デパートに行って、買い食いしたり、CDを見たりしていると、随分時間が経ってしまった。
あと二時間で門限になってしまう。

「わん、そこのスポーツ店さ行ってくるばぁよ」
「じゃああたし、その隣の雑貨屋にいますね」

またあとで、と片手を上げて、二手に分かれた。











どうしようか、迷っていた。
最近はお小遣いを貯めるようにしていたので、お金に余裕がないわけじゃない。

逆に、ここでお金を使っていいものか、迷っていた。
凛と買い物をするからには、何も買わないわけに行かないので、いろいろ勝っていたが、自分のものとなると、迷う。

「どーしよっかなぁ。」

迷っていたのは、犬のぬいぐるみだった。

元の世界では、姉妹そろってだいのぬいぐるみ好きで、家に溢れるほどぬいぐるみがあった。
そのなかの一つに、「ラ・ムール」(妹命名)という名の犬のぬいぐるみがあり、それは母が北海道で買ってくれたお土産だった。

もちろん、ラ・ムールはの物で、「ムー」と呼んで一緒に寝ていた。

そのぬいぐるみに、とてつもなく似ている犬のぬいぐるみだった。
大きさも、目のクリクリさも、毛並みも、色も、すべて。似すぎているほど――もしかしたら同じかもしれない、ぬいぐるみ。


「うりーが欲しいぬか?」(それが欲しいのか?)


突然後ろから話しかけられ、びくっと肩を浮かせて振り返ると、凛が立っていた。
持っていたぬいぐるみを取り上げると、すたすたとレジへと向かう。

「これ」
「1500円になります」

「え゛!?」

止めようとしたが、時すでに遅し。
何げに「包んで下さい」なんてことも言っていて、店員さんは袋に包んでいる。

止める隙もなく、唖然と立っているに「ん」と不愛想に袋を差し出して、そっぽを向く。
「ありがとう」と一応お礼をいいながら受け取り、見上げると凛の耳が真っ赤なことに気付いた。

なんですかこれ!!超萌えるんですけどぉ?!

ムード<萌 のに、ときめきを求めるのは間違いだと思う。(談)

「大事にするね」
「当たり前さぁ」

袋をぎゅぅっと抱きしめながら、凛を送るために駅に向かった。




















家に帰って包みを広げ、ぬいぐるみを取り出す。
名前は既に決まっていて、もちろんラ・ムールの「ムー」だ。

「久しぶり、ムー」

ぬいぐるみを撫でていると、がちゃっと部屋のドアが開く。

「赤也、見て!このこ今日買ったんだ!ラ・ムールだからムーって呼んで!」

名を付けたとき、は即座に、ネーミングセンスっていう言葉知ってる?」とツッコミを入れられた。
赤也からもそこらへんのツッコミがくるかと思ったが、赤也は黙ったままを見ている。

「・・・あかや?」

異変に気付き、名を呼べば、赤也がの前に座る。

「それ、沖縄のヤツに買ってもらったのかよ」

「え、うん。買ってくれた、よ?あれ、何で知ってるの?」
「二人でいるとこ見た」

何が言いたいんだろう、と首を傾げると、赤也が身を乗り出し、顔が間近にある。
「うえッ?」と変な声をあげ、後ろにのけぞろうとするが、赤也が頭を後ろから押さえているためできない。

「俺、のこと好きだ」

フリーズする脳と、近づいてくる赤也の唇。
脳からの指令が一切停止するのと同時に、赤也との距離が無くなった。



























旅館に戻って部屋を空けると、甲斐はおらず、木手と知念だけが部屋に帰ってきていた。

東京に来たのはこの四人だけで、”研修旅行”と言う名の関東の偵察だった。
そのため、が「練習見ていいところ取り入れて、もっともっと練習すべきじゃないの?その為の”研修旅行”なんでしょ。」
と言ったとき、どこでばれたかと冷や汗をかいた。

「どこほっつき歩いてたの」
「切原とデートしてただけだばぁよ」

「・・・は?デート?」

二人が間抜け顔で凛を凝視していたが、凛はまったく気にせずに靴を脱いでいる。
やがてその視線に気付くと、「ぬーやいびんどー?(何だよ)」と眉をひそめた。

「・・・しんけん?」(本当に?)
「しんけん。」

聞いたのは知念で、凛は真顔で返す。

「平古場君、切原さんのことどう思ってるの」
「すき」

また二人が間抜けな顔をすると、あからさまに嫌そうな顔をしてもう一度「ぬーやいびんどー?」と言う。
二人共がしばらく沈黙を保った後、「しんけん?」と凛へ何度も確認を取る。

「しんけんやっさ!いなぐちゅらかーぎーやっし。
それに、永四郎に喧嘩売ったヤツばぁよ。すっごい根性座ってるやっし」
(本当だってば!あの子かわいいし。
それに、永四郎に喧嘩売ったヤツだぞ。すっごい根性座ってるじゃん)

「彼女は本土の人間ですよ?」
「おう」

「じゅんにか?」(本気かよ)
「じゅんにやっさ」(本気だ)

今だ信じられない、という顔をしている二人に、「やったーしにそうがさい(お前らすげーうるさい)」とむくれる。
そのまま布団に横になると、今日買ったCDを開けたり、買ってきた食べ物を食いあさった。




















大きな音をたてて部屋のドアを閉めると、赤也はその場に座り込んだ。

あんな顔、させる気じゃなかった。
意味がわからない、どういうことだ、と戸惑うの顔を思い出す。

「クソッ」

ガンッと床を力任せに殴る。


――「俺、のこと好きだ」


好きだから、他のヤツといることが許せない。
好きだから、自分の為だけに笑って欲しい。

それじゃ、ダメなのか。それじゃ、に伝わってはくれないのか。

好きだから、束縛しようとしてしまう。

見えない距離が、への想いをつのらせる。
切ない気持ちが、伝わらない想いが、涙に変わって溢れる。

どうして。
どうしてお前は・・・

この想いを消せるなら、と何度思ったろう。
けど、消えてくれなかった。消せやしなかった。


「愛してる」


お前が愛しくて、








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高橋直純さん「愛しくて」を思い返しながらに最後の方書きました。
つーかキスって?!アマッ!!!

・・・やっぱりうちなーぐちわかりません・・・