届けるように頼まれたドリンクとタオルも放り、フェンスに手を絡ませる。
フェンスの中では、岳人・侑士ペアとリョーマと桃城ペアが練習試合していた。
こんな試合、原作でもマンガでも見られない!
それもあってだが、はもっと重要な(あくまでも、の中で)ことで感動していた。
身体がうずうずして、手なんかもう震えっぱなしだ。
――言いたい、叫びたい!
「・・・は、ひょう・・・負け・・・せいがく・・・」
小さく、できるだけ小さく呟く。ああでも我慢できない!やばい叫びたい!
だんだんとそれだけでは物足りなく感じてきて、叫びたくてたまらない。
「勝つんは氷帝!負けるの青学!」
試合が止まり、岳人がぎょっとこちらを凝視し、侑士は呆然としている。
その視線さえも気付かずに、熱唱する。
「負けは知らへんぅ!勝つんは当たり前!!
完璧なまで叩きのめしてやるぅ
瞬殺攻撃ぃあっという間やでぇ 絶対攻勢チョチョイのチョイだぜ
栄光もたらすぅ 二人で一つのオーラ 眩しいだろぉ!!」
「待て!ちょっ待て!!」
割って入ったのは宍戸で、ちょうどそこにいたらしい。「あれ、偶然ですね宍戸先輩。こんなところに」
汗をかいていて、脇にラケット。どうみてもそれは偶然とは思えない。走ってきたのが見え見えであるのにも関わらずは気付いていない。
「っていうか宍戸先輩、何するんですか!超いい気持ちでうたってたんですけど!」
「場所をわきまえろ!場所を!」
「メッチャわきまえてますよ!ほら、氷帝と青学戦でしょ?あ、リョーマ君と桃城先輩が負けろって意味じゃないんですよ!
むしろ両方とも頑張って下さい!そしてお相子になったら是非じゃんけん勝負をどうぞ!忍足がじゃんけんとかしたら気持ち悪くて笑えます!」
「そういう意味じゃねぇよ!!」
「じゃぁ、なんなんですか」と顔をしかめるに、ドリンクとタオルを持たせる。
首を傾げれば、「俺も手伝ってやるからさっさと仕事終わらせろ」と宍戸も顔をしかめた。
「恥ずかしくねぇのかよ」
まるで自分のことのように、耳まで赤くしてそっぽを向く。やばいやばい、萌える!
にやけてしまう顔を必死に手で隠して、コートを見た。
「試合の邪魔しちゃってごめんね!四人とも頑張れぇ!!」
手を振って、そのままその手で宍戸の腕を掴む。
「さぁ行きましょう宍戸先輩!」
「・・・あぁ」
日光が一番さすと思われる中庭に、洗濯竿を立ててタオルを干す。
最後の一枚をかけ終え振り向けば、ピンク色のジャージ+二人の女の子がいた。
一人は二つ結び、一人は三つ編み。
「どうかなさったんですか」
スミレが、「おぉ」と歓喜に満ちた声を漏らす。
咲乃と朋香がこちらを見て、一礼した。
「昨日越前に頼んだんだが、日射病で倒れただろう?だから二人に頼もうかと思ったんじゃが・・・お前さんに頼もうかね」
頼むよ、とお金とメモだけ渡して、コートの方に戻っていく。
「あの、私達着いて行きましょうか?」
「いいよ。別の人に頼むから」
咲乃の声優は好きだ――けど、咲乃は嫌い。
朋香は、子供っぽくて女の子らしくて、うるさくて――まるでちょっと前の自分を思い出すようで、すごく苦手。
そっけなく返せば、遠くから赤也が走ってくる。
「、丸井先輩が呼んでるぜ。”ドリンク持って来い”ってよ」
――昨日。爽健美茶を買いに行った時に偶然会ったんだよ。そこで、小坂田と竜崎の立ち話を聞いちまったんだ。俺と、コイツで
先日の跡部の言葉を思い出す。
こいつらは、を苦しめた。今まで落ちついていたを、また恐怖へ貶める原因を作った。
それはにとって、嫌いになる最大の条件を満たしている。
「俺の分もな」
ちゃっかりつけたしながら、よろしく、と結局隣にいる二人を一目も見ずに帰ろうとする赤也の手を取った。
ぎゅぅっと握って、「一緒に行く」と言えば、小さく返事が返ってくる。
まるで変なモノを見たような顔をしている朋香と咲乃の方へ振り返り――
「兄弟愛って、人が思ってるより大きいんだよ。
あんたらが何考えて”ちゃんがリョーマ君のこと好きなのは下心見え見え”とか言ったのか知らないけど、
姉が弟に触れることの何が悪いの?姉が弟を大切に・・・好きだと思うことの何が悪いの?
ねぇ、説明してみせてくれる?」
微笑して見せたは、驚くほど怒りに満ちていた。
目は笑っていないし、口を両方へ引きつらせたような。けれど、とても綺麗に笑う。
「ッ・・・」
「んじゃ。ちゃんはあたしの大切な――友達、だから。
苦しませるようなこと、しないで?あたしも無駄なことで怒りたくないし」
睨むような、苦しそうなそんな目は、何を思っているのだろう。
どこでそれを知った、それともあんたに言われる筋合いない、だろうか。
本当は、無駄なことでもなんでもない。
に苦い思いをさせることは、たとえそれが大事な友達でもは縁を切る。
それぐらい、とても重要なこと。
でも、それは友達としての立場で考えれば、どこか違う気がする。
だからあえて嘘を吐いた。
中庭から見えなくなると、はすぐに手を離した。
「ごめん、いきなり」
へへ、と笑った顔は先程と同一人物とは思えない。
赤也やテニス部の前で、いつも無邪気に笑ってはっちゃけているが本物なのか、
はたまたさっきの二人の前で表した姿が本物なのか。
「お前、あんな顔するんだな。・・・正直メチャクチャ恐かった」
「子供過ぎるんだよ、あの子達。
噂大好き、関係ないことに首突っ込んで、大喜びして、立場が悪くなったら黙り込んで。
そのくせ何でもわかってるような顔して、大人ぶって・・・そんなところが子供っぽいんだよ。
まるで・・・まるで、昔の自分見てるみたいでムカツク」
唇をとがらせて、足元の小石を蹴る。
そんな人間がこの世で一番嫌いで、一番近くに寄って欲しくない。
けど、そんな人間はこの世に五万といて、普通に生活している。
近くに寄って欲しくない、なんて言っていれば、誰とも接することができなくなる。
「あれで全部言い切ったかと思ってたぜ」
「あたし、無意味に指摘しないようにしてるんだ。いい事も悪いことも全部返ってくるんだから、悪いことしてる分、その人すごく傷つくでしょ?」
「いっやー、すんごいダサいよねあたし。激ダサだぜってやつだよねー」
へらへらと笑いながら言うことではないのに、対して考えている様子もなく笑う。
人が傷ついて嬉しいことはない。
けれど、自分から人の為になろうなんて思わない。
返ってきたとき、それで学べばそれで終わる。
それで学ばない人は多いし、けどそれで学ばなくてもそれもその人のせい。
そこで自分が出てくる必要性は、まったくと言っていいほど感じない。
けれどそれは一般的に見れば、とても醜い心を表していることも、自覚している。
「みんなそんなもんじゃね?別にお前がダサいとか俺おもわねーし」
きっと別れるまで何も言わないだろうと思っていたので、思わず顔を上げた。
そっぽを向いていてわからないが、きっと気まずそうな顔をしているだろう。
「結構、いると思うぜ」
頭に重力がかかって、それが赤也の手だとわかるのに時間はかからなかった。
多分、今自分を見るなという意味だと思う。
「ありがと、赤也」
周りが自分を少しでも遠ざければ。周りが自分に少しでも危害を与えたなら。
すぐに切り離した。すぐに遠ざけた。
それが出来るように、いつもうわべだけ笑った。話についていけて、同意して、笑って、ふざけていれば。
みんな、自分の事を格下だと見た。みんな、何も不審を感じなかった。
そうしていたから、こちらに来たとき迷わず”さん”のふりができた。
自分にメリットがあれば、その人物といる。
自分にデメリットであれば、すぐにでも切り離せばいい。
そう言う考えで、いつでも人と付き合ってきた。
だから、赤也の言葉は自分を否定するわけでもなく、認めるわけでもなく。
みんなそうだと、どこか遠巻きに見ていた”一般”の中に、自分を入れてくれた。
「ありがと、赤也」
もう一度、繰り返した。
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word by→テニミュ 勝つんは氷帝
