いや、ね。入院してたときは、まだ幸村先輩は完全魔王じゃなかったから、好きだったよ。
けどね。今は今だよ。戻ってきた幸村先輩は不二兄からラスボスという名の座を奪い取った魔王なんだよ!
「やあ、。ほら、おいで」
優しい顔で両手を広げないで!あんたは・・・アンタはもう!
「?俺だよ。なんでこないんだい?」
魔王なんだ!!
部室の掃除をしていると、ガチャッとドアが開いた。
レギュラー用の部室だったので、誰が来たのかと首を巡らせると――
「やあ、」
ピシッと、固まったを見て、幸村は首を傾げる?――「どうかしたのかい?」
退院して、リハビリ中なのだろう。幸村は車椅子に乗っていた。
そのままのところにきて、「ほら、おいで」と両手を広げる。
・・・ハグしろと?
「?俺だよ。なんでこないんだい?」
不思議そうな視線を送られ、「い、いや・・・」と目をそらす。
だって、入院してたときは魔王にまだなってなかったし、好きだったよ?
けどね、退院したら、部に戻ってくるからメチャクチャスパルタになってあたしが困るじゃん?
だから心から喜べないといいますか。
「?」
「ハイッ!喜んでハグさせてください!!」
そしてもう彼は不二兄からラスボスという名の座を奪い取った魔王なんだよ!
「あぁ!!幸村部長何してんスか!!」
「何って・・・とハグだけど?」
さも当然とでも言いたげに言ってみせる幸村に、赤也が怯む。
幸村が帰ったことを知ったのは、が最後のようで、ぞろぞろとレギュラーが入ってくる。
「、今日は幸村の退院祝いにレギュラーで焼き肉を食べに行くが、お前も・・・」
「行く!」
決定。
今日の予定はみんなで幸村の退院祝いの品を買いにデパートに行った後、夜ご飯は焼き肉です!
花屋に行っては雑貨屋に行き、を何度も繰り返し、は決心がついたように花屋へ入っていった。
「矢車草花束にしてください」
「はい」
包んでもらっている間、パタパタと雑貨屋に行くと、幸村の好きな水色のかわいらしいキーホルダーを買う。
花束をもらい、キーホルダーの包みと一緒に一回にある休憩所へと走った。
やはり最後はだったようで、すでにみんな集まり、幸村のひざの上にはたくさんのプレゼントがおかれていた。
女の子と男の子の考えは違うようで、誰も花束やキーホルダーはあげていないようだ。
「はい!幸村先輩。」
「ありがとう、。・・・これは、誕生花?」
「えぇ。今幸村先輩が感じているのは幸福感、でしょ?」
微笑すると、幸村もふわりと笑った。
そして、キーホルダーの包みを開け「これ、かわいいね」と言った後、自分のかばんにつける。
「おっしゃー!次は焼肉だ!!」
「イェー!」
盛り上がり始めた赤也とブン太に「静かにしろ」と柳が顔をしかめる。
幸村の車椅子を押そうとした真田を押しのけ、が車椅子を押し始めた。
「だーめ!今日は真田も気張らなくていいんだよ!あたしがなんでもしてあげるから!」
面食らった顔をした真田を、幸村がくすくすと笑う。
柳も、微笑しながら「行くぞ」と真田に言えば、はっとわれに返った真田が顔を赤らめながら「バカが」と言った。
中学生だけで来ているのは――というか、中学生は立海レギュラーだけだった。
すでに、お客さんを通り抜け店に迷惑になるのではないか、と思うほどの騒ぎようである。
柳にそう言えば、「ここは行きつけだからな。なれたものだろう」と返された。
「ジャッカル先輩、そこのお肉とって!」
「ジャッカル俺のもとれ!」
まあ、それはそれ。これはこれ。
ジャッカルがばたばたと肉用の七輪と野菜用の七輪を行き来し、とその隣に座っているブン太の皿にのせる。
たくさんあったので、ブン太とは逆の、隣に座っていた赤也のお皿に入れた。
「を!」と嬉々とした声をあげたあと「えらいえらい」との頭を撫でる。
「、こっちにおいで」
幸村に呼ばれてその席を立ち、立海三強の並んでいる席へと向かう。
縮こまるように真田と幸村の間に座ると、まだ何も話してないのに威圧感で頭が痛くなってくる。
「ふふ。なんだかがいると落ち着くな」
よしよし、と今度は幸村に頭を撫でられ、真田は「・・・そうか?」と怪訝な顔で幸村を見た。
「あれ、じゃぁが部活に来なかった時真田がすごくいらいらしてたっていうのは嘘の情報かな?」
「ッ!」
驚いた顔をした後、隣にいる柳をにらんだが「俺じゃない」と迷惑そうに眉をひそめる。
「じゃあ誰なんだ」
再度幸村を見ると、にこっと笑って遠くのワカメ頭をを指差す。
「赤也だよ」
「赤也!貴様こっちに来い!」
とかいいながら、赤也のほうに歩いていく真田の背中を見、そんなことがあったんだ、とも驚いていた。
幸村は、怒られてしょぼくれている赤也を笑いながら、「あいつ照れ隠しなんだよ」と続ける。
「多分、がいなくなって一番困るのは、真田だろうね。
あいつ意外とのこと気に入ってるからなぁ」
「・・・そうは見えませんよ?」
隙あらば真田をいじくりまわし、いやみを言っているし、
真田も、が何かしでかすといつも鬼のように怒っている。
いくら照れ隠しだろうと、そうは思えない。
「そうなんだよ。もまだまだだね」
「幸村先輩、他人の決め台詞パクッちゃいけませんよ」
呆れたように言えば、幸村は微笑した。
思い出したように、わざとらしく「あ、そうだ」と声を上げ、幸村に向き直る。
「退院おめでとうございます、幸村先輩」
「うん。ありがとう」
