昼休み。特等席の屋上で、一人風に揺られながらご飯を食べるつもりだったのに。 「えっと、それはどういう・・・」 目の前にはレギュラー面々。もちろんその中には双子の兄もいて。 引きつった顔で笑ってみれば、ブン太に笑われた。 「お前には、テニス部レギュラーのマネージャーになってもらう。」 え、そんないきなり言われても困るんですが。 言いたいところだったが、周りの空気からして言えそうにない。 「無理です、他をあたってください。」 そりゃマネジになったら、レギュラーといつもいられるけど。 あたしには体力と根気がない。 「つーことで、バイナラ」 いけ、!風のように駆け抜けるんだぁ!!!(三国●双ネタ) 必死に階段を駆け上っていると、後ろから手を引かれてそのまま落ちた。 「はい、捕獲」 それを軽々と抱きとめたのはブン太で、の顔は青い。 まさかもう捕まるとは思いもしなかった。さすがテニス部、そしてレギュラー! 「ブンちゃん、お願い逃がして!ほら、アメあげるから!!」 目の前で苺ミルクの飴をちらつかれると、「うっ」とひるむ。効果有り! 「いや、やっぱ真田の鉄拳のがこえーし・・・」 「セットで五個もあげちゃう!はい!!」 ポケットからいくつも取り出して、ブン太の手のひらに置く。 そのまま猛ダッシュでその場から去って、作戦成功である。 四階まで上ろうと、階段を見上げた時だった。 「がここを通って四階に行く確率、100%」 出た!第二の乾!! こいつはどうすれば対処できる、焦ってまともな考えが出ない。 落ち着け、落ち着くんだ! ここは・・・そうだ!! 「あのさ、柳・・・先輩。あたし円周率がわかんなくて、教えて欲しいんですけど」 「円周率もわからないのか」 元の世界の癖で、先程もブン太をブンちゃんと呼んでしまったし、今も柳を呼び捨てにするところだった。 柳は、円周率がわからないを、怪訝な目で見てくる。 「円周率は3.1415926535・・・」 ノートに書いてあるのだろう。 自分のノートを見ながら音読していく柳を、横目で見ながら、近くによって隣でノートを覗き込む。 「8979323846・・・」 少しずつ、少しずつ。後ろにさがっていく。 二歩ほど下がったところで、急いで廊下を駆け抜けた。 後ろで柳が呼ぶ声が聞こえたが無視。 二人目出し抜き成功 「待て、切原!」 この声は檜山さん・・・ジャッカルだ! そういえばアイツは持久力に長けてたんだった。どうする!? 「あの、ジャッカル先輩!」 「どうした?」 走るのをやめれば、ジャッカルもその場で止まり、一定の距離を保っている。 「あんなところにサンバ踊りながら今にも自殺しようとしている人が!!」 「何っ!?」 窓の外の屋上を指さしながら言えば、いともたやすく引っかかってくれたジャッカル。 少しだけ感謝。 「んじゃ!!」 そのまま後ろを向いて再び走りだすに、「を、待て!」ともう一度叫ぶが既に追いつける距離ではない。 また怒られる、と青ざめた顔で肩を落とした。 教室は安全地帯、なんて思ったあたしがバカだった。 友達なんか一人もいないことを今さら思い出したは、きょろきょろと隠れる場所を探すが、みつからない。 「」 呼んだ声は、馴染みある赤也のものだった。 「こいよ」 一言ひとことに、重みがある。 少し機嫌悪そうに差し出した手を掴めば、きっと自分はマネジにされるとわかっている。 「赤也、あたし・・・」 クラス中も、双子の重たいやりとりに固唾を呑んで見守っていた。 は、どう反応する。 「赤也が熟女好きでも、赤也のこと好きだからぁあああ!!!!」 「「えぇぇええええ!?!?」」 教室にいた全員は、一斉に赤也を見て驚きの声をあげた。 一方赤也は、脳がフリーズしきって、真っ白になっている。 「おっしゃ今のうち!」 駆けだして、下駄箱の方へ向かった。 「俺が好きなのは幼女だぁああああああ!!!!」 赤也、それも問題あると思うんだけど。 きっと今頃赤也はクラスメイト達に寒い目で見られてるだろう。 いや、君が熟女好きなのを否定したいから幼女が好きだって言ったこと、妹はちゃんとわかってるから・・・ 「そこまでだ!」 下駄箱の玄関で仁王立ちした真田を見、は下唇を噛んだ。 ここで捕まってしまうのか、自分は・・・ 「真田、一つ聞きたいことがある。」 「?」 「この騒ぎの原因はお前か」 「・・・あぁ。」 既に呼び捨てだが、もう気にしない。気にしている暇がない! 真田の返答に、俯いて「へぇ」と呟いた。 「真田、あたし真田になんか悪いこと、したかな」 「うぐっ」 うるうると涙を溜めながら上目遣いでいえば、真田が後退る。 「それなら、謝るから・・・許して、くれないかな?」 「し、しかしだな・・・」 「ダメ?」 「う・・・」 目を泳がせる真田が、何か言おうとを向いたとき。 下からのアッパーが綺麗に決まる。 「ぐはっ」 「バイバイ!原因が真田ならそれぐらいの報いは必要だよ!」 残るは二人。残り時間は15分。逃げ切れるか・・・ ここは無難に部室に隠れよう!まさか部室にいるなんて思わないでしょ。 してやったり顔でにやりと笑って、グラウンドへ走った。 息が切れて、横腹がきりきりと痛む。 足ももう動かない。あともう少し、あともう少し! 「疲れた・・・」 部室のドアを開けて座り込むと、少しだけ疲れが取れた気がした。 「さっきぶりじゃの」 嘘だ。嘘だ!幻聴、幻聴に決まってる。こんなところで捕まるあたしじゃない。 今までだって五人もの警官を逃れて・・・(あたしは脱獄者か) 「う、ううう嘘だ・・・」 目の前で鮮やかに笑ってみせる仁王は、悪魔にも見えた。 ふるふると首を振りながら座ったまま後ろへと進んだ。逃げるために。 「嘘じゃない。のぉ、柳生」 「えぇ。現実ですよ、さん」 後ろの柔らかい壁にぶつかり、振り向けばそこには柳生が立っていた。 騙された、裏の裏を欠かれた! 「えー、テニス部レギュラーに注ぐぅ。切原捕獲完了じゃ」 スピーカーで振りまく声は、にとって絶望を認識させるものでしかなかった。 こうして幕を閉じた脱獄大作戦。 悔し涙を浮かべながら下唇を強く噛んだ。 逃げられないようにとレギュラーに囲まれて、今度こそ脱出は不可能である。 「観念しろぃ」 哀れな目で自分を見ながら、頭を撫でるブン太の手を振り払う。 憎しみを込めてキッと睨みあげれば、目を泳がせて他方を向いた。 「だいたい、何であたしなんです。レギュラー全員は納得したんですか?」 誰か一人でも納得していない人がいれば、と周りを見渡す。 「前々から赤也が言っておったしの。」 「それに、先程の脱出といい、面白い人材ですしね」 お前らダブルスうざい! ・・・嘘だよ、あたし君達のとっても大ファンだよ。 「俺、熟女好きじゃない・・・」 「ごめん赤也!逃げるために必死で嘘ついちゃって!」 そうとうショックが大きかったらしく、しょぼくれた赤也を懸命に励ます――というか謝る。 「俺は飴もらえたし一石二丁だぜ」 嬉しそうに、先程あげた飴をポケットから一つ取り出して、口に放り込んだ。 「俺は殴られたぞ!」 「報いだって言ってんだろーが」 半ば切れ気味に言えば、赤也が吹き出す。 他の部員は大して被害という被害が出なかったようで、何も言わなかった。 「それでは、明日からきちんと部活に出席するように」 「遅刻は許されんからな」 先程の仕返しなのか、偉そうに言った真田に頬を膨らませて「いーだ!」と舌を出した。 ん、ちょっと待て。 「結局あたしマネジになるの!?」 「当たり前だろう」 返してあたしのマイライフ!!! |