鳳×宍戸フラグやばかったなぁ。
時刻すでに七時過ぎでやっと神奈川駅に着いたところだった。
喫茶店であった宍戸・・・と鳳(いかん、忘れていた)に随分と癒された。
萌も充分味わえたし。
そういえばきちんと森久保さんの声を聴いていないな。
最初会ったときから頭が回らなくてちゃんと接してなかった。
でもやっぱり帰りに迎えに来たり手を繋いで帰ったりするんだから
想像通り赤也はシスコンということだろう。
あぁでもやっぱりちゃんと覚えとくんだった。
手の感触とか、あの声とか、自分を呼んでくれるときの顔や――
「!!!」
・・・今呼ばれたぞ。大声で、あの声で。
ちょっと待て誰も迎えに来てなんて言ってないよね?
ん?じゃあどういうことだ?
「お前もう七時だぞ!?いつまでほっつき歩いてたんだよ!」
心底心配していたのだろう。駅のターミナルということも忘れて大声で怒鳴っている。
「あの、赤也。なんで駅に・・・「お前が心配だったからに決まってんだろ!!」」
「いつから?」
「を見送ってから」
「ずっと!?」
当たり前だろ、と変な物をみるような目で見られ
なんだかこっちが悪いような気がしてくる。
「ごめん」
「今回だけだからな、許してやるのは。今度からちゃんと連絡入れろ。」
携帯だってあるだろうが。
本当にシスコンだよな、と怒られている本人は何も気にとめていない。
だいたい、元の世界の姉と喫茶店で作戦会議を行っていました、なんて
誰が言えるだろう。
宍戸と鳳を見てるだけで時間が風のように過ぎ去っていった。
電話する時間など無いに等しかったのだ。
なんとなくこちらにきても落ち着いてきたし、今からゆっくりと
赤也との時間を堪能していこう。と一人落ちを付けていた。
立海大附属中の門を抜けてから、は大きな溜息を吐いた。
今日あの無駄に長い髪をポニーテールしていったら、数人の女の子に話しかけられた。
「わー!切原さんのポニーテール始めてみた!」
「眼鏡も今日は外してるんだね!」
興味津々と言う感じで話しかけてくるので「うん。ちょっとイメチェンしようと思って。」
と返せば相づちをうってすぐに戻っていった。
それから帰りに別の女の子グループに話しかけられ「切原さん、今日の掃除もよろしく」。
うわあ、なんて典型的なイジメ用語なのだろう。
朝話してきた女の子達は地味めで、この子達はギャル系――クラスの女子を仕切ってる感じだった。
言い返せないように滅多打ちに理屈を並べてやろうと思ったが
姉の「絶対にボロは出さないように!」という言葉を思い出して少し黙る。
「用事があるから、自分でしてね」
それだけ言ってドアへ踵を返した。
掃除を押しつけてきた女の子は言い返すとは思わなかったらしく唖然としてこちらを見ている。
さんは一回も言い返したことがなかったのだろうか。
それを思うとあの女子がむかついてきてドスドスと大きな音をたてながら歩いた。
そして戻る。
立海大付属中の門を抜け、は大きな溜息を吐いた。
ふいに青学に通っているはずの姉の顔が浮かんで遊びに行こうと考えつく。
「思い立ったが吉!」
にんまりと口端をあげて駅の方向へ駆けだした。
は方向感覚がそれなりに良い方である。
昨日通った道をきちんと覚えて、神奈川駅で電車に乗り東京駅で降りた。
どうしてこう、何も考えなしに動くのだろう。
このときだけは自分を恨めしく思った。
「すいません」
案の定迷子になったはそこらへんでダベっていた中学生に訪ねることにした。
どう見ても不良っぽかったので避けたかったが、他に人が通っていなかった。
「あぁ?!」
「青春学園までの道を教えて欲しいんですけど」
ガンつけられたが気にもせずに自分の用を切り出す。
「嬢ちゃん、俺たち今喋ってるの、わかんない?」
「そうですね、わかりますよ。」
「じゃあ喋りかけんなや!」
「こっちにだって好きであなた方に喋りかけた訳じゃありません。」
自分の出来る限り柔らかい笑顔では中学生に笑いかけた。
カルシウムが足りないんだ。ちゃんと煮干し食ってるのか?
「ッテメ!」
振り上げた拳がに向かうが自身は一向に動かない。
「へー、女の子殴るんだ」
先程とは打って変わってにやりと微笑した。
これは女性の最大の特権である。
こういうときに使えばあっちは動かなくなることをは知っている。
「バーカ」
「っ!」
一瞬止まった拳を払ってから相手に平手打ちを食らわす。
いかん、手を出してしまった!
時はすでに遅い。周りの男達は誰一人として時が止まって用に動かない。
やっと一人が意識を取り戻したようで、に覆い被さろうとした。
すぐさま蹴りを食らわせて、相手はうずくまる。
わぁ、数が多いんだけどー
こんなに人いたっけな、と眉を寄せた。
「バカが!後ろもみやがれ!!」
後ろから迫ってきていた拳に気付かずにいたに、どこからか
そんな声がかかる。
それと同時にみぞおちに入る音もきこえた。
この声聴いたことあるぞ!?これはもしや・・・もしや!!
「あ、あああああ亜久津仁!!」
「買った喧嘩はちゃんとしろバカが!」
驚きのあまり(本人見たさのあまり)前の男を無視して後ろを向けば
見慣れた白髪と白ラン、厳つい顔を確認できた。
(バカがって二回も言われてしまった・・・)
忘れていた男をそのまま亜久津が殴り飛ばし、男子集団は全滅。
しかしにとって、すでにそれはそこらへんに落ちている石ころと同じになっていた。
目の前に亜久津がいるのだ。
あのいつでも千石といちゃついてる亜久津。
あの壇ちゃんに懐かれて、嫌そうにしてるが実は嬉しかったりする亜久津。
そう、あの亜久津が目の前に!!
幸希の視線を亜久津に送れば「あぁ?!」とガンつけられた。
それすらもにとっては、嬉しいことである。
「ありがとうございました!」
すごい勢いで腰を曲げる。角度は90度。
「フン」
鼻で笑ってから亜久津は去っていった。あれはきっと嬉しいんだ。
はトトロにあったメイと同じ顔をしていた。
・・・亜久津の名前大声で叫んじゃったけど、変に思われなかったかな?
の胸は弾んでいた。
理由は昨日の晩、とても名案を考えついたからだ。
「赤也、お願いがあるんだ。」
「今忙しいんだよ。後じゃダメか?」
「明日でいいんだけど、丸井先輩に東京でモンブランが
美味しい店教えてもらっといて。明日の昼休みに教えてもらえる?」
珍しく勉強しているようなので、も邪魔しまいと用件を
手短に伝える。
「わかった」
あぁ、赤也の言葉一つ一つに癒される。
森久保さんボイスにフラフラしながらやっとのこと自分の部屋に戻っていった。
昼休み、の教室に赤也が来ると女子の黄色い悲鳴がすごかった。
それを気にもとめずに大声でを呼ぶ赤也を少し尊敬してしまった――悪い意味で。
「丸井先輩が東京駅からの地図書いてくれたから迷うなよ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
さすがに公衆の面前で“赤也”なんて言えない。
後が恐いからなぁ。女子達の動きが。
赤也は少し嫌そうな顔をしたが、
妹が何故自分への呼び方を変えたのか理由がわかったようですぐに自分の教室に帰っていった。
昨日は亜久津と会ってから結局の所には行かなかった。
しかし、山吹中は東京駅から以外に近いことが判明したので、まあ良しとしよう。
左肩に鞄を担いで、右手に地図を握りしめていた。
山吹中の校門の前で亜久津が出てくるのを、今か今かと待っているのだ。
途中で壇ちゃんや千石さん、南や室町でもいい。
誰かが通れば良いと思っていたが、誰一人として通りはしなかった。
「テメェ、何してんだ」
頭上から降りかかった声に顔を上げると、お待ちかねの亜久津がいた。
亜久津を一目見た途端、の顔は一瞬にして満面の笑みへと変わる。
「あの!仁さん、昨日のお礼にケーキ食べに行きませんか?」
「フン、行くかよ。仁さんって言うな」
バカにしたように鼻で笑い、その場を立ち去ろうとに背を向ける。
「美味しいモンブランがあるお店知ってるんです!行きましょう、仁さん!」
「・・・ッチ」
小さく舌打ちをしてから「早く行くぞ」と言って睨む。
その様子には微笑した。
「見ちゃった・・・」
千石は唖然と立ち尽くしていた。
いつもは誰とも接しようとしない亜久津が、女の子と話していたのだ。
しかも一緒にどこかに歩いていった。
「くっそぅ、亜久津め!可愛い女の子がいたら紹介してっていっといたのに!
・・・あの子とどういう関係なんだろ・・・」
考えれば考えるほど、二人の関係がなんなのかわからなくなっていく。
兄弟?――いや、それはない。それならもっと小さいはずだ。
恋人?――それもない。亜久津の態度からして、そうには見えなかった。
じゃあなんなんだ!?
脳をハイスピードで回転させるが、一向にわからない。
「千石先輩、どうかなさったんですか?」
白ランの袖を引っ張られて下を見ると、壇が心配そうに見上げている。
隣には南と室町がいて、こちらも――少しだけだが――心配そうだ。
「よし、みんなコレつけて!」
さ、亜久津尾行開始!
そこは中学生男子が来るには可愛らし過ぎた。
主色はピンクで、ラッピングなども可愛くデコってある。
「・・・うまい・・・」
入ったとき、すごく嫌そうな顔をした亜久津だったが、
一口食べて小さくそうもらした。
「こっちのチョコケーキも美味しいですよ」
一切れフォークで切って亜久津の皿にのせると、また嫌そうな顔をした。
口つけたフォークで切ったから嫌だったのかな?
それとも単にチョコケーキが嫌い?
不安になって「どうしたんですか」と問う。
「俺もお前にやらなきゃいけなくなるだろーが」
思わぬ返事が返ってきて笑うと、もっと眉を寄せた。
「仁さんって以外と律儀ですね」
「仁さんって言うなっていっただろーが」
そんなに“仁さん”が嫌なのだろうか。
しかしここで引くわけにはいかない。も食い下がる。
「いいじゃないですか、仁さん。」
「バカいってんじゃねー」
「カッコいいですよ、仁さん。」
「・・・好きにしやがれ」
やはり先に折れたのは亜久津で、
は嬉しそうにチョコレートケーキをほおばった。
「また来ましょうね、仁さん」
「誰がくるか」
それを全部見ていた亜久津尾行チームは、会話は聴き取れなかったものの
亜久津が女の子とケーキを食べに行ったというだけでも大騒ぎだ。
翌日、山吹中テニス部で“亜久津をケーキ屋に連れて行った女の子”と
は有名人になっていた。
*おまけ*
「千石先輩、これやっぱりしなきゃダメですか」
というか俺これかけたら、二個になるんですけど。
室町は抗議をするが、亜久津と女の子を真剣に観察している千石は適当にあしらう。
「大丈夫。室町君のはサングラスじゃなくてゴーグルでしょ。
ゴーグルの上からサングラスしても、きっと多分変じゃないよ。
少なくとも俺らは笑わない、かも。」
かもって!?と抗議するが千石は聞く耳をもたない。
千石が三人に渡したのはサングラスだった。

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