「あれ、大佐どこいくんですか」 分厚いコートを身にまとって宮殿を出て行こうとしたジェイドの姿を目ざとく見つけたは、てこてこと彼に近寄った。 「ええちょっと仕事で里帰りに」 「仕事で里帰りなんて面白そうですね!」 「その行きたそうな目をやめなさい」 すると「ちょっと待ってて下さいね!」と言って部屋に戻って行った。 てっきりお土産リストでも押しつけられるのかと思い玄関で待っていたジェイドは、が出て来た瞬間その行為を反省した。 「さあ行きましょう!」 すっかりお出かけ服となったが、そこにいた。 vs.大佐 「それで?ケテルブルグになにしに行くんですか?」 何度か「帰りなさい」と言ったが一向に聞き入れないに諦めも着いたのか、 ケテルブルグへと行く船の中で二人は並んでホットコーヒーを飲んでいた。ケテルブルグへはもう少し掛かるそうだが、もうすでに寒い。 「ええちょっと…陛下から知事にお使いを…」 「あぁ。妹さんですか。…というか、陛下も諦め悪いですねェ。 男ならずばっと諦めて、どん!とまた好きな人でも作ればいいのに」 うんうん、と自分の言葉に頷くに、思わずジェイドは目を見開いた。 「何故、ネフリーが私の妹だと?…それに、陛下が彼女に想いを抱いているのも、何故知っているんです」 「え、陛下からですけど」 「……」 ピオニーはの事をとても気に入ったらしく、暇さえあればと一緒にいる。 その時にでも話したのだろう。 「ブウサギの名前の人物は全員どういう人か知ってますよ。 大佐はもちろんですけど、アスランさんがブウサギっていうのも可愛いですよね、ぷぷっ あとサフィールは師匠の本名でしょう?ゲルダは師匠の更に師匠の、ネビリム先生のファーストネームですし。 ネフリーさんは一番毛並みが綺麗で首輪もかわいらしかったので、ピオニー陛下にそのことを聞いたらとっても語ってくださいましたよ」 どんな内容だったのかを詳しく知りたいところだが、知ったところでムカツクだけのような気もするのでジェイドは聞かなかった。 「つきますよ、。下りる支度をしなさい」 「はーい」 そういえば、マルクト軍と第五師団の共同演習でアスランもいたくの事を気に入っている様子だった。 彼女は良くも悪くも何かを起こしそうだ、と雪化粧している街をうきうきした様子で眺める、隣の少女を横目で見ていた。 「いらっしゃい、兄さん」 出迎えた絶世美女に、は驚くほどに自然な動きでネフリーの手を自分の両手で包んだ。 「結婚しましょう」 「彼女は既婚者ですよ、。その前に貴方女性でしょう」 「あたしが女なんて、大した問題じゃありません。それならば一夫多妻制ならぬ、一妻多夫制ということで」 にこやかな笑みを浮かべたままのに、ネフリーもどうしていいのかわからず兄に視線で助けを求めた。 彼はふぅとため息をつくと、パチンとの手を叩く。 「今晩は家に泊りますから、ネフリーの手料理が食べられます。今日はそこらへんにしておきなさい」 「ッチ…、楽しみにしてますね、ネフリーさん」 先ほど舌打ちしたとは思えないほどに表情ががらりと変わって、またしてもは笑みを浮かべる。 「え、えぇ」と困ったように笑みを浮かべて彼女は頷いた。 「ところで、今日はどうしたの?」 「ええ。陛下から知事に地方公共団体の金銭面や国からの寄付金についての手紙を預かってまいりました」 「あぁ、なるほど。そういうことか」 返事をしたのはなぜかで、彼女は腕を組んで考え込む格好を取っている。 何がそういうことなのか、とを見ていた兄妹にパッと顔をあげると、至って真剣な顔で言い放った。 「ネフリーさんを嫁にするには夫をどうにかするのは簡単そうだけど、一番厄介なのは大佐ですね」 「何の話をしてるんですかあなたは」 しかし当の本人は聞く耳を持っていないらしく、また俯いてごにょごにょ呟いている。 ジェイドはやれやれと言いたげに肩をすくめて、ネフリーに向き直った。 「変態まで連れて来てしまってすみませんね」 「いいえ、兄さん。兄さんが楽しそうで何よりだわ」 「……楽しそう、ですか?」 「?えぇ。とっても」 彼女と話してる時、とてもね。と続けた彼女に、ジェイドはにっこりと笑った。 「眼下に行きましょうか、ネフリー」 「ネフリーさんもうごはん超おいしいです!」 「本当?それならよかったわ」 「、いつも思っていましたがもうすこし落ちついて食べなさい」 宮殿でも、は忙しなく食べる。 行儀が悪いわけではないが、なんとなく女の食べ方ではない。 「師団でご飯食べに行ったりしたら、もう大変なんですよ! 気付いたらもうお肉がないんですっ!これは死活問題ですよ、死活問題! それからはご飯時は戦場だと思って食べるようにしてます。イオンには怒られるけど、そんなの気にしちゃいられません! あたしの食事がかかってるんですから!取られちゃったら全部パーですからね!」 パクパクとすごい勢いで食べる。 どうしたもんかとジェイドは思ったが、の話を聞いてクスクスと笑うネフリーを見てどうでもよくなった。 「それにしても、意外と大佐ってお兄さんだったんですね」 思いもよらぬ話の逸れ方に、ジェイドは思わず食べる手を止める。 「は?」 思わず間抜けな声を出してしまう。 彼女といると、こんな声を出すことが多い。初対面でもそうだった。 「だってー、大佐のネフリーさんを見る目って優しいんだもん。 あたしも久しぶりに姉ちゃんに会いたくなっちゃいました」 の言葉に、気恥かしそうに頬を赤らめたネフリー。 「……まあそりゃ、兄ですからね」 「あらあら、照れちゃってェ」 おばさん臭く手を動かしたに、額に青筋を立てたジェイドがにっこり微笑んだ。 もまけずに笑みを作る。 「なめてるんですか、その言い方」 「嫌ですよぅ、天の邪鬼な大佐の代わりにあたしがネフリーさんに教えてあげてるだけじゃないですか」 似た者同士ね、と。ネフリーは思いながら綻ぶ唇を手で隠した。 「それでは一ヶ月間、お世話になりました」 頭を下げたの後ろで、師団員たちが敬礼をする。 和平交渉も無事に進み、本日第五師団がダアトに帰還する日。 「また来ますからねーっ!」 船が遠くなっても、は手を振って叫んでいた。 そんな彼女に、見送りに来ていたピオニーは手を振り返す。 「面白いやつだったな。 今までの使節団なんか、面っつらばっかり気にするお固いやつらばっかりだったってのに」 「ええ。変な方でした」 「早くこねぇかな、アイツ」 「…陛下、今去ったばかりですよ」 こめかみを押さえたジェイドに、「何だよ、お前も気に入ってたくせに」とピオニーの聞き捨てならない言葉が耳に入る。 「そんなに執務がしたいんですか?陛下。 大丈夫です、あなたがどっかのお猿さんと遊び呆けていた間にたまっている執務がたくさんありますからねェ」 「うげっ」 「ふっふっふ、逃がしませんよ」 後日、有給を取ったと云って一カ月もたたない間にがグランコクマへ来るのは別の話。 Home Next |