「バスケがしたいです・・・ッ!」
「・・・初っぱなから混乱するなら、もうちょっと常人向けのボケにしてくれない?オタク過ぎてわかりにくいんだけど」
(注:「バスケがしたいです」はスラムダンクの中で1.2を争う三井←声優:置○さんの名台詞なのだ!
ちなみに手塚の声優も置○さんだよ!)
【帰ってきた手塚】
不二のツッコミにハッと目を開いたは、ドキドキと胸を押さえると、
「その言い方は周助君だって知ってるんじゃないですか」と言って、物が飛んでこないよう自己防衛の為距離を取りつつ頭を抱えた。
「混乱したってしょうがないですよ!
せめて・・・せめて部活が始まる前までにはどうやって打ち明けようか決めようと思ってたんです、
なのに、なのに後三十分で生徒会だなんてあまりにも残酷過ぎやしませんか・・・ッ!?」
「頑張れ、君なら出来る」
「何の根拠もない上に、限りなく棒読みに近い応援やめてくれませんかね?いっそ笑ってくれた方が・・・」
「あはははははははは」←顔は笑ってません
「ちょ、何そのグゥみたいな笑い方ッ!周助君にツッコミ入れるこっちの身にもなってくださいよ!
ってかパクリ厳禁ですから!周助君実はこっちに限りなく近いんじゃないですか!?カモーンオタク!(混乱中)」
殴られた。
てっきり物が飛んでくると思ったのに、
思いっきり拳骨を落とされたはうめきながらしゃがんで、恨めし気に不二を睨みあげると、前々から思ってた事を指摘する。
「最近スキンシップが過剰ですけど、これ越前さんの身体なんですからね」
「だから手加減してるじゃない」
あっさりと返ってきた不二の言葉に、
手加減、してるのか・・・?と、が尋常じゃない頭の痛みに眉根を寄せながら立ち上がるのを見て、
不二は物憂げに溜息をつくと、二人きりの屋上で空を見上げた。
「まったく、越前の口からオタク用語が次々と出てくるのを受け止める僕の身にもなって欲しいよ」
「それってアレですか、アイドルはこんな事しない!とか言うヤツと同じですか?
越前さんだって普通の人間なんですから、オタク用語だってたまにぽろっと出ちゃうかも知れないじゃないですか」
出ないよ、と、ここでこちらの事情を知っている第三者が居れば冷静なツッコミが入ったのかも知れないが、
今屋上には無意識に地雷を踏みまくると、越前姉の事になるとどっかネジの外れる不二の二人だ。
越前姉に対する理想(妄想?)が高いのを自覚しているのか、不二はしばし言葉に躓くと「言わない」ときっぱり否定する。
「言いますって」
「言わない」
「言いますよ、ホラ、マンガの誰それが好きとか」
「言わない」
「言いますって・・・萌え――ッ!とか」
テンションが上がったが何も考えずに叫ぶのと、屋上のドアが開いたのはほぼ同時だった。
ぎょっと目を見開いたと、取り立てて表情に変化のない不二が振り返ると、瞳に映った姿に、「あ、手塚」と不二が声を上げたものの、
手塚はを凝視したまま動かず、その様子を見た不二はに首を巡らせるとあっさり肩を叩く。
「よかったじゃない。わざわざ理解させる手間が省けたよ」
「理解を通り越してフリーズしてる気がするんですけど」
完璧にを見たまま固まってしまった手塚を見て、
「どうするんですかコレは」と言わんばかりに指を指したとは対照的に、不二は「大丈夫だいじょうぶ」と手塚に歩み寄った。
「こういう時はリセットボタンに限るって」
ポンッと手塚の肩に手を置いた不二が手を振りかぶるのを身ながら、
「リセットボタンって・・・」と呆れた表情をしたは、次の瞬間を見て「ギャァ!」と悲鳴をあげる。
れ、レバーですか・・・ッ!?(ようするにみぞおちにグッとね)
何て躊躇のない、そして手加減のないパンチなのか、やっぱりさっき手加減してたんだ、と本気の拳骨を想像したは背筋を氷らせた。
ドコォっととても人の身体を殴ったとは思えない音がした後、手塚がしゃがみ込むと不二は爽やかに笑って、
自分がしゃがみ込ませたのに、何事もなかったかのように清々しい表情で手塚に手を差しのべる。
「久しぶりだね、手塚」
「ああ、久しぶりだな。お前のそのパンチ」
「また君のリセットボタンを押す日が来るとは思ってなかったよ」
「・・・何かもう色々とツッコミ所無視していいですかね?」(切実)
元の世界で自分は異質だと感じる事は多々あったが、この世界に来てから自分が常人だと感じる事が多くなったのは気のせいだろうか?
差しのべられた不二の手を取って立ち上がった手塚の二人を見て、今日もいい天気だなと現実逃避に走ったに、手塚は尋ねた。
「不二、どう言う事だ」
「見ての通りだよ、彼女、越前じゃないんだよね。ある日中身だけ入れ替わった別人」
見ての通りって、見かけは変わってませんよ?と口を挟めないまま、何故か当人を置いた二人で話は進んでいく。
「そんな事、簡単に信じられると思うか?」
「信じても信じなくても事実は事実だからね。もし越前が“萌え”何て言った日には、レバーじゃ済まないよ?」
「・・・そうか」
え、レバーじゃ済まないって何?手塚もそれを「そうか」で終わらせちゃうの!?そんで納得!?
誰でもいい、この場にまともなツッコミを入れてくれる人を呼んでくれ、
一人じゃ身がもたんとはキリキリと胃を痛めていたが、この場に居るのは神ではなく、元祖魔王だったとものの数秒で諦めた。
「それで、一体彼女は誰なんだ?越前はどこへ行った?」
「彼女が言うには、元の世界の自分と入れ替わったんじゃないかって、
彼女、この世界の人間じゃないらしいよ。しかも僕たちの未来まで知ってるんだって」
ってオイ!あんなに深刻に喋った秘密を簡単に喋ったあげく、「だって」で終わらせるんじゃねぇよッ!
眉間に皺を増やした手塚を見て、は慌てて付け加える。
「あの、知ってる事は知ってるんですけど、全国大会の結果までは知らないし、
第一私達の知ってる話とは既に微妙に違って来てるんですよ、だからこれから先の未来も変わる可能性があるので、
一慨に未来を知ってるとは言えないと言うか・・・」
未来は自分の手で切りひらくものですよ、と苦し紛れに付け加えたい所だが、場の空気がそれを許してくれない。
第一未来を知る自分がいる時点で、その言葉は何の説得力もない事になる。
「部活のみんなには?」
「青学テニス部の中では一応知ってるのは僕だけかな、後は佐伯がさわりだけ知ってる・・・かも?」
「そう「ちょっと待った」」
手塚の言葉を遮って前に出たは、「何を待つの?」といけしゃぁしゃぁと言う不二に詰め寄った。
「佐伯君が何故知ってるんですか、私言った覚えないですよ」
「言った覚えなくても、現に僕たちの会話聞いちゃったみたいなんだよね。まぁ、意味は分からなかったみたいだけど」
ホラ、合宿の最後の日、海辺で話したでしょ僕たち、と言われてあの時の事かとは頭を抱える。
これで、佐伯の奇怪な行動の理由が分かったと言う訳だ。
「・・・それで、大して話した覚えもないのにいきなり電話番号聞かれたと言う訳ですか」
そんな事とは露とも知らず、しょっちゅう来るメールにきちんと返事を返していた自分が情けない。
がブルーになっていると、不二は少し驚いた顔をして
「佐伯、本気だったんだ」と訳の分からない事を言い、その言葉が妙に引っかかったは尋ねた。
「本気って何がですか」
「興味がすごく湧いた・・・ライバル多そうだけど頑張ってみようかな、って。佐伯って趣味悪いんだね」
大体そんな物好き跡部位のもだと思ってたよ、と不二が零すのを聞いて、
は「どうしてそこで跡部君が出て来るのか」となおさら首を傾げる。
しかしはたと考えてみると、佐伯の趣味が悪いと言うのは、あきらかに自分を貶していて、尚かつ佐伯の趣味が・・・
は?
は辿り着いた答えに目を剥くと、嫌嫌々と首を横に振って「今のは聞かなかった事にします」と強制的に会話をうち切った。
ついでに考えるのもやめたので、跡部云々に関しても思考のどこかに飛ばしてしまう。
「後、立海の幸村君、真田君、柳君、赤也君・・・多分丸井君も知ってるんじゃないでしょうか。それと、跡部君にジロー君です」
「・・・何故立海が知っている?」
「彼女の妹も一緒にこっちに来てるんだ。今は切原の妹の身体の中に入ってる」
堅物な上にこの上なく頭が固そうな手塚は、
それでも必死に物事を理解しようとしているようで、眉間の皺が更に(当社比)2.5倍くらい増えた。
「氷帝には?」
「ちょっと色々事情がありまして・・・
まぁ、手塚君にははなからバレるだろうと言う話になっていたので、どう言う形で打ち明けようかと周助君と話していた所」
「君が来たって言う訳。まぁ僕としては色々と手間が省けて助かったけど。
これで誰かさんがへました時に僕がフォローしなくてもよくなったって事だよね。あーせいせいした」
肩の憑き物が落ちたように清々しい表情で言った不二を横目で見て、は口を開いた。
「・・・周助君、もう少し歯に衣着せて喋ったらないと、友達無くしますよ?」
「そんな事で崩れる友情なんて、僕ははなから欲しくない。友達付き合いは狭く深くが僕のモットーなんだよね」
何その取って付けたようなモットーは。
どこまでもゴーイングマイウェイで突っ走って行って、他人の忠告なんて視界に入っていないようだ――ま、別にいいけどねとは溜息をつく。
「って言う訳だから手塚、生徒会と部活共に彼女の面倒をちゃんと見てあげてね」
「・・・ああ、出来る限りの事はしよう」
「迷惑かけてスイマセン」
じゃぁそろそろ生徒会行きますか?みたいな雰囲気になった時、ピンポンパンポンと音が鳴って、校内放送が響き渡った。
「二年三組の越前さん、二年三組の越前さん、氷帝学園から理事長様がお越しです。至急職員室まで来て下さい。繰り返します」
言わずもがな沈黙が走って、不二は心底呆れたような顔をすると「何やらかしたんだい?」とに尋ねて来、
身に覚えのないは風を切る音がする程首を横に振ると、「知りません!」と叫んで手塚にすがる。
「手塚君!こういう時の手塚君ですよね!助けてください!」
「無理だ。出来る事の範囲を越している」
「ちょ、ホント役に立たないなぁ!何の為にこっち帰って来たんだよ!手塚帰ってきた意味ねぇよ!」
帰ってきたのは部活の為だと言う事を棚に上げて、キ――ッと叫んだは「ちくしょう!」と叫ぶとパタパタと職員室に向かって駆けていき、
その後ろ姿を見ていた不二は、ふ、と笑うと「歯に衣着せてないのはお互い様だよね」と笑って手塚を見た。
「あ、フリーズしてる。まぁ、越前の顔であんな事言われたんだから当然かな。まだ免疫ないだろうし」
爽やかに笑いながらブンブンと腕を回した不二が腕を振りかぶり、本日二度目になるレバーが繰り出されるまで後五秒。

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