忍足が三人に教えた後、ジローが電話をかける気で満々で去っていき、さらにその後の話し。
ジローは、まるで焼きハマグリのように、各校に言いふらしていた。
→氷帝の場合
バタバタと走ってきたジローが、満面の笑みで日吉の肩を叩き、
「どうかしたんですか」といつもどおりの無愛想で日吉が振り返れば、
「ちゃんとちゃんが今度の創立祭でバンド組んで歌うんだよ!知ってた?」
とジローは満面の笑みで報告する。
もちろん知っているはずもなく、そこにいた鳳がその話しに食い付いた。
「え、どういうことですか?」
「なんかよくわかんないけど、理事長が呼んで、歌ってくれって頼んだんだってさ!」
日吉が、「あの越前先輩が?」と呟いているのも知らずに、ジローは「みんなで見に行こうね!」と叫んだ後、携帯を耳にあてる。
誰に電話かけてるんですか、と言おうとしたところに『アーン?』と電話から声が聞こえ、鳳が「跡部先輩ですか」と納得した。
「跡部知ってる?ちゃんとちゃん創立祭でバンド組んで歌うんだって!」
跡部は、買い物に行ってと別れる際に、「絶対に言わないで下さいね!」と耳にたこができるほど言われていたので、
当然喋った覚えもなく「どこから知ったんだ」と探りを入れると、ジローはあっさり答えた。
「んっとね、忍足」
「あいつか。・・・後でどんなバチが返ってくるかも知らずに・・・」
「っていうことは、跡部はもう知ってたんだ」
「あぁ。それと、歌うのはの方で、切原は歌うんじゃなくてピアノだ」
なんだ、知ってたんだ。面白くないの。
ぶーとふくれると、「そんだけ」と言って電話を切った。
どうするんだろう、と見ていた鳳と(そこまで思っていない)日吉が、ジローを観察していると、ジローは指折り数えながら言う。
「えぇっと、あと立海の丸井君は電話で、青学の不二君・・・は、メールでいっか。」
貴方はどれだけ言いふらすつもりですか
鳳が心中でツッコミを入れたが、さすがに口に出して言う勇気は持ち合わせていなかった。
→青学の場合
To:不二君
件名:あのね!
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今度の氷帝の創立祭で、
ちゃんとちゃんが
バンド組んで歌うんだって!
見に来るでしょ?
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ジローからのメールで、不二が一瞬だけ開眼する。
コートの端っこに座っていたリョーマのところに行くと、メールの内容を見せた。
「らしいけど、見に行く・・・よね。」
「当たり前ッス」
こんなこと一言もきいていない、とリョーマが眉根を寄せるのを見て、不二はどこか楽しそうに笑う。
確かに、氷帝の理事長が待っていると校内放送がかかった日から、どこからどう見ても怪しかったが、まさかこんなことを隠していたとは。
「じゃあ芥川に伝えておくよ。日時とかきちんと知ってたほうがいいだろ?」
リョーマは無言で頷いた後、ポンタを買いにコートを出ていき、含み笑いを零した不二は返信ボタンを押した。
To:芥川
件名:うん
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越前と二人で行く。
詳しい日時とか教えて
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メールを送信した後、「そうだ」とひらめき、弟のアドレスを呼び出す。
「裕太と佐伯にも教えておこう」
→立海の場合
ちょうど帰る準備をしていると、ブン太の携帯がメールの着信を知らせる。
その時立海三強+赤也、ブン太が部室におり、携帯がなって他の四人がブン他を見た。
「どーしたんだよ」
『丸井君知ってる!?ちゃんがちゃんとバンド組んで今度の氷帝の創立祭で歌うんだよ!』
「・・・それホントか?」
『うん!跡部も知ってたから!』
後は適当に相づちを打って、電話を切り、幸村を向く。
「が氷帝の創立祭で越前姉とバンド組んで歌うらしいぜ」
「それ、本当かい?」
「あぁ。俺も同じこと聞いたけど、あの跡部もそう言ってたらしい」
ふぅん。と低い声の反応が返ってきたので、ブン太がビクリと肩を浮かせて赤也の隣へと移動する。
もし自分に被害が来たときは、赤也になすりつけて逃げよう、という魂胆だ。
「丸井、芥川君に、立海は五人出席って言ってて」
「おう。メールする」
二人のやりとりを聞いていた真田が、「ちょっとまて」と制止を入れる。
「あと三人は誰だ?」
「もちろん、柳と真田と赤也に決まってる」
「いや、しかし・・・」
「今日は、無断欠席だから、そのことバラしたくなかったんだよ。
っていっても、ばらすな、って言ったのは多分だけどね。は喜んで俺たちを呼ぶキャラだろ。
不本意とはいえ、お前達はここに居て、俺と丸井の話を聞いていた。
他言無用しないとは思うけど、やっぱり道連れにしたほうが言わない確率は高くなるからね。
それに第一、柳も真田も――赤也も。が歌ってるとこ、見たいだろ?」
「いや、あいつはピアノらしいぜ」
ブン太が口を挟み、それまで黙っていた柳が「ピアノ?」と眉を寄せる。
「はピアノが弾けるのか」
その発言を聞いて、赤也が「はい!はい!」と手を挙げる。
「俺知ってるッス!前アイツと喧嘩したとき、お袋ががピアノ弾いてたって言ってたッスよ!」
「へぇ。初耳だな」
赤也の言葉に、幸村が感心したように頷く。
話を聞いていた真田は、「はぁ」とあからさまに溜息を零し、幸村に向き直る。
「わかった。俺たちも行こう」
「それじゃあ決定だね。丸井、芥川君に日時教えてもらっておいて」
「了解」
→山吹の場合
「大変です!千石先輩!!
先輩が、今度の氷帝学園創立祭で越前先輩とバンドを組んで歌うそうです!
あ、でも。先輩はピアノを弾くそうですよ」
それまで着替えていた千石は、「え?」と壇に向き直り「どこで知ったの?」と聞く。
「そういえば、今日壇君昼練いなかったよね」
壇は罰の悪い顔をして、偵察のために氷帝に言っていたことを報告すると、千石は別段怒ることもなく「あ、そうだったんだ」と言う。
「で?どうやって知ったの?」
「芥川先輩が、立海の丸井先輩に電話してるのを聞いたです!」
ブン太の名前を聞いた瞬間、千石の片眉がピクリと動き、着替えを済ませてロッカーのドアを閉める。
「壇君、俺は氷帝の創立祭に行くけど、壇君も来るかい?」
「もちろんです!」
日時は・・・、と壇がきちんと調べてきてくれた情報を手帳にメモし、部室を出た。
→ルドルフの場合
休憩時間にドリンクを飲みながらベンチに座って鞄をあさっていると、
携帯電話がピコピコと光ってる事に気付いて、裕太は回りに誰も居ない事を確認すると携帯を開いた。
「・・・兄貴?」
たまに「寮生活はどうだい」とか「今日の晩ご飯はかぼちゃ入りカレーだって、裕太も帰ってくればいいのに」とか
ささやかな事でメールをしてくる事はたまにあるが、部活の時間にメールが来る事は珍しい。
何か緊急の用事なのではないかと思った裕太が慌ててメールを開くと、書かれていた内容に思わずドリンクを吹き出した。
From:兄貴
件名:件名なし
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今度氷帝の創立祭で、
ウチの仮マネと立海のマネが
隠れてバンド組んで歌うんだって。
面白そうだと思わない?
裕太もおいでよ(^^)
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おいでよ、といとも簡単に言うが、隠れてと言う事は自分たちが歌うと言う事をメンバーに知られたくないのだろう。
特に青学のマネはどうみても不二のオモチャと化しているのは、弟の裕太から見ても歴然で、
面白そう、と言う発言も彼女が集まったメンバーを見て悲鳴を上げるのが見てみたいと言う意味合いなのが見て取れる。
どう言う経緯で漏れたか裕太には検討もつかないが、
見なかった事にしようと携帯を閉じたとき、上から「おや」と言う声が聞こえて、裕太はびくぅっと身体を揺らした。
「練習時間に携帯を見るとは、よほど大事な用事だったんでしょうねぇ?裕太君」
見つかったのがよりによって観月さんかよ、と裕太はめまいを感じながらも笑顔を取り繕い、力任せに携帯を鞄の奥に押し込んだ。
「部活中に来るから緊急の用事かと思ったんですけど、何かこの前の合宿に居た立海のマネと青学のマネが、
氷帝の創立祭でバンド組んで歌うとか言う内容で・・・スイマセンでした!」
謝るが勝ちと言わんばかりに頭を下げた裕太は、しばらくの沈黙の後、
観月の「ゴホン」と言う咳払いに「嫌味を言われる」と、居心地悪そうに身を縮めたものの、次の台詞にあっけにとられて面を上げた。
「その、創立祭とやらはいつあるんです?」
「さ、さぁ・・・?兄貴のメールにそこまでは書いてなかったですけど・・・」
「確か裕太君、貴方は立海のマネージャーと仲が良さそうに見えましたが、見に行ってはあげないのですか?」
「まぁ仲はいい方ですけど、出場するのも隠してるみたいだし、あまり知られたくないなら知らない振りをするのもアイツの為かなぁと」
そう言った裕太の言葉に、観月は品のいい笑みを浮かべると「では裕太君は彼女の晴れ舞台を見たくないと言う事ですか?」と追求してきて、
別にそこまで考えた上での発言ではない裕太が「え」と言うと、観月は更に両口端を持ち上げた。
「もし一人で行きにくいのでしたら、仕方ありませんね、僕が休日返上で付き合ってあげましょう」
「はぁ?」
ますます観月の言っている意味が分からなくなった裕太に、
だめ押しのように観月は「どうなんですか」と是しか認めない問いを突きつけてきて、
の次に流されやすい裕太は「そうですね」と頷いてしまい、満足気に観月は何度も頷く。
「そうですか。でしたら詳しい日時を不二君に聞いておくように。
くれぐれも早めに僕に報告してくださいよ、部活の時間を調整しなければなりませんからね」
んふ、と意味深な笑いを残して去っていった観月の背を呆然と見た裕太は、「何なんだ一体」と言うと、小首を傾げた。
不二裕太、の次に流されやすく、宍戸の次に鈍い男である。
→六角の場合
From:不二
件名:件名なし
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今度氷帝の創立祭で、
が立海のマネと
隠れてバンド組んで歌うんだって。
佐伯、本気みたいだし報告しておくよ
日時が知りたい時はメール折り返して |
潮干狩りの最中、携帯がポケットの中で震えた事でメールを見た佐伯は、内容を見て口元を緩めるように笑った。
それを見ていた剣太郎が「サエさんどうしたの?」と聞くと、帰ってこない返事に「まさか」と目を見開く。
「彼女からだったりして!うわー!サエさんの裏切り者!」
勝手に勘違いした挙げ句に一人で騒ぎ出した剣太郎に、佐伯は「彼女じゃないよ」と苦笑を零した。
「青学の不二からだよ。今度氷帝の・・・嫌、何でもない」
他愛ない事でも六角の部員には包み隠さず話すのだが、今回に関しては言いたくない気持ちの方が大きくて、
途中で言い辞めた佐伯に、剣太郎は訝しげな顔をして「サエさん、怪しい」と呟くと、
近くで潮干狩りをしていた黒羽が「何だ何だ」と面白い事をかぎつけたような顔で歩み寄ってくる。
「バネさん聞いてよ!サエさんってば、何か隠し事してるみたいなんだよ」
剣太郎が口先を尖らせると、黒羽はニヤリと笑って「何だサエ、女か?」と小指を立てた(古い)。
何て返していいのかが分からない佐伯がそんな黒羽の言葉に困ったように微笑むと、黒羽は「お。図星か」とはしゃぎ、わらわらと部員が集まってくる。
誤解を招く前に「彼女とかそう言うのじゃないよ」と佐伯が言うと、「またまたぁ」と黒羽が手を叩き、ダビデがしみじみと言った。
「サエさん、モテるのに彼女作らないと思ってたら、好きな人が居たんだ」
「違う違う。今まではテニス以外の事にあまり興味がなくて作らなかっただけ。彼女と会ったのもごく最近だし。
興味があるって言うのかな?好きって断言出来る程話してないし、メールはするけど、そんなに込み入った話はしないからね、まだ何とも」
意外と淡泊な反応に部員は「なぁんだ」と言ってつまんなそうに去っていき、残った黒羽に佐伯は「でも」と続ける。
「テニスをしてるとさ、もっと強くなりたいって思うだろ?色んな事を知って、誰よりも一番になりたいって。
今はまだそんな感じかな――彼女の事をもっと知ってみたいって思う。好きになるかどうかはそれからだね」
好きとは言えないと言う口調だが、少なくとも黒羽には「好き」と同等の意味合いに聞こえる。
「好き」になってしまったから、その理由を作りたいという感じだろうか、と黒羽は思い、ニヤリと口端を持ち上げた。
「へぇ。だが、お前に好きになられた子は大変だな。独占欲強いし、お前自身も独占されたいってタイプだしな」
「まあね、少なくとも俺は彼女をフリーにはさせないよ。絶対にね」
と、言ったようにとの知らない水面下でどんどん広まっていっている事など知る由もなく、
何故か暗黙の了解のように見に行く事を告げる人間はいない為に、何も知らないまま二人は本番の日を迎えたのだった。

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