「好きなんだよ」

わかってるよ、聞いてるよ
だからそんな苦しそうな顔しないでよ。ありがとう、って言えないジャン

「赤也、あのね」

「うるせーよ」とが言おうとしたのを遮って赤也は耳を塞ぐ。「うるさいうるさいうるさい」と聞こうとしない。
鼻を真っ赤にして今にも泣き出しそうな赤也を見つめて自分も泣きたくなる。今自分は一番ひどいことをしているのかもしれない

赤也の気持を無下にしたいわけじゃなくて、ありがとうって言いたいだけなのに。
向けてくれた好意にありがとうと言うことは綺麗に見えるかもしれないけど
結局はただ相手を傷つけるだけだって

わかってるよ




わかってるよ、そんなこと





【63.事実】






もしあたしが千石さんに会って千石さんには好きな人がいて、諦めないといけないのに諦めきれなくて。
それでも好きででもその人と千石さんは上手くくっついたとして。あたしはきっと千石さんから「ありがとう」なんて聞きたくない。

けど、聞きたくないけど聞かなくちゃいけない。


ねえそう思わない?赤也
だからそんなに苦しそうにしないでよ

ねぇ赤也


「ねぇ赤也」
「うるさいって言ってんだろ!」



ぼろぼろと涙をこぼしながら叫ぶ。もぼろぼろと涙をこぼしながら話しかける。
何度繰り返しているのかわからないこのやりとりももう無意味と化してきた。


「赤也ってば」
「うるさい」


それでもしないといけないやりとり。それでも繰り返さないと繋がらない会話。
伸ばした手が耳を塞いでいる赤也の手に触れた瞬間、赤也はビクッと肩を浮かしてなずなを見た。


その瞬間バシンと思い切り赤也の頬を叩いて、耳を塞いでいる腕を無理やりはがしながら叫ぶ。「聞けって言ってんの!」


「聞きたくなくてもあたしは言わなきゃいけない!言いたくなくても赤也は聞かなきゃいけないッ!
こんな事繰り返しても何にもならないでしょ!?耳をふさげば聞こえないし目を閉じれば何も見えないけどそれでいいの!?

あたしは嫌だよ。やっと前に進める気がしたのに、赤也に後ろ向いて欲しくない。

赤也が聞きたくないって言うならあたしがいっつも叫んでやる!遠くからでも近くからでも叫んで叫んでいつでも聞こえるように。いつか聞こえるように
赤也が見たくないって言うならあたしがいつでも隣にいて赤也の目の代わりになって赤也に伝えてあげる!それが想像できるくらいに

あたしはいつでも赤也の隣にいてあげる。あたしがいつでも赤也の力になってあげる。



聞いて


あたしは千石さんが好きだし、千石さんはあたしのこと好きだって言ってくれたけど。
それはあたしの世界にあたしと千石さんだけがいるようになったんじゃない。


あたしもいて、千石さんもいるけど赤也もいるしブンちゃんもいるし凛さんも真田もゆっきーも柳も。
みんなみんないるんだよ。あたしはみんなの隣にいたいしみんなの力になりたい。わがままでもいいからそうしたい。

だからね、今までありがとうって。これからもよろしくって。そう言いたいだけなんだよ」








――「俺、のこと好きだ」
「好きなんだよ」


崩れ落ちそうな身体を落ちつけるようにして額を押さえながら赤也はぽつりと呟く。
しっかりとの瞳を見つめて苦しそうに顔を歪め、腕を伸ばしてなずなの頬に触れた。


「お前の世界はどうかしらねーけど、俺の世界にはお前しかいない。お前がいて、お前が泣いててお前が怒っててお前が笑ってる。
しらねーだろ。俺がどんだけお前のこと好きか。しらねーだろ、お前がどんだけ俺の中にいるのか」


――「お前、誰だ」
「俺がここ数日で何回お前のこと嫌いになろうとしたか知ってんのかよッ!あぁ!?
そうやってお前はいつもそうだ!俺を取り残して行くんだ!俺には黙ってて、最後に俺に言ってお前はもう追いつけないとこにいるんだ!」


――「結局アンタは俺を、騙してたんだろ」
「なぁこっち向けよ、こっちだけ向いてろよッ」


――「だけど、なずなの存在は否定しないで下さい」
「取り残さないでくれ、俺を」


――「アンタの事、まず教えてくれないか?」
「苦しいんだよ、もうどうすればいいかわかんねーんだ。お前は俺の隣にいるはずなのに、お前は千石の隣にいるような気がする。
お前の世界には千石一人だけのような気がして、もう俺は消えちまったような気がしてなんねーんだよ」


――「本当のお前は、どんなやつなんだよ」
「好きだ」




「好きなんだ」





冷たい手を自分の手で包むようにして赤也の手をとり、は溢れる涙をぬぐうこともせずにただ鼻をすする。

「取り残したりしないよ」

自分の涙をぬぐうかわりに赤也の頬を伝う涙を拭って、にぃっと笑って見せた。
それを見て赤也は目を丸くして、やがて「泣くな」と言いながらの涙をぬぐう。


「ちゃんといるでしょ、あたしが隣に。それが事実。赤也が思ってるのが幻想。事実を見て。あたしはここにいる。
あたしの世界にはきちんと赤也がいて、赤也を取り残したりなんかしない。向きなさい、あたしの方を。

あたしは赤也がどれだけあたしのことを想ってくれてるのか知らない。でも、あたしは赤也のこと想ってる。
千石さんのことだってみんなのことだってそう。だからね、赤也」




あたしのほうちゃんと向いてよ




「赤也がこっち向いてくれなきゃ、あたしが赤也を見てても赤也はわからないでしょ。
あたしがどっち向いてるかなんて赤也が見てみないとわかんないでしょ。だからこっち向いてよ。きちんとあたしを見て」


うつむいていた赤也がこちらを向いたのを確認して、はもう一度笑った。


「好きになってくれてありがとう、赤也」






▽あとがきとか

イメージソングは高橋直純さんのMyLife。
みんな大人だけど、きっと赤也だけはきちんと中学生してると思ってる(←