ゲーセンに着いた途端、幸村は振り返り「さあ」と全員に声をかける。
「俺達は去年まで全国二連覇を果たした立海大付属中テニス部レギュラーだ。
今年の関東大会では準優勝となったが、俺達はどこでもいつでも一位でなければならない。そうだろ?」
あの、違うような気がするんですが
とは言えず、みんなはどんな反応しているのだろうと周りを伺うと、皆真剣な顔で頷いている。
「配置の作戦会議を行う。
まず赤也はもちろん対戦型格闘ゲームコーナーで一位。
真田はあっちにあるパンチ力測る・・・なんて言うんだっけ?まあいいや。それで一位。
仁王がシューティングゲームで一位で、柳生がレースゲームで一位・・・
蓮二はドラム型の音楽ゲームで、ブン太は太鼓の達人。
俺は・・・あれ、もうゲームなくなっちゃったじゃないか。まあ見学でもしてようかな。
じゃあもここにいることにしようか。全員十五分で帰ってくるように」
何も言わず去っていくレギュラーの背中を目で追いながら、「え、え?!」と戸惑うしかない。
みんなそんなことまでできるの?ていうかテニスで勝負しろよお前ら
幸村は微笑んでみんなの様子を見ているし、持ち金も余ってるしUFOキャッチャーでもしようと席を立つ。
その行き道に音楽ゲームが揃っていて、ブン太と柳の様子を伺う。
・・・え?
そこには、すごいスピード(もはや人ではない)でドラムを叩く柳の姿と、こちらも超ハイスピードで太鼓を叩くブン太の姿。
その光景に唖然と立ち尽くしていると、ブン太が鬼コースで(ここ重要)このゲームセンターの一位を勝ち取った。
「今日はあんま調子よくねーな」
それでかッ!
「ま、一位取ったしいっか」と上機嫌で幸村の元へ歩んでいるブン太を呆然と見送っていると、ブン太がこちらに気付く。
「何してんだよ?UFOキャッチャーでもすんのか?」
「え、あ・・・うん、そうだけど・・・すごいね、まだ十五分経ってないよ?」
「コレぐらい普通だろぃ。俺UFOキャッチャー得意だから取ってやるよ」
立海大テニス部は超人の集まりだということに今さら気付いたは、くらくらする頭に手を添えながら「頼みます」と答える。
すると後ろから飛びつかれて振り向くと、赤也が「丸井先輩ズルイッスよ!」と抗議をした。
「ッち。赤也が来ちまったか」
「え、赤也ももう終わったの?!」
「当たり前だろーが!あんなよわっちーの楽勝だぜ?」
あぁ、天使達がお迎えに来てる・・・(危ない)
自分の平凡さに眩暈を感じて、慌てて自分の考えに訂正を施す。こいつらが超人なだけなんだ!
「あのさ、柳ってなんで音ゲー?よくしてるようには思えないけど」
「柳先輩は何でもできるぜ?あの人分析マニアだから、なんでも分析するだろ?
だから、音ゲーでもシューティングでもUFOキャッチャーでも、なんでもできるってわけ」
「・・・なるほどね」
もはや納得するしかない彼らの超人さに、は「山吹に行けばよかった。地味が恋しい」と零す。
「丸井先輩、登録する名前はいつものやつにしました?」
「そりゃなぁ。しねーと幸村に怒られるし」
「名前なんにすんの?」
「DIR」
D →どこでもいつでも
I →一位でなければいけない
R →立海大付属中テニス部レギュラー
何その「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハ○ヒの団」みたいな名前
その名前聞いて引かないやつがいたら連れて来い。あたしが「正気か?」の一言を永遠に問いつめてやる。
「もうUFOキャッチャーいいからゆっきーんとこ帰ろ」と二人の袖を引っ張って幸村の元へ行くと、
既に全員が帰ってきていた。
「全員帰ってきたし、それにもう遅いから帰ろうか」
幸村達が立ち上がったところで、が制止を入れて「プリクラ撮ろ!」と提案した。
返事も待たずに、ブン太と赤也の袖を引っ張ってプリクラの場所に走る。
ぞろぞろと後ろからみんなが着いてきて、その中には真田もいることをしっかり確認してから、お金を入れた。
「俺も払う」と赤也とブン太が言ったが、「いいからいいから」とその手を押しのける。
「はいみんな!ポーズポーズ!真田笑えコノヤロー!」
画面が小さいので、みんなでぎゅうぎゅうにつめて撮る。
その時幸村がちらりとを見ると、いつも以上に上機嫌な上、とても嬉しそうに微笑んでいた。
「俺達は一枚ずつでいいから、あとはが持ってて」
プリクラを切るときに、幸村が微笑しながらそう言った。
その言葉に甘えて、みんなの分を一枚ずつ切って、残りを自分の鞄の中に入れる。
もう外は真っ暗で、やっと「帰ろうか」とゲーセンを出たときに、「あの、すいません」と声をかけられた。
全員の視線が、声をかけてきた少年に集まって、その少年は恥ずかしそうにもじもじしながら「あの」と繰り返す。
「DIRさん、ですか?すごいファンなんです!握手、してもらえませんか?」
なんかもう、勝手にしてください
にこやかに握手している幸村と少年を横目で見ながら、は切実にそう思ったそうな。
家に帰って部屋に戻り、まず最初にさんの日記帳を開く。
入れ替わった日からずっと、あの飽き性のが一日も忘れずに日記を綴っている、日記帳。
鞄からプリクラを一枚取り出して、丁寧に日記帳に張ってからシャーペンを持つ。
千石さんに告白された。
あたしのことなんか誰も好きになってくれないんだからって、自惚れしないようにしてたんだけど
赤也といい千石さんといい、どうしてこう直球かなぁ?
千石さんは笑顔が見たい、って言ってくれた。
けど、この姿はさんのものであって、あたしじゃない。
ゆっきーは、人が変っても笑い方は同じだって言ってくれたけど、ホントのところどうなのかな?
よくわかんないから、あんまり考え込まないようにしよぉっと。
問題は千石さんの告白にどう返すべきか、だよね。
今度会ったときに、面と向かって思ったこと全部言おう!それが一番手っ取り早くて、伝わりやすいよね!
さん、さんすごく魅力的なんだから、自分に自信持ってていいんだよ
大丈夫、帰ってきても、赤也も、レギュラーもみんなさんの見方だし、もちろんあたしだってさんの見方だから。
また入れ替わったとき、元の世界に帰れた時、お互い悔いが残らないようにしようね
あたし、もともとメチャクチャやってたから、怒りたかったらすっごい怒っても誰も不審に思ったりしないから。
さんの思ったこと、したいことをしてもいいんだよ?我慢だけはしないで
っていうのは、あたしがさんの身体でメチャクチャしてるからなんだけど・・・
つーことで、手が痛くなってきたからやめる。おやすみ、さん
張ったプリクラを撫でながら微笑し、ベットにダイビング。
「もう帰りたいとか言わないから」と、それだけ呟いて瞳を閉じた。

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