「…それを、俺に言えというのか」 手塚の眉間のしわは、かつてないほど寄せられたという(不二による統計) 【ビーチバレー大会!? 後編】 越前さんの身体能力はすごい。 自分ではまだだろう、的なタイミングで反射的に身体が動き出し、気付いた時にはボールを打っている。相手がボールを打った瞬間、なんとなーく落ちてくる場所が想像できる。身体が反応する。 さすがリョーマのお姉さんだなあ、と思う間に見事にのアタックは決まり、勝負はついた。 握手をかわした小日向と、「お疲れ様」と言葉を交わしていると、手塚は「それで」と話題を切り出す――「俺にして欲しいこととはなんだ?」 どうやら本人が一番気になっていたらしい。 はひらりひらと手を振って「いや、全然難しいことじゃないんですよ」と前置いた。 「一言言って欲しいんです。神子って」 「「「「「「「「神子?」」」」」」」」」」」」 「低い声じゃダメですよ!ありったけの高い声で「わたしの神子…」って言って欲しいんです。ちょっとうるっとした感じがポイントです」 「…それを、俺に言えというのか」 「はい!」 満面の笑みでぐ、と親指をたてた。だって罰ゲームだもんねッ!何でもお願いしていいんだよね! 「……」 「………」 「…………わ、」 「わ?」 「わたしの神子…」 「もっと高い声で!はいせーの!」 「自主規制。…」 「「「「「「「「「「「ぶっ」」」」」」」」」」」」 「「あーっはっははははははははっはっはははは!!!!!!!!!!」」 □ 日もだいぶ落ちて来た。 砂浜の温度も幾分かさがり、会場中が腹を抱えて笑い転げたあと、ついに佐伯・ペアvs真田・ペアの試合がはじまる。 は木の棒を握ったままコートの中に入ると、サクッと音をたてて砂の上にたてた。そのままずいっとコートにラインを足して二つに割る。 「んじゃ、こっち側真田ね。あたしはこっち担当」 「え…」 それを目の当たりにしたは、思わず口をはさまずにはいられなかった。コートに引いてある線は決して中央ではない。あえていうなら真田2:1の割合だ。 が指摘すると、はあっけらかんと言葉を返す。 「だって切原さんの身体、運動どうも苦手そうなんだもん」 だから1の割合を確実に取るの、とは屈伸。は「ああ」と納得した声をあげると、ポンと手を叩いた。 「それでは、佐伯・ペアvs真田・ペアの試合をはじめます」 佐伯のサーブをはじめにラリーがはじまる。真田は2の割合を担当しているにも関わらず的確に返してくるし、もいうだけあって絶対に1の割合を守り切る。 攻防を繰り返しづつ少しづつお互い点を取っていく中、 は息をすうと、真田陣地と陣地の境目を見つつ飛び上がった。真田が反射的にそちらに向かって駆け出す。 「…ッ」 刹那、 はコートの右側に向かってボールを打った。我ながらうまくできたフェイントだと思う。しかし。 「ざーんねん」 ぺろりと舌を出したがあっさりとボールを打ち返し、はパカッと口を開いた。 「何で真田陣地にアンタがいるのよ!!!」 「別に担当決めただけで、手ぇ出しちゃダメとか決めてないもーん」 「はあ!?」 「はっはっは!ざまあみろ!」 ようやくみんなが口をそろえて「軍師」といっていた意味を理解する。 ブーブーと文句を垂れたは「ドンマイ」という佐伯の言葉に頷いて返事を返した。試合再開。今度はがトスをあげると、佐伯が身体を弓なりにしならせて勢いよくボールを打つ。 「よ、っと」 は「ハイハイ!」と名乗り出て構えたが、ボールは勢いよくの腕にぶち当たると、てんであさっての方向に飛んでった。 「痛い――――ッ!!」 「あはは。ごめんね」 あまりの痛さに受け取った時方向がズレてしまったらしい。 アタックを打てるのは越前さんだけじゃないのだよ!はベーッとに向かって舌を突き出す。着地した佐伯は爽やかに謝ると、「さあ」と瞳を細めた。 「悪いけど、負けられないよ。六角のテリトリーは海だからね 「「「「「「「「おおおおおおおお!」」」」」」」」」 「サエさああああん!頑張って――!!」 そして 「…」 「……もー…無理」 試合終了の合図とともに、とがぺたりと地面にしゃがみこむ。 佐伯のボールは当然真田にはなんら効果も示さずあっさりと返され、結局持久戦へと突入したのだが、ここでまずバテはじめたのはだった。どうやら体力に限界が来たらしい。 それでも持ち前の負けず嫌いが幸いしてなんとか勝負を続けているうちにバテたのは。越前さんの身体とはいえ三戦目というのはさすがに疲れたのだろう。 まあいわゆるところ真田と佐伯の試合になったわけだ。 そしてやはりここは海辺の意地を見せた佐伯が勝ったわけで――とが荒い呼吸を繰り返している間にも、浮き上がった会場は万歳三唱でもはじめん勢いだ。 みんなのテンションが尋常じゃない。さすがスポーツマンはこういう試合に燃えるらしい。 「軍師!軍師、軍師!」というナゾのコールと、「おめでとう、佐伯・ペア!」や、「お疲れ真田!」というコールにまみれた会場にもはや異世界人だのどうのの気まずい空気はない。 「お疲れ様」 差し伸べられた佐伯の手を握ったは「お疲れ」と弱弱しく微笑むと、「気を使わせてゴメンね」と言葉を付け足した。 「何がかな?」 「この大会、企画してくれたの佐伯君たちでしょう?」 が思うに、試合に出てたメンバーだろう。 何も言わずただ頬笑みを返した佐伯の後ろで、が「おんぶして真田あ、真田ぁ」とわめき散らしている。よほど疲れたらしい。も一息つくと、「でも」と言葉を続けた。 「…今日、ご飯作る元気ないかも……」 ぽつりと呟いた一言。 ざわざわとわいていた会場が一気に静まり返り、大声量が響き渡った。 「「「「「「「「「「えええぇえええええええ!!!!!???????」」」」」」」」」」」」」」」 結局夕飯は小日向、辻本を筆頭にクジで決められた選手の担当となり、 当然全員に手が回るはずもないため、夕食は他に類をみない壮絶なメニューになったという(その夕食を笑顔で食べたのは腹ペコだった出場メンバーだけだったとか)。 そのためその後とを疲れさせるようなイベントは一切設けられなくなり、女性陣が作った夕食がどれほどありがたいか噛みしめたらしい。 しかし 「いや、だから筋肉痛がさ…」 「お前は何日そのいいわけが通じると思っておるのだバカもの!たるんどるッ」 「アンタにあたしの痛みがわかるっての!?なんなら入れ替わってやろうか!?」 という騒動が数日によって行われ。 もうこんな大会はゴメンだな。との筋肉痛で仕事が増えたはしみじみ感じたのであった――やっぱり運動嫌い。 姉編へ |