自分にしては早めに来た、と予定時刻十分前を指す時計を見つめた。
氷帝学園、と書かれた門を見て、脈打つ心臓がうるさい。

始めて立海の門をくぐったときも、嬉しさと不安と心配・期待からくる胸の高鳴りがうるさくて、思わず耳をふさいだ。
やっと来た、夢じゃない。あたしはやっぱりここにいるんだ。

“ちょっと探検してくる。
テニスコートで待ってるね(*^ワ^*)/”

今現在どこをほっつき歩いているかわからないにメールを送る。
準備完了!探索開始











と張り切ってみたものの。
適当な方向に歩いていき、気が付けば周りを木に囲まれていた。

しかし、無駄にデカイ校舎のお陰で、無事に謎の森から出てることが出来た。
校舎のすぐ隣にグラウンドがあって、遠くにフェンスが見えたので行けば、テニスコートが見えてくる。

「ほら、見ろよ。部活に打ち込んでるやつなんて、時間無駄遣いしてるだけだぜ」

嘲笑うように吐き捨てた言葉は、にとって聞き捨てならないものだった。

アニメに出てくる、部活に打ち込んでいる彼らを見ることで今まで励まされていた。
そんな彼らを、間近で見たいと思って、やっと今ここにいる。

それを彼らは侮辱した。
してはならない、決して許されないこと。

自分でも拳が小刻みに震えていることがわかって、すこし微笑する。


「その言葉、聞き捨てならないんだけど」


またに怒られる。
わかっているのに、どうしても喧嘩を売れずにいられない。

「あぁ?」

ちゃらちゃらした感じの、見た目からして親の金で入ったことがわかる男集団。
世間知らずもいいところだ。

「今の・・・今の言葉を訂正しろって言ってるの」

抑えろ、抑えるんだ。ここでブチ切れちゃいけない。
にも、もしかしたら立海にも迷惑をかけるかも知れない。

「きこえねーなぁ」
「今テメーが部活してる子達バカにした言葉を訂正しろって言ってんだよ、あ゛ぁ!?」

すごい剣幕で怒鳴るに、相手はひるんで後退る。


も元の世界では帰宅部だった。
一年の頃に入った部活は、あまり好きになれなくて、病気にかかったのをきっかけに行かなくなった。

それから、他の部活にも入ろうとはせず、帰宅生活が一番楽で。
別にしたいことが無い訳じゃなく、逆に時間が足りなくて困っていたぐらい。

けど、どこかで部活に打ち込んでいる人たちに憧れていた。

実際は、いじめとか厳しさとかで、綺麗なものじゃないかもしれなけど、
それでもやっぱり、どこか眩しくて、輝いているように見えて。


どこかで憧れていた人たちを、バカにされたのが悔しかった。

「お前氷帝の生徒じゃねーくせに、口出ししてんじゃねーよ!!」

男に胸ぐらを掴まれて、間近で言い換えされたのでつばが飛ぶ。
――汚い。
嫌そうな顔をもろに出しながらも、はひるむことはしなかった。

「氷帝とか氷帝じゃないとか、そんなの関係ないよね。
ただ部活に打ち込んでる人たちをバカにするなって言ってるの。言ってる意味、わかるかな」

相手の胸ぐらを掴み返して、静かに言葉を並べる。
妙な威圧感と冷静な正論で、返す言葉も出ずに押し黙った男。

「う、うっるせぇ!!このアマ!「おい、お前ら何やってる!!」・・・」

振りかざした拳が、その声で瞬時に止まって、男達が青い顔で後ろを振り向く。
そこには、帝王跡部がすごい険相で立っており、「やべっ」と零すとすぐに退散していった。


「おい女、お前も早く帰れ」


あたしはこの声が聞きたかった!愛しき諏訪部さんボイス!!!
でも“女”呼ばわりされる覚えはないぞ。

「あたし、仕事があるんで。」

“氷帝テニス部部長の貴方に”とは言わない。
ここで「ごめんなさい」と言ったら負けのような気がしてならない!

「ならさっさと終わらせて帰れ。
だいたい、あんな奴等の喧嘩なんか買うな、ガキじゃあるまいし」

今さりげにコイツ、あたしのことガキって言ったよね?


「あ、跡部。こんなところにおった「アホベのくせして、あたしのことガキっていうな!!」」


遠くで例の眼鏡の声がしたけど、きっと気のせいだ、多分。
プチギレして大声を出せば、跡部が一瞬固まって、「あ、アホベ・・・」と呟く。

先程のの“気のせい”は“気のせい”ではなく本当で、急にいなくなった跡部の後を追ってきた忍足も動きを止める。
まさか、跡部のことを「アホベ」と叫ぶ女子がこの世に存在するとは・・・

はっ、と意識を取り戻した跡部は、額に青筋を浮かべる。

「ガキはガキだろーが、あぁん!?」
「ガキガキいうな、このアホベー!!」
「伸ばすんじゃねーよ!」

今にもお互いに頭突き合いしそうな勢いで、低レベルな言い争いを繰り広げていた。
忍足は、それをただ唖然として見ている。


「何がチャームポイントは泣きボクロよ!悪戯黒子よ!!
黒子っていうのは
皮膚にみられる黒褐色の斑で、母斑の一で、周囲より隆起し、アズキ大までのものをいう。”(yahoo!辞書検索から)
のよコノヤロー!!」

「詳しい話なんか知るか!!だいたい誰がいつチャームポイントは泣きボクロなんて言ったんだ!!」

「ハイテンションで歌ってるじゃない!
チャームポイントは、泣きボクロ〜♪って!ノリノリで!!!(ここ重要)」


ゴージャスボクロ〜♪とは拳を振って歌うものの、生憎跡部にはまったく見に覚えがない(当然だ)



だんだん話の内容がずれてきている。それもこれも、きっと(というか確実)のせいだ。

意識を取り戻した忍足は、携帯を開いて一番最初に目についた人物に電話をかけた。

「あ、宍戸?そこに鳳もおるん?」
『あぁ、いるぜ。どうした?』
「今グラウンドの端っこに来たら面白いもんが見れるで。はよきぃや」

それだけいうと、返事を待たずに切った。くるもこないも宍戸次第。
忍足が電話している間も、と跡部の口げんかは続いていた。


「攻めの顔して実は受けのくせに!!」
「意味わかんねぇぞ!」

「いつもニキビができないように、油モノは控えてるくせに!!」
テメーちょっと黙れ!!!


言い直そう。口げんかと言うよりも、が一方的に文句を言っている。
どれもの中での跡部の設定であり、跡部は何もしらない。

いつの間にかギャラリーも増えてきて、跡部にこれほど言う女は珍しいと、珍生物を見る目で、皆を見ている。
その中にはもちろん宍戸と鳳もいた。

「宍戸先輩、あの子この間一緒にお茶飲んだ子ですよね」
「言うな、鳳。何も言うな。俺には止めることはできねぇ」

せめてさんがいたら、と鳳が零す。
もちろん宍戸もその意見に賛成だが、ここはあえて何も言わない。

今自分が喋れば、彼女は敏感に反応して自分を巻き込む可能性がある。

「いーだ!このアホベ、泣きボクロ!!」
「てっめ、もう一度言ってみやがれ!!」

「何度だって言ってやるわよこの泣きボクロアホベ!このセレブ!」

すぐそこにがいるとは気付かず、は跡部に叫んだ。