に、自分には無い何かを求めていた。
「しんけんやっさ!いなぐちゅらかーぎーやっし。
それに、永四郎に喧嘩売ったヤツばぁよ。すっごい根性座ってるやっし」
あの言葉自体に、偽りはない。
顔も好みで、木手に”面白いヤツ”と言わせる程根性の座ったところに惚れた。
けど、一番は違った。
「を!なずなじゃんか!ジャッカル!なずな来たぞ!」
「なずなさん、やっといらっしゃいましたか。」
「やっと戻ってきたか」
あんなに愛されてる奴を、見たことがなかった。
「みんなからあたしへの愛!愛!愛!」
あんなに人を信用して、自分を愛してくれているとハッキリ主張したヤツを、見たことがなかった。
それは、本土の奴だから、と思えなかった。
あいつだけがもっている、あいつ特有の存在感と、信頼があった。
それが心を射抜いた。
自分にはない何かを、いつの間にか求めていた。
実は、初日のデートの後、凛はもう一度デパートに戻っていた。
そして、に買ってやった犬のぬいぐるみを、一匹飼って旅館へ戻っていたのだ。
「おい、」
つついても返事をしないぬいぐるみに、むっとふくれる。
「でーじしちゅんだ」(マジで好きだ)
知念と木手が風呂に入りに行っている間、布団の上でぬいぐるみと向き合ったまま。
ぬいぐるみにと名付け、想いを告げる。
「かなさんどー」(愛してる)
伝わればいい、この想いが。
このぬいぐるみから、に伝わってくれ、なんて子供っぽいだろうか。
「」
ぬいぐるみの首には、今日買ったばかりのペアのネックレスをかけている。
「何やってるんですか、君は」
聞き慣れた声が後ろから聞こえ、慌ててぬいぐるみを鞄に詰め込み、「ぬーがや」と眼をそらす。
風呂上がり特有の色気を放ち、木手は「何でもありませんよ」とあからさまに知らんぷりを決め込む。
不意に着メロがなり、携帯を取り出すとディスプレイには最近登録したばかりの「」の文字。
「も・・・もしもし」
『あ、凛さん?あたしです!明日沖縄帰るんですよね?羽田空港ですか?』
「・・・見送りんかい来てくれぬか?」
『あったりまえじゃん!』
当然、と言いたげに胸を張っている姿が目に浮かび、思わず笑みを零しながら「おう」と返し、そそくさと部屋を出る。
木手に何を言われるか、わかったもんじゃない。あいつなら、
「本土の人間とじゃれ合う暇なんてあるんですかね」なんて嫌味を言いそうだ。
「、かなさんどー」
「・・・え?今のウチナーグチですよね。何て言う意味なんですか?」
「ウチナーに帰っても、やーのこと忘れぬばぁよ」
「うん、あたしも凛さんのこと忘れないよ」
あれ?話逸らしてない?とが言ったが、
無視して「10時の飛行機やっさ」と時間を言い、おやすみ、と一方的に電話を切る。
相手がウチナーグチをわからないからと言って、さすがにこれはいけなかっただろうか。
もし、明日が知念や木手に聞けば、すぐに意味を知ってしまう。
Dear:
件名:なし
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”かなさんどー”
神様が巡り会わせてくれた、って意味 |
勝手に意味を付けて、送信ボタンを押す。
部屋に戻ると、知念がなぜか””を持っていて、ニヤリと笑っている。
「すぐらりんど!」(殴るぞ!)
慌ててぬいぐるみを奪い取り、そのまま布団に転がった。
まだ二人とも起きているし、甲斐も戻っていないのに
「寝る!」と断言して睡眠の体勢に入る凛を見、二人は顔を見合わせ微笑する。
「わかりやすすぎですよ、平古場君」
「凛、ちばれよ(頑張れよ)」
「そうがさい!」(うるさい!)
遅れて風呂から帰ってきた裕次郎が、三人の会話を聞きつけて
「凛がちゃーさびたが?(どうした)」と興味津々の顔で部屋に入ってくる。
凛が何か言おうとした時、携帯の着メロが部屋に鳴り響く。
凛意外の三人がにやり、と笑うと、「どうぞ?見ないんですか?」と木手が代表していい、二人はにやけ顔のまま頷いた。
Dear:凛さん
件名:あたしも
------------------------------
かなさんどー!
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凛のでたらめな訳を鵜呑みにしたからのメール。
本当の意味は愛してるであって、たとえそれを勘違いしているとしても
このメールはヤバイだろ。何がヤバイって全部ヤバイ
バクバク言い出す心臓を抑え、顔が真っ赤になるのも承知で携帯を握りしめる。
その姿を見てまず最初に動いたのは裕次郎で、凛の携帯を奪おうとするができず、ぶーぶーと文句を垂れ始める。
「見せてくれてもいいやっし!ぬーが恥ずかしいことでもあるぬばぁ?」
「るっせー!ぬーがメールが来ても裕次郎に関係ないさー!」
「凛、いいから見せるだけ見せるだぁ」
「二人とも、いい加減にしないと平古場君がちれますよ(怒りますよ)」
相変わらず文句を吐きながら、その日は木手のおかげでなんとか携帯を死守することができた。
と待ち合わせをして空港に向かい、到着して木手(のチョビリーゼント)と知念(の身長)を見て歓声をあげる。
「何か迫力あるねぇ」とつつかれ、微笑しながら言う――「あたしも最初はビビッたよ」
「何で君達が見送りに来るんですか」
「…何か思い切り嫌そうな顔されてるんですけど、」
「照れ隠しだって!」
やっぱ木手はツンデレさ!(ツンデレ率高いなぁ)
「無駄にプラス思考ですね」と呆れた様子で言葉を吐いた木手に、満面の笑みを見せる。
「あっはは、人生多少はプラス思考じゃないとやっていけませんって」
「本当に変な人だ」
苦笑した木手は、目が痛くなるほど美人だった。
やっぱ木手はママキャラがいいな、と笑っている木手をしばらく観察していると、隣でしおりが知念に頼む。
「あの、“I’ll be back”って言ってみてくれませんか?」
「何言ってるのちゃん」
「あ、嫌。ターミネーターみたいだなぁって思って」
「無意識に地雷踏む癖やめた方がいいよ。まぁ、故意に踏む私が言うなって話しだけど」
の発言に真顔でつっこめば、更に真顔で「どっちもどっちですよ」と木手がつっこみを入れる。
二人して乾いた笑いを浮かべれば、「類は友を呼ぶとはまさにこの事ですか。まるで姉妹みたいですね」と痛いところをつかれる。
慌てたは「何言ってるんですか」と笑いながら木手の肩を叩く。
意外に衝撃は強かったようで、木手は顔を歪める。
「スミマセン…(この身体に)あまり慣れてないもので…」
「いえ、本土の人間のような軟弱な鍛え方は生憎してないものでしてね。狐につままれたようなものですよ」
肩をさすりながらだと、まったく説得力ないです、木手さん。
ぷっと吹き出しながら、「木手、可愛い」と零したが、多分にしか聞こえていないだろう。
向こうから凛と裕次郎が無表情でこちらに来て、木手を引き剥がす。
「ぬーがしよると」
「別に何も。甲斐君も平古場君も本来の目的忘れてるんじゃないでしょうね。本土の人間と馴れ合いに来たんじゃないですよ」
正論を言われてしまえばしようがない。二人が黙り込むと、凛がこちらを向く。
「わんはやーに会えてよかった。にふぇーでーびる(ありがとう)」
「あたしこそ、にふぇーでーびる」
お世辞でも上手いとは言えないウチナーグチで、感謝の気持ちを伝える。
「成果はあった――わん、テニスしちゅん(好き)ばぁよ。だからこそ、やまとんちゅには負けん。
わん自身のテニスが出来るまで、テニス続ける。くにひゃー(こいつ)に教えてもらったばぁよ」
裕次郎がを身ながらはっきりと言い切ると、木手は踵を返し、「勝手にして下さい」と知念とその場を去ろうとした。
「あの、あたし木手さんとも仲良くなりたいです!」
「俺は彼らみたいに甘くないですよ。本土の人間と馴れ合うつもりは更々ありません」
別れてしまう、そう思ったときに自然と出てきた言葉を、ためらいもなく背中に叫べば、木手は振り返って淡々と返す。
否定されたようで、少しだけ顔をしかめたが、あまり表には出さなかった。
ポン、と頭に手を置かれ、見上げれば凛が不器用な笑みを浮かべている。
「メールする。またな」
「うん、あたしもするね」
会話が途切れて、凛が木手を追おうと一歩踏み出したところでが凛の袖を掴む。
「あのね、もし・・・もし、あたしがあたしじゃ無くなっても、凛さんはあたしのこと覚えててね」
しばらく何も言わず、突然自分の首にかけていたネックレスを外し、それをの手にのせる。
「うりー(ほら)、もっとけ。ペアのネックレスは、繋がってる証し。
このネックレスは、また会ったときに返せばいい。再開の証しばぁよ。
だから、ちゃんと二つとももっとけ。最後みたいなこと、言うな」
渡されたネックレスをしっかりと握りしめ、歩き出してしまった凛にむかって叫ぶ。
「リンリン!また会おうね!」
「おう!」
あなたとまた、会えますように。
それまで、この世界にいられますように。

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