるなど…」 「そーですかね?師匠の授業、面白いですよ?絡みはちょっとうざいですけど。 授業内容も毎回あたしのスピードに合わせて考えてくださったりするんです。 でも中でも一番楽しみなのは、小さいころから師匠がジェイドさんから受けた面白い…じゃなかった、酷い仕打ちの話です」 一瞬にして同類と判断したらしい。 ジェイドは今までの警戒態勢をといて、ふぅとコミカルにわざとらしいため息をついた。 「彼は変なところで記憶力がいいですからね」 「サフィールうぜえよな!」 「陛下、それは確かですが身も蓋もありませんよ」 ニカッと三十路過ぎているとは思えないような子どものように眩しい笑みで云って見せたピオニーもなかなかのものだ。 「もうそろそろグランコクマの名所の噴水公園だぞ」 陛下の言葉の通り、広い公園の真ん中に大きな噴水が見えた。 そのとき、パタパタとすぐ隣を子どもたちが走って行った。楽しそうなその姿は、平和そのもののようだ。 もうそろそろ満足だろう、と言おうとして後ろを振り向くと、先ほどまで後ろを歩いていたはずのの姿が忽然と消えている。 慌ててあたりを見渡すと、先ほどの子どもたちの輪の中に見慣れた黒色のワイシャツが―― 「っ!」 「お!?」と振り返った黒髪は、こちらを見て「あ、ごめんちょっと遊んでくる」と何食わぬ顔で片手をあげ、 子どもたちがするように、その格好のまま思いっきり噴水にダイブした。 「姉ちゃん何?俺らと遊びたいの?」 「おう!入れてくれ!」 「えー!?姉ちゃん水鬼できんのぉー!?」 訝しげな子どもたちの声が聞こえてくる。 そりゃそうだ。見知らぬ人間がいきなりでかい態度で輪に入れろと云うのだから。 「まかせろ!出来る!…んで、水鬼ってなに?」 「噴水の中だけで鬼ごっこするんだよ!」 「ふっふっふ。お姉さんは日々鍛錬に励んでいるからね。ちみっこたちに負けやしないよ」 「言ったな?――よし、お前ら!姉ちゃんゼッテー負けさすぞ!」 「「「おー!!」」」 ほんの数分で簡単に混じってしまったは、きっと精神年齢が同じなんだと思う。(ジャン遠い目) あんなのが参謀総長でいいのだろうか…(切実) 「待ちなさい。何アンタも混ざろうとしてるんですか」 「えーいいじゃねーかよ俺もやりたい、水鬼」 「おだまりなさい」 ガシッとすばやくピオニーの肩を掴んだジェイドを見て、自分もあれぐらい出来るようにならなければ、とジャンは思った。 の思考行動を熟知し、行動を先読みできさえすれば、今日のような出来事にはならないだろう。 「陛下、お仕事があるのでしたら先に行かれてください。 あいつは多分子どもたちが帰るまでやり続けるでしょうから。私はここで待ってますので」 頭を下げたジャンに、「そうか」と言って、二人は公園を去って行った。一人は渋々のようだったが。 噴水の中を駆けまわっている上司を一度見てから、ジャンは近くのベンチに腰を下ろした。 「…くそう、勝てねェ」 子どもってー生き物は、なんて強いんだ… そこらへんの魔物より強い。到底勝てそうにない。 水の中に大の字で倒れ込んだを囲んだ子どもたちは、上から彼女を見下ろして楽しそうに笑う。 「ダメじゃんねーちゃん!」 「姉ちゃん起きろよー!もっとやろーよ!」 「今度姉ちゃん鬼な!」 水の中で走ると云うのは、なるほど相当疲れる。 水圧で筋肉に負担はかかるし、スピールも落ちる。 先ほどから一度も逃げ切れていないは、「ぃよし!」と立ち上がって、にやりとあくどい笑みを浮かべた。 「全員捕まえてやらぁッ!」 「「「「きゃ―――っ!」」」」 ケタケタ言って走り回る子どもを、水でびしょびしょのまま追いかける。 ちょこまかと逃げ惑う子どもの一人に手を伸ばして、ぐいっと自分のように引き寄せた。 「捕まえた!」 「うわー捕まったー!」 「このやろーケンちゃん返せー!」 「ふはははは!返してほしくばお前もこっちに来いやーっ」 「きゃー!きゃははははっ」 …平和だ 何時間ほど経っただろうか。 ジャンはベンチで、に押しつけられていた執務を済ませていた。 すると、突然目の前にコーヒーを差しだされる。 「まだやってたんですか、彼女」 「ええ。お陰さまで」 「元気だなーアイツ」 「はい単細胞ですので」 街を一周してきたらしいジェイドとピオニーは、それぞれコーヒーを持ってジャンの隣に座った。 陛下が隣に座るとはどんな状況だ。 数分立つとどうやら全員捕まえ、日も暮れて子どもたちも帰る時間らしく、別れを告げて散り散りになった。 は地面のタイルを濡らしながらこちらまで歩み寄り、ご満悦気味でジャンに向かって威張る。 「全員捕まえたぞ!ほめたたえよ!」 「黙れ」 思った反応が来なかったのか、は「ぶー」と言って眉間に皺を寄せた。 そんな上司にため息をついて、先ほど宮殿へ取りに帰ったバスタオルを差しだす。 「お!あんがとー」 それを受け取って身体を拭き、思い出したかのように「あ!」と声をあげて、嬉しそうにしながらジャンに告げた。 「明日はね!今日の子たちが街案内してくれるって!」 「お前は使節団の仕事をしろッ!」 言うまでもなく殴られただったが、もちろん次の日宮殿を抜け出したのだった。 Home Next |