外は晴天。
一つの曇り陰りもない空というのは非常に珍しく、いつもと同じ空気もひときわ美味しく感じられ、気分もリフレッシュ!――と、いけばいいものを


「なんじゃこりゃ――ッ」

腹の底から声を出しつつ、はビシッと片手で突っ込みを入れてみた。
はたまた突っ込みを入れられた、もとい、たまたま手の当たる位置にいたは「なんだろねぇ」と緊張感のない声を出す。驚きを通り越して夢見心地に戻ったようだ。

まったくもって理解に苦しむ。
何故空の上をふわふわと浮いているのだろうか…


先ほどまで、いつもとなんら変わらない生活をしていたはず。
休日で半日を睡眠にあてたがのんびりと起きてきて、その後朝食兼昼食を二人で食べ、
他愛ない萌えの話を繰り広げ(もっぱら最近ハマッているテイルズシリーズと、相変わらずのテニプリ雑談会)、
お菓子を片手に紅茶でも飲もうかーと席を立った瞬間、辺りが晴天の青空に包まれたというわけだ。

テーブルも椅子も、はたまたのうち煙に巻いたように消え、ドスンと尻もちをついたはポカンと口を開けるばかり。は唖然としたまま立ちつくすだけだ。

「…マジで何?」

が首を傾げた瞬間、ズザーと煙を巻き上げるように(この空に煙がなんともミスマッチだった)男が現れ、ヤ、と爽やかに片手を上げる。


「どうも御二方!俺、神様見習いですッ」

呆気に取られること数秒。
「いや、イントネーションおかしくない?見習い明らかに小さくなかった?」とが小さく突っ込みを入れるも(勇敢だった。は声すら出なかった)、
どうやら人の話をまったく聞いていない神様見習いはうふふ、と足をクロスさせて、首を小さく横に傾げてみせる。


「俺さー!今回の試験クリアすれば晴れて進級なんだよね!
だからさ、君たちにお願いがあるんだよ!」
「スルースキル…だと!?」

かなりの高等技術には我にかえり、は舌を巻いた。こうも鮮やかにスルースキル(意味違う)を使いこなす人間…じゃなかった神様見習いがいるとは…。

「お願い?」

が聞き返すと、彼は大きく二回頷く。

「実は君たちに、トリップして貰いたいんだなぁ!」
「「トリップ!!???」」

見事な二重音声。
わーと両手を上げた二人が「「テニスの世界!」」と続けていうと、彼はいやはやと肩をすくめて見せる。


「ゴメンけど、その地区は俺の担当じゃないんだよね!
俺の担当区は君たちが…そうだね、テイルズシリーズと呼ぶ所かな」

「「テイルズシリーズ!」」
「しかも今なら君たちが行きたい場所に落としてあげちゃうサービスつき☆」
「「のった――――!」」

グ、と親指を突き出されたら、二人してグ、と親指を突き出し返して見せる。なんだ、コイツ変だけどいい奴じゃん、的な空気が二人に流れた(失礼1)。


「あ、でもね。
君たち一人につき、一世界だからさ!別の世界に行って貰う事になるのよ。二人で一つづつ世界を回る、でもいーんだけど、あんまり時間がかかると俺の進級も遅くなるし?
もし君たちのどちらかが先に目標点に到達すれば、もう一つの世界に行って貰う事にしようと思って。それでもかなりの長旅になると思うよ〜。
ま、とはいえ俺の都合で落ちて貰うわけだから、命の保証はバッチリしちゃうってわけ!どーよ、なかなかいい話だろ?」

エッヘン、と胸を張る神様見習い。
しかしは「うーん」と顎に手を添えると、しばしの間考え込む素振りを見せた。


「でもさ、あの世界に行くって事は、当然皆が命かけて闘ったりしてるわけでしょ?そんな中自分は死にましぇ〜ん(古い)っていうのもいかがなものかと思うけどね…」
「そーだね。それより保障はいらないから、行き抜くだけの力とかがいいよね。最強主人公的な?」
「あーいーね最強主人公!よし、そうしよう。って事でわたしアビス、ねーちゃんディスティニーね!」
「決めるのはや――!?ってか今勝手に決めた!?

「打倒なチョイスだと思うけど。あたしディスティニーよう知らんし。リオンいるからいーじゃん」
「…いや、ま、ね……」


リオンといえばあのリオン。
そりゃーまあ、テイルズシリーズに行くのであれば、自身もディスティニーがいーかな、とは思うし…ま、いっか。とは二つ返事でOKする事にした。

「なるほど。姉はディスティニーの世界で、妹はアビスの世界ね…最強主人公ってのは、具体的にどんながいいわけ?」
「なんもかんもLvマックスで!」
「一時期ポケモンの裏ワザであったよね、しょっぱなレベル100とか、マスターボールが99個から減らないとか!」
「…姉ちゃん、古いって」

横目で見られたはあはは、と乾いた笑いを零す――しょーがないじゃん、その年代なんだからさ…。


「…んじゃま、両方とも技も術もマックスにするとして…」
「でもわたしたち技も術も使った事ないけど?」

「そりゃー君たちほら、想像力が豊かだからさ!想像に身体がついて行くようにしとくよ。術に関してもそうね。
譜歌と詠唱はなくても、術の想像ができれば打てるようにしとくから。
んで、術のほうは、ディスティニーの世界はレンズを。アビスは譜歌を使うから…え、と…よし、これを二人に渡そう。

こっちが姉で、こっちが妹…と」


の手にはブレスレット、の首にはネックレスがかけてある。
ブレスレットはレンズでできたシロモノらしく、見ようによっては水晶にも見えた。綺麗に丸くカットされたレンズが連なり、一つのブレスレットを成している。
一方のネックレスはどうやら第一〜第七までの音素が結晶になったものがちりばめられていて、お洒落なデザインになっていた。なかなかいいセンスをしている(失礼2)

「これでまー一通り術は使えるわけだけど。
ディスティニーの世界とアビスの世界はいうまでもなく術の系統が違うからね、後から合流したほうは、必然的に術が使えないようになる」


「…まーね」
「そういう事になるね」

「と、言うことで技の方はほぼ何にでも対応できるよ。剣でも弓でも槍でも斧でも、好きなもん好きなだけ振り回してちょーだいな!」

「ハイ、質問1」
「ハイどーぞ妹さん」

「物語は変えちゃっていーの?」

物語のストーリーは変えるな、というのは、いうなれば定番だ。鉄板。
ストーリー変えちゃって消えちゃうかも知れない的なネタもよくある。そこはまず確認して押さえておきたいところ。


「全然いーよ。それを踏まえての目標点だからね。
逆にいえば、その世界での目標点に達しなかった場合…もっと分かりやすくいうと、君らが改変した世界が我々の期待する場所まで到達しなかった場合…

俺の進級が取り消されちゃうってわけ!
それだけは勘弁だからね!チョー頑張ってよ君たち!


「…いや、なら、具体的にどういうのが期待する場所なんですかね?」
「それは言っちゃダメなお約束なんだよなーコレが!」

「んじゃ質問2、なんであたしたちな訳?」

が言うと、神様見習いは鮮やかなほどににんまりと両の口端を持ち上げた。


「君たちがいる世界にはね、諸世界と繋がりやすい人間がいっぱいいるわけだよ。電波を受信しやすい、想像力がある人間がね」
「ようするに、オタクとか腐女子とか?」

「そう言うこと。
まあ体よくいうと、君たちもホットラインが繋がりやすい人間だったってわけ。これが選ばれた理由その1

その中で俺たち見習いが好きに選べるわけで、俺が重視したのは君たちの…うーん、これは説明し難いな。ま、俺が選んだのは君たちだったってわけだ!」

アバウトー
が口端をひきつらせていると、は「ふーん」といって、ニヤリと口角を持ち上げた。

「って事は、あたしたちがしたいようにする事に期待してるってわけね」

のその言葉に一瞬目を見張った神様見習いは、「なかなか君、頭がキレる見たいだね」と感心したような声を出す。
なるほど、そういう意味だったのか!とが尊敬のまなざしで見ていると、神様見習いは話の筋を元に戻した。

「俺が手を貸すのは、主に世界を移動させる事のみ。それ以外は手を出せない事になっている。後は臨機応変に頼んまさー!
世界も君たちを受け入れる体勢万全だよ!
俺が無事に進級できた暁には、君たちのお願い事でも聞いてみちゃおうじゃないか!よ、俺ってば太っ腹!」


明るいというか、ここまで来ると緊張感の欠けた人間としか思えないテンションだ。
あきれるの横で、が「よ、ウエスト何センチ!」とノッてみたりもしてる。だからネタが古いんだって!


「俺的に色々計算した時間軸に落とすから、落ちた後で文句はいいっこなしね!スタート地点はそこだと解釈してくださーい。
では、準備はいいですかー?」

「ちょ、待って武器…」
「では!よーいスタート!」


地面が抜けた。
空なのに地面が抜けるってどーよ!?いきなり重力にしたがって落ちだした身体に驚きつつ、が「!」というと、も「姉ちゃん!」といってお互いを見る。

「「グットラック!」」


武運を祈る!我が姉妹よ!!


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