「ねーラルゴってさー」



「職務したくない!今日はもう絶対しないって決めたんだからっ!ラルゴ匿って!!」と突然押しかけて来たは、今優雅に紅茶の入ったカップを傾けた。



「結構いい年だよね?子どもいるの?
ラルゴ面倒見いいからさー、きっと子供さんもいい子だよね。あたしきっと仲良くなれる気がするよ」



ラルゴの淹れてくれた紅茶は、世界で一番美味しい。ついでに言うと、二番目はジャンだ。
職務を続けていたラルゴは手を止め、一度を見てからまた視線を下の書類へと戻す。



「昔はいたな。――今はもう、いない」


「うへー。亡くなったの?ごめん、聞いて。
ついでに娘さん?息子さん?」

「娘だったな、確か」



彼の言葉にきょとんとしたは、「娘か息子かも覚えてないの?」と聞いた。さっきから質問が多い。



「ああ。生まれたばかりだったからな。しかも、――かれこれ18年前になる」

「そっか。でも大事なことだよ。
すっごく悲しい事かもしれないけど、この世に生を受けた自分の子供を忘れちゃダメだと思う。

でも安心しなされ!あたしが今聞いたから、もしラルゴが忘れてもあたしがお話してあげるね!
ラルゴには娘さんがいて、生きてたら十八歳なんだよーって」



トン、と自分の胸を拳で叩く
思わずフッと笑いが漏れて、「頼もしいな」と零した。



「やっぱりねー。ラルゴって優しいしおとん!って感じだもん。
なんてーの?包容力満載ってーの?思わずパパー!って呼びたくなっちゃうもん。うん」



コクコクと一人で頷きながら、また紅茶を一口。
今日のお茶受けは近頃巷で人気のダアトクッキーだ。コレが、結構安くておいしい。




「あ!そーだ!

ラルパパって呼んでいい!?うんうん、いいとおもう、ラルパパ!
なんか一言でラルゴのパパ感までも表現してしまう素晴らしいあだ名って感じ!?いっやー、あたし、久々に良いあだ名つけたわー」




仕事終わりの作業員のように、額の汗を拭う仕草をしたは、腕時計を見て「あ」と漏らすと紅茶を一気飲みして(味わえよ)立ち上がった。
「もうそろそろ戻らないとさすがにジャンに絞殺されるから。じゃね、ラルパパ」と言って片手をあげると、さっさと部屋を出て行ってしまう。



「まだ誰もいいとは言っていないだろう」



はあ、とため息は吐いたものの。
口元が綻んでいたのは、気付かないことにした。








17:vs.あなたの一番に、なりたい








マリアとの特訓を終えて、汗びっしょりの服を着替えて、それを洗濯・乾燥し終えてコインランドリーから帰っていた時。
突然後ろからすごい勢いで突撃され、「ぬおぁっ!」と変な声をあげて後ろを振り返ると、の服をぎゅっと握って顔をあげようとしないアニスがいた。


「アニス?」


どうも様子が変だったので声をかけると、彼女は「といたいの」と言った。
その声は今にも泣きだしそうで、は振り返ってしゃがみ、アニスの顔を覗きこむ。



「なーに泣きそうな顔してんの。お姉さんが相談に乗ってあげるから、あたしの部屋に一緒においで」



ぐすん、とアニスは一度鼻をすすって、「うん」と小さな声で返事をした。







あったかい紅茶をアニスの前に置く。一緒に茶菓子も出して置いたが、手をつける様子はない。
アニスはの向かいのソファに座っていて、俯いてスカートを固く握りしめている。




「この間ね、初めて導師イオンに会ったの」




ゆっくりと、言葉を紡ぐ。その声は語尾になるにつれて震えが増していた。



「兵士にぶつかられてね、謝りもしないから怒ってやったら、逆切れしやがって。
殴られそうになった時、イオン様が止めに入ってくれたの。あたし、―――――――あたし、救世主だって思った。


すごくこわかった。本当に殴られるんじゃないかって。そしたらすごくタイミング良く助けてくださったんだもん。
兵士は逃げてって、あたし腰がぬけちゃってしゃがみこんだら、イオン様がね、背中を擦ってくださったの。

もう大丈夫だよ、って

導師護衛役になってよかったって思った。
優しい言葉をかけてくれるこの方を、今からあたしが護っていけるんだ!って」



ぽとぽとと、ついに涙が落ちてスカートに染みを作る。
そして、「でもね」と継ぎ足した。



「先週導師護衛役の認定式が行われたの。

導師護衛役はそこそこの数がいるんだけど、一人だけ、導師付きが選ばれるんだよね。
そして選ばれたのは――――アリエッタだった

認定し気が終わった後、アリエッタとイオン様はとっても親しそうに喋ってた。
そりゃそうだよね。アリエッタ、イオン様と家族なんだって、嬉しそうに前話してたもん。


そしたら、アリエッタとイオン様があたしに近付いてきて、アリエッタがあたしのことイオン様に紹介したの。
イオン様は、あたしを助けてくれた時よりもっと優しい笑顔だった。


ああやっぱり君がアリエッタの言ってた子だったんだね、って。
アリエッタの友達を助けられたんならよかった、って言ったの。


その時、イオン様はあたしを助けてくれたんじゃなくて、アリエッタの友達を助けただけなんだってわかった。
認定式が終わった後、ずっとアリエッタにイオン様の話を聞かされてたの。

なんかそれがすんごいムカついてさ。
アリエッタの事、今までそんな風に思ったことなかったのに、なんか最近すごく一緒に居るのが嫌なの



もうなんかわけわかんなくって。せっかくいる数少ない女友達なのに、――でもどうしてもアリエッタが嫌で

ねえ、あたしどうすればいいの?



この部屋に来て初めて顔をあげたアニスは、鼻と目を赤くしていた。
の所に来る前も、ずっと泣いていたのかもしれない。




「あのね、アニス。世の中に長い時間一緒にいて楽な人間なんて、三人いれば立派なもんだよ。

長い間一緒にいると見えなかったものまで見えてくる。それは良い所でもあり、悪いところでもある。
でも悲しい事に、人は悪いところばかりに目がいっちゃうもんなのよ。


一度嫌になってしまうと、もっともっと悪いところばっかりに気がつくようになって、もう一緒に居られなくなる。
それはね、多分これから出逢うたくさんの人もそうだと思うんだ。

ずっとこれからも一緒に居られる人なんて、多分ごくわずかな――一握りの人間しか無理なんだと思う。
要は嫌になる時が、早くくるか遅くくるかってだけ。


それに、別れる人がいればその分出逢う人もいるんだから、この人だけとはずっと付きあって行かなきゃ、なんて思う必要ないんだよ。

あたしはアニスともアリエッタともこれからもできるだけ長い間仲良くしていきたいし、二人が仲良くいてくれたら嬉しい。


だけど、それはアニスとアリエッタもそう思ってくれていればの話であって、
そうすることで誰かが苦しんだり辛かったりするんだったら、その人の辛くないようにするべきだと思う。


大丈夫だよ、アニス。
貴方にはこれから、もっともっといっぱいの人と出会う。その中には絶対に、長い間一緒に居ても楽な人ができるから。

もし、アリエッタが嫌になっても、―――――あたしが嫌になっても。
それは新しい出会いに繋がるんだから、後ろめたい思いなんてしなくてもいいんだよ」





どうして、あの人の一番があたしじゃないんだろう。

そう思った事は何度だってある。
どうして一緒の世界に生まれなかったの?どうしてあたしはあの人と結ばれることが出来ないの?――――あの子は、できるのに


今までそう思った事は数えきれないぐらいある。
その度に心臓を鷲掴みされたように、胸の奥が痛くてたまらなかった。



自分と同じように、

ただアニスが想いを抱いた相手はイオンだっただけで
ただ想い人の一番が、友人のアリエッタだっただけで


きっとその思いは自分のそれとなんら変わりはしない





「うん、ありがと
ほんとに、ありがとっ、


「よーしよし!泣け泣け!女は泣いて強くなるんだぞー!」

「うん、っ、うん!」





誰かに本気で恋をすることは――たとえその想いが報われる事はなかったとしても――、また一歩、大きく世界を開く鍵になる。

アニスはその鍵を手に入れることができたんだから。
きっと二人を見返せるぐらいのイイ女になれるよ






+++++++++

知ってましたか?

さっきウィキペ○アを見て初めて知ったんですけど、
アリエッタって導師護衛役を解任されてから六神将になるそうです。

な、なんだとっ!

ってなりましたが。
今さら話変えられないので、スルーの方向で☆





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