結構長距離歩いたと思う。というか相当歩いた。絶対めちゃくちゃ歩いた。もう歩きたくない…無理。
疲れてきて、坂道とかすごくきつい。おんぶして欲しいぐらいだ。もう駄目…
「、大丈夫か?」
全然平気そうな金太郎は、心配そうにを覗き込む。なんだよこいつらホントに人間かよ…いやこいつは野性児だった。
振り向くと謙也も財前も、平然としている。やっべーもしかして人間じゃないのってあたしなの!?
「だ、大丈夫、だよ」
こんなんで食べ歩きツアーなんてできるのだろうか。というかもうおなか減って動けない。
「せや!わいがおんぶするわ!」
「え゛!?い、いいよ。まだまだ余裕よゆう!」
そうか?と覗き込んでくる金太郎を、大丈夫だから、ともう一度言って前を向かせる。
”さん”の身体とはいえ、中2の女の子の体重をなめちゃいけない。
「ところで、地元の人でも食い倒れとかするんだ?」
「あったりまえやん!うまいトコ仰山知っとるで!!」
先程から金太郎としか会話をしてない気がするのは気のせいか。二人はついてくるだけ、という感じだ。
それでも、金太郎の声を聴くのが嬉しい。可愛い可愛いその声に胸キュン(←古い?)してるのが自分でもわかる。
こっちに来てから、一人ひとりキャラに会うたび
「テニスの世界に来た・・・」
胸の奥で幸せを噛みしめて、今を大切にしなければ、と思う。
それがたとえカツオでもカチロウでも、堀尾でも思うだろう。
不意に腕を引っ張られた。尻もちをつきそうになって慌てるとどんと誰かにぶつかる。
ビックリして弾かれたようにそちらを見ると、謙也が自分の手を引いているのに気付いた。
「何回呼んでも気付やろかいから。自分めっちゃアホやろ。あんだけ金太郎が騒いでんのに気付かへんし」
「・・・やろかい?」
少し眉を寄せて、「気付かないって意味」と付け加える。ああ、なるほど。
「はよきいや。もう二人とも頼んでんねやろうから冷めてまう」
なるほど。店に着いたから呼ばれたのに、あたしは気付かなかった、と。
考え事をしていたので、全くわからなかった。というか全然聞こえてなかった。そんなに騒いでたのかな?
「ごめん」
いや、別に謝らんくてもええけど・・・
お互い気まずそうに視線を逸らす。えー、なんですかツンデレですか奥さんッむしろガンデレですか奥さんッ
「何してるんですか、忍足先輩。切原もはよしいや」
財前の割り込みによって、気まずい空気の中から逃げ出すことができた。よかった。萌えで死にそうだった。
――財前君感謝。
さっきの店は串カツやだったようで、金ちゃんと財前君がやっぱり先に買ってくれていたようだ。
と謙也に二人の分を渡すと、自分たちも食べ始める。食べる、というよりがっつくという表現の方が正しいかもしれない。
「今度は何屋?」
「たこ焼きや!!」
揚げかすを口の周りにたくさんつけて、金太郎はにかりと笑う。油てっかてかの唇もかわいらしい。
大声で「萌!!」と叫びたい衝動を一心に抑える。
だんだん人通りが多くなってきて、商店街と思われる場所に入っていく。人多いなー、酔いそうだな。ていうか第一迷いそう?
「切原、はぐれんようにしとき」
いつの間にか陣形は、先頭を金太郎が歩き、その後ろを三人で並んで歩く形になっていた。フォーメーションBですかコノヤロー!
財前君が優しい!財前君ってば男前!!
・・・いや、金ちゃんも可愛いけど・・・謙也君デレデレだけど・・・
「なんかさ、財前君ツンデ…じゃないや、しっかり者の弟みたいだよね」
自分の言葉と一緒に、遠い神奈川にいる双子の兄の事を思い出す。あっちはお兄ちゃんだけど、弟に見えなくもない。
心配してくれているだろうか、それともいなくなってせいせいしてるかも知れない。やばい、アンニュイになってきたぞ。
「わいは?」
「金ちゃんはペット」
「ペット!?」
ペットと立場決めされた金太郎は、ショックそうに俯く。あれおかしいな、悲しかったのかな?
「金ちゃんは、あたしが愛情込めて育ててるペット。
財前君は次男で、隠れ兄弟想い。
謙也君は、長男でいつも面倒ごとばっかり頼まれてる、とか。けどすんごいシスコンとかブラコンとかそんなかんじ」
まさかそうくるとは思いもしなかったようで、財前と謙也が同時に「そんなん始めて言われた」と零す。
言った当人は、二人の呟きに気付かず歩き続けている。そっち方面じゃないと誰か教えてあげてくれないだろうか。
「なんやおもろい子やな」
お子様が三人に増えた、と思う反面、楽しみにしているのは確かだ。こういう馬鹿は嫌いじゃない。
「わ、すんごい!イカ焼きが屋台でやってる!謙也君あれ食べたい!!財前君と金ちゃんも食べたくない!?」
服の袖を引っ張って、小さな子供のように商店街の一件の店を指さす。
金太郎が「わいも!」と叫ぶと、「ねぇ行こ!」と輝いた目で謙也を見つめる。
「しゃーないなぁ、もう」
金太郎をペットだと言っていたが、もペットの素質がある、と一人思う。
隣を見れば財前も同じ事を思っていたようで、溜息を吐いている。こういう面倒事は、いつだって俺たちに任されるのだ。
「やった!早く!財前君も、ほら」
動きの遅い財前の腕をもう片方の手で掴んで引っ張り、駆け出す。さっきまでの疲れはすっ飛んだようで、元気いっぱいに走っている。
目指すは商店街の『イカん子』。おいちゃんちょっとネーミングセンス考えろや。
最後のイカを頬張って、あまりの美味しさに頬が落ちるのではないかとほっぺたを押さえる。
さすが大阪。さすが食い倒れ。どこもかしこも美味しい店ばかりだ。
「いいなぁ、大阪。毎日美味しいもの食べれるなんて」
神奈川にだって美味しいところはあるけど、食べ歩きなんかできない。
「、大阪住めばええやん!」
「いやそれは無理がある」
名案だ!とでも言いたげに瞳をキラキラさせた金太郎を、一刀両断する。「えーなんでなん?」
ぶーと頬を膨らませて、腕を頭の後ろで組んだ。こういう弟いたらすんげー可愛がるだろうなー。でもはもう手に負えないだろうなー。
「最後はたこ焼きだねぇ。金ちゃんまだ着かないの?」
「もうすぐやって!」
金太郎は打って変わって嬉しそうに笑う。どうやったらこんなに素直な子が生まれてくるんだろうか。
「切原達は明日帰るんか」
「はい、そうですね」
”帰る”という単語が、胸に突き刺さる。まだあの衝撃が脳裏に焼き付いて離れない。
できるならこのまま大阪に居れたら――でもあたしにはマネジの仕事もある。
どっちつかずの心境に、自分でも苛立つ。
――自分は何がしたいんだ。
「ここや!」
大声で元気よく(うるさいとも言う)店を指す金太郎。おなじみのようで店主は「やー金ちゃん」とにこやかに笑った。
やっと着いたか、と安堵する。長く歩くのはあまり得意な方ではない。
たこ焼きを四パック買って、店に置いてあるベンチにみんなで座った。
元の世界で”たこ焼き”と言っても、スーパーの隣にある小さなお店でしか食べたことがなかった。
一つ口に含んで、噛むたびに美味しくなるたこ焼きにへらっと顔の筋肉が緩む。
「んんーッ、えくすたしー!」
白石のようにエロく言えないので、完璧に言い表せないのがくやしい。どうやったら中3であんなにエロくて変態になれるんだろうか。
どれだけ舌が回るんだ白石!どんだけ変態なんだ白石!
「・・・それ、もしかせんでも部長の真似?」
「うん・・・一応は・・・」
寒い目で見られ、申し訳なさそうに俯き加減で返答した。
そうか、と返す財前も、なかなかに俯き加減である。
「似とったで!!元気だしいや」
金太郎なりの励ましなのか、自分のたこ焼きを一つのパックに放り込んだ。癒される…
「食べ終わったらともお別れやぁ」
悲しそうにゆっくり(それはもう亀を思わせるスピード)で食べる金太郎。そんなことしても飛行機は待っちゃくれませんぜ旦那。
それを聞いて、財前と謙也ものパックにたこ焼きを入れる。
「?」
「これも何かの縁やろ。出会いの記念や」
「俺のは餞別」
二人とも照れているのか、それから何も言わずにたこ焼きを食べ出す。やっべーツンデレだーガンデレだ―
大阪、これてよかった。
心の中でに感謝して、大切そうにたこ焼きを食べた。
――今日は何も問題起こらなくてよかった。
(喧嘩とか暴力事件とか、乱闘とか・・・etc)
これでとりあえず、に説教されることは回避された。・・・と、思うけど、な?
