ふらふらとおぼつかない足取りでコートを駆けていく。 「!こっちにドリンク頼む!」 「、これを部室の棚に置いておいてくれるか」 お前らあたしがいたときは、どうやって部活してたんだよ、と思うほど仕事がある。 体力と根気がないとは思っていたが、喧嘩とマネジの仕事が全く別であることも思い知らされた。 「!!何をやっている、早くしろ!!」 遠くで聞こえた真田の怒鳴り声を合図に、意識がふわりと飛んでいった。 真田が上司で、あたしは部下。ああこれは夢だとわかっていながらもなんかムカツク。なんであたしが下なのさ。 書類片手にしびれをきらした真田がバンと机を叩いて思わず肩がビクリと震えた。 『!!何をやている、早くしろ!!』 大声でいつもいつもそう言われて、正直もう堪忍袋の緒が切れる感じ?つーかなんであたしが夢でまで怒られなきゃいけないのさ。 このハゲ、武将、おたんこなす!親父、頑固、老け顔!!と叫びたい。 けど、もしここで叫べばクビにされる・・・ああもうムカツク。ありえないありえないありえない! 『、早くしろと言ってるだろう!!!』 この野郎えばりくさって!! 「こんのクソ野郎・・・」 「俺に指図すんじゃねー!!ハゲ真田!!!!」 自分の出る限りの大きな声で叫んで、違和感を感じる。あれ?おかしいなー 辺りを見渡せば、始めてみる景色で自分がベットに横たわってることから、保健室とわかった。 「ぶほっ!」 「・・・それは言い過ぎだろ」 ブン太が必死に笑いを堪えてたようだが、我慢できなかったようで吹き出す。 その隣に座っていたジャッカルは、可哀想なものを見る視線を自分に向けている。 「俺はまだ、中3でハゲてはいないぞ、」 後ろで腕を組んでいる真田は、穏やかにそう言ったが、にとってはそれが恐怖だった。 やばい聞かれた!怒られる!わーん怒られるの嫌いなんだってば―特に真田とかめちゃくちゃ怖いし! 笑っていたブン太が、相変わらずに緩み顔で「俺1抜け!」と叫んで保健室を出ていき、 残された片方、ジャッカルは「あ、待て!」と後を追ってしまった。 何がしたいんだお前達は! ベットに半身起こした形なので、立っている真田を横目でちらちらと伺う。 真田もその様子がわかり、少し息を溜めて長い溜息を吐いた。 「だから言ったのに・・・他をあたってください、って」 頬を膨らませ、文句をたれるを、なぜか自分は甘やかしてしまうのだ。真田は頭を抱える仕草をする。 先程の溜息は自分に対してでもあった。 「夏休み中盤に、関東の中学校テニス部の代表選手を集めて合同合宿がおこなわれる。 今日の放課後練習の時間は、お前にその資料を氷帝に持っていってもらう。 合宿にはお前にも参加してもらうから、それまでにはきちんと仕事を覚えておけ。」 大きな手で軽く頭を叩かれ、怒ってないことがわかり、安堵する。 なんだよ真田いいヤツじゃん。そう思うと頬が緩んでしまう。ああやばいなーガンデレかな―真田は。 「くれぐれも、ばれるような行動はするなよ」 釘をさしてから保健室を出ていった真田の背中を見送った瞬間、再び睡魔に襲われる。 そのまま、コトンと寝てしまった。 氷帝に一人で行くのは危ない。 それはさすがのでもわかった。 ――あたし跡部につっかかっちゃいそうだしなぁ。 先程真田にも、くれぐれも迂闊な行動はするな、と釘をさされたばかりだ。 最近はお互いの現状も把握することもなくなっていた姉と、一緒に行けばちょうどいいだろう。 普段中庭は誰も使っていないので、の特等席になっていた。 (授業サボったり、昼寝したりとかしてないよ!してないからね!!) 保健室を出るときに打ちなれた携帯で「昼休み電話をしていいか」と用件だけの内容を送っておいたら、 昼休みに「電話OKだよ」と返信が来ていた。 すぐにディスプレイに“”のデータを呼び出して通話ボタンを押す。 『もしもし』 「やっほー、姉ちゃん元気?」 久しぶりに聴いた姉の声(と言っても元の世界とは違う)を、懐かしく思う。 『とりあえずね』と言う声のトーンで、向こうで肩をすくめている様が目に浮かぶ。 『それで、どうしたの?』 大事な用件は二つ。 どちらもの立場としてよろしくない内容だが、言わなければ始まらない。 「あのね、先に謝っとくけどゴメン。ばれちゃった」 おどけたように言うと、一瞬押し黙ってから『誰に?』と返される。 「真田と柳とユッキーとブンちゃん」 笑っちゃうよねーと続けて笑うが、の方は黙っていた。 怒ったかな? 『・・・なんで』 零した言葉は、怒りを抑えているのがわかった。 しかしそこまで気にしない。気にしたって意味無いし!! 「真田と柳には、亜久津と一緒に乱闘してる所見られて、 ブンちゃんにはクラスの女子に“赤也の妹になれたから調子に乗ってるんだよ!”って切れた所聞かれたの」 『何確信に触れるような事いってんのアンタは――ッ!』 をぅ、声がでかいぜコノヤロー 「だからゴメンって言ってるじゃん」 『柳がごまかせないのは分かる。柳にバレた以上真田を丸める事が出来ないのも分かる!その連鎖でユッキーに伝わるのもしょうがない あの三人はまだ口が堅そうだから百歩譲って許すにしろ、ブン太にバレたら部活中に言ったも同然だろーがぁ! って言うか亜久津と何時知り合いになったのよアンタは!』 だから声がデカイって言ってるでしょうが!鼓膜がはちきれん勢いだぞ!? 大声を出して怒鳴るに少し呆れながら、「姉ちゃんうるさい」と毒づく。 「一個づつ聞いてくれないと返答に困るよ」 「姉ちゃんと落ち合った次の日にね、姉ちゃんに会いに青学に行こうと思ったら道に迷っちゃって。 道聞こうと思ったら柄の悪い人たちしか居なくてね、仕方ないから聞いたのよ。 そしたら案の定因縁つけられたから思わず手が出ちゃって、後ろから殴られそうになった所を亜久津に助けられちゃったのよ。 これは運命の出会いっしょ?んで、せっかくだから亜久津と仲良くなりたいじゃん?って訳で私は山吹に通いつめたのですよ。 そんで一緒にモンブラン食べに行ったりしてたんだけど、お好み焼き食べに行った日に人にぶつかって絡まれちゃって、 正当防衛だから一緒に暴れてたら、何でか知らないけど東京に真田と柳が居て…バレちゃった」 えへ、と続けようかと思ったが、が怒っていることを思い出したのでやめておいた。 「それに、ブンちゃん言わないって約束したから大丈夫だって・・・多分!」 自信満々に言えば、「何で多分だけ自信一杯なのよ!」と怒鳴られてしまい、 脅したんだよ、と言おうと思ったがそれも怒られそうなので、それも言うのをやめておいた。 声を震わせながら「今一緒にいたら殴ってる」と呟いたに、 「だから電話したんじゃん」と呆れながら言い返す。 「そんで問題はココからなんだけどさぁ〜。 なんかテニス部のマネジになっちゃったんだよね。あ、もちろん断って逃げたんだよ。 でも捕まっちゃって」 まったく困りものだよ。いつ赤也にバレるかハラハラしてるんだよねぇ。 それをきき、はもうどうにでもなれ、と言う感じで返答する――「・・・そして自ら的になる敵地に赴いてる訳ですか」 「何かその言い方カッコイイねぇ!そうそう、赴いてる訳ですよ」 自分なりに格好良く言ったつもりなのに、電話越しに小さな溜息が聞こえた。 今日は溜息をよく聞く。 「そんでね、夏休みの中盤あたりで合宿あるらしくって。 朝真田に資料を氷帝まで持っていくように頼まれたんだけど、姉ちゃんも一緒行こうよ」 『え、嫌だ』 「即答ですか!?返事早いよ!」 勢いで大声を出してしまった。 さっきから、誰も来ないからと言って大声を出しているが、誰にも聴かれていないか心配になる。 「なんでー、行こうよぉ」 『誰が好き好んで跡部と忍足に関わらなくちゃいけないのよ。私はアンタと違って平穏な日々を望んでるの』 そして一般市民なの、セレブとは次元が違うのよ。 冷静に続けたはどうすれば来てくれるだろう。 思考を巡り巡らせ、行き着いた先の答えはこうだ。静かな声で呟く――「いいのね・・・?」 案の定少し慌てた様子で「な、何が・・・?」と返ってきた。 「あたしと跡部が会うんだよ?何かあるよね?何もない訳がないよね?」 自分で言ってて虚しいが、自分の身柄を確保するために仕方がないことだ。 はしばらく押し黙り、あからさまに溜息を吐く。 『分かった…行くよ。何時に氷帝集合?』 「学校終わるのが四時だから、余裕を持って五時半位に氷帝の門前集合って事で」 よし、とりあえず、これで問題を起こしても姉ちゃんがどうにかしてくれるはず。 明るい声で「んじゃぁねぇ」と言って切った。 |