「あ、丁度いいところに」

そろそろ昼食の準備でもはじめようかなー、という午前も終わるころ。
日差しから逃げるように木陰へ、されど虫は怖いので木には近づかず、木陰と日向のギリギリを歩いていたが首を巡らせると、ビーチボール片手に駆けて来た佐伯が瞳に映った。
「どうしたんですか?」
「いや、あっちで観月と橘とビーチバレーの試合をすることになったんだけど、メンバーが足りなくてさ。人員を探してたんだ」

「そうなんですか」
「うん」


「…」
「……」


















「………え、わたしですか!?」





















ギョッと目を見開いたが声をひっくり返すと、佐伯は爽やかに頷き、彼女は両手を突き出して、「いやいやいやいやいや…!」と首を激しく横に振る。
「む、無理です!無理なんです!わたし運動神経ないッ」
「大丈夫、俺がフォローするからさ」

「いや、そういう問題ではなく…!!」

掴まれた腕を、問答無用で引っ張られてはグルグルと目を回す。
「それならとかどうでしょうかね!?多分そろそろ食堂に来るころだと思うんですけど…!」
「俺はさんがいいなあ」


にっこりと笑顔でいわれれば二の句が続くはずもない。ぐ、と言葉を飲み込んでしまったは口をパックリと開いたまま、涙をのんで頷くハメになったのだ。これだから美青年は…!!(少年?)




【ビーチバレー大会!? 前編】




が。

「…佐伯君、これのどこがメンバーが足りないんでしょうか…」

海辺に引かれた線に、どうやらテニスコートの網を引っ張ってきた様子。すっかりビーチバレーコートとなったそこには選手たちがわらわらと集まっている。しかも
もいるし」
「やっほー姉ちゃん!ビーチバレーだってよッ!」

ブンブンと腕を振る彼女のかたわらには、なにやらアップをはじめている真田。
それでもってその隣にはオロオロとした小日向と、ジャージの裾をあげた手塚がいて、さらにさらに隣には辻本と白石。ずいずいっと先へ視線を向けたは固まった――「跡部君と…木手君?」



え、この二人がペアなんですか?
見るからに殺伐とした雰囲気を醸し出している跡部・木手ペアにが言葉をなくしていると、佐伯はこっちこっちとの腕を引っ張る。

「一回戦は、観月と橘との試合だから」
「ちょ、一試合の話しじゃなかったんですか!?一回戦の話しだったんですかッ!?ってかこれだけメンバーいるなら別にわたししなくても…!!」

「花は必要だからね。ほら、早く準備運動しなくちゃ」

「へ!?」
「はいくっしーん。1,2,34」

「ごーろく、しち、はち…」


流されてるしー。しー。しー…
一通りの準備が終わると、佐伯はビーチバレーのルールを教えてくれたのだが、にはここで一つ問題があった。というか、最初から問題はここにあるといっても過言ではない。

「あの、佐伯君…わたし、アタック打てないんですけど…」


ボールは見てる。走っていくこともできる。ただ、タイミングが分からないのだ。
どのタイミングで飛べば手の平にボールが当たるのかがさっぱり分からない。結局いつもネットにボーンとぶつかるだけ。

それを説明すると、佐伯はなんてことないように笑顔を返した。

「ちゃんとボールに向かって走れるなら大丈夫。そのうちタイミングも掴めるようになるだろうし…大事なのは走り込めるかどうかだな」


だからそのタイミングが19年間分からないんですって…!!


挙動不審になる暇もなくはコートへと引きずられていき、観月と橘と対峙すると、コートの向こうから「バーニング!」と大声量が聞こえて来た。

「第一試合、佐伯・ペアvs観月・橘ペアか…」
「こりゃあ応援するしかないにゃあ。な、おチビ」

「えーじ先輩。今越前はふてくされてる最中なんッスよ。はは!」
「え?そうなの?」

「越前は…」
「「「「「「「「「あ、ビーチバレーダメダメなんだっけ?」」」」」」」」」

「うるさいッス。なんでビーチバレーじゃなきゃなんないわけ?テニスでいーじゃん」
がテニスできるわけないでしょ」

「「「「「「「あー…」」」」」」」」
「燃えるぜ!バーニィイイイイング!!」







「…」
「応援か、嬉しいね」

「(イマイチ応援されてる気に欠けたのはなぜだろう…あ、さりげなくけなされてるからか…)

…はあ……?」


首を横に傾げて微妙な相槌を打っていると、ちょいちょいと袖を引っ張られ、首を巡らせるとニヤリと口端を持ち上げたが立っていた。
「姉ちゃん、勝ったら負けたチームに何でもお願いしていいんだってよ」
「何でも?」
「そー。例えば手塚に…ごにょごにょ……」

「ぶはっ」

「ね!?いーでしょコレ!?勝つっきゃないよねッ」
「……うん……!わたし、頑張る!!」


ぐ、と拳を握ったが先ほどとはうってかわったやる気を見せる後ろで、してやったりの笑顔を浮かべたが真田の所へ戻って来、
みるからにあくどいことを企んでいるその表情に「何をいったんだ?」と尋ねると、彼女は「内緒!」と唇に人差し指をたてた。

「姉ちゃん、あれくらいいわないとやる気出さないだろーしね。せっかく皆が気を利かせてくれたんだから、頑張ってもらわないと」

ピー、という試合開始の笛の音とともに、不動峰とルドルフのメンバー、そして審判の山吹を見たは何とも言えない表情をし、
気を取り直したようにチチチと指を横に振ると、「やる気の問題だからね」とトスを佐伯の姿を見た。
びくりと身体を浮かせたがボールを見ながら、若干不安気な顔で駆けていく。

「だってほら、姉ちゃん運動神経ない…っていうのが常識だから、みんなあたり前のこと忘れてるみたいだけど」


飛んで


打った。



「あれ越前さんの身体だし」











「…打てた……」

一直線に相手コートにたたきこまれたボールを一番不思議そうな顔で見ていたに、「ナイスアタック」といった佐伯がハイタッチを求める。
ぱしん、と乾いた音をたてて手を叩くと、より得意気なの高笑いが後ろから響き渡った――「ハーッハッハ!ハーッハッハッハハ!」

「さあ姉ちゃん!ジャンジャカ行くといいッ!安心しろ、それは越前さんの身体だからな!運動神経ない姉ちゃんでも大丈夫なのさ!アーッハッハハハハ!」


「あ…そっか」
納得と手を叩く
しかし後ろから「卑怯だぞ!それじゃあ三対二も同然じゃないかッ」と祐太の声が聞こえると、はハッと鼻で笑って胸を張った。

「言ったでしょ祐太!勝ったモン勝ちなのよ!スポーツマンシップとかそんな言葉しらな――――い!」
「観月!遠慮はいらん!やっつけろ!」
「橘さん頑張ってくださいッ」


うわー、一気に全員敵になった気分だよ…


「姉ちゃん!自分を信じるんじゃない!越前さんの身体能力を信じるのだッ!手塚に言って貰うんだろう!?」

ん?と難しい顔をした手塚と顔があう。途端にぷ、と噴き出したはビシッと観月と橘を指差すと、声高らかに叫んだ――「越前さんをなめるなッ!!!!!」

そうして完璧悪役となったの高笑いの中試合が再開されると、佐伯のトスでアタックを打ったはギョッと目をむいた。観月が準備万端で構えていたからだ。
「――ッ!?」

よたよたとバランスを崩した途端、観月のパスで橘が華麗なアタックを決める。


観月はふふ、と笑うと、長い前髪を人差し指で弾いた。


「ぼくがデータを取り続けた相手は、越前さんではなくあなたですよ?外見こそ知らぬとはいえ、ね」


「いーぞ行け!観月――ッ」
「赤澤部長うるさ…あ、いえ…観月さん、頑張ってください!!!」

「橘さ――ん!今のフォーム最高っすよ!」
「まったく、この暑いのにビーチバレーって物好きにもほどがあるよね。だいたい橘さんも橘さんだよ、俺たちテニス部なのになんでビーチバレーボール…まあ、やるからには勝って欲しいけどさ」
「あーもう深司!ボヤいてないで応援しろッ」
「「たちばさーん!!」」



「サエさん頑張ってー!」
「それにしても、手塚にいってもうらことって何なんだろうな、ダビデ」
「…少し、気になる」
「だよな!越前――!あ、越前じゃねえんだっけ?まあいいや、頑張れェエエエ!」


「あはははははは!!」

「幸村、少しは真田のアップに付き合ったらどうだ」
「あははッ」
「ダメだな。これは」



「せいぜい俺の脚を引っ張らないでいただきたいですね、跡部君」
「あーん?てめえ誰に向かって言ってんだよ」



「……っていうか先輩、さりげなく自分信じるなとかいわれてンスけど…あれ?越前はどこいったんだ?」
「さー?」






ビーチバレーボール戦、開幕!