「すいませーん」


真夜中、これでもかというほどマジにご飯を食べ(温かいまま出て来た夕食に感動ものだった。しかも美味しく、マリアンに至ってはがご飯を食べにくるまで起きててくれたのだ)
これが完食せずにいられるだろうか、いや、いられまい。

完食どころかしっかりおかわりした分まで平らげ、
お皿は置いといていいですよ、というマリアンの声に感動しつつ部屋に戻ったは、再びぶっ倒れた。

お腹もいっぱい、ぐっすり睡眠時間を取ったは朝になるとマリアンに挨拶をして屋敷を出、(リオンは起きた時にはすでにルーティーたちを王宮に連れて行っていた)
まずは生活必要品から漁っていく事に決めた。

服、洗面具(これはあらかた揃っていたので、大して不憫でもなかったのだが)、紅茶セット、コップ、水、リュックサックに、ウエストポーチ、お菓子などなど。

結局両手いっぱいの荷物をかかえる事になったは、そのままの足で武器屋へと向かう。
の記憶が正しければ、スタンたちの謁見中、ストレイライズ神殿がグレバムによって襲われた事の報告を受けたはず――
そして囚人監視具を付けられたスタンたちはリオンに同行されて、ストレイライズ神殿に行く事になるのだ。

一日休みは貰ったものの、一応リオンの部下(もっとも当のリオンはまったく必要と思ってないみたいだが)。
急遽ストレイズ神殿に行く事になっても対応できるよう、お昼前には全ての準備を終わらせて屋敷に戻りたい所。

屋敷に一度荷物を置きに行く事も考えたが、一度帰ってしまうとなんとなく出にくくなってしまう気がして、仕方なしにはそのまま武器屋のドアを叩いた。


「へい、らっしゃい」
「あの…武器が欲しいんですけど…まず荷物置かせて貰っていいですか?(切実)」

店のオヤジの了承をうけ、は店の端に荷物を置かせてもらう事にする。
あー、重くて肩凝った。と二三度腕を回すと、あらためてオヤジに向き直った。


「武器が欲しいんです。一通り見せて貰っても構いませんか?」
「おーいーよ。どんなのがお好みだい?」

「えーっと、多分、一通り使えると思うんで…自分にあったものを探そうかと思うんですが…」

「使えると思う?」
「あ、そこらへんはノータッチでお願いします」

訝しげな顔をした店主だが、お金はしっかり持っている事を伝えると、態度を一変、気前がいいほどしっかりと武器や武具を見せてくれた。
斧、槍、弓――一個一個手に取ってなじむかどうか握って見る。
もっとも武器なんて握った事がないから、もはや感覚だ。次に剣。長剣から短剣まで隅々と見て、は首を傾げる。

「納得するもんがないかい?」
「えー…まあ…」

「なら…ちょっとこっち来な」

店の奥を首で示したオヤジが暗がりの中へ消えて行く。
その途端怪しげな店へと風貌を変えた武器屋に戸惑いつつ、言われるがままに後について行くと、うわ、とは間抜けな声をあげた。


「すご…」


店の中にはなかった品物がたくさんあった。ぽかんとした顔で見ていると、オヤジは歯を見せて笑う。

「趣味でね。競りやらなんやらで集めた品々なんだが…いわくつきだの、盗品だのなんだので面に出せないものばっかだ!」

嫌々!そんな自慢げに言われても!
ひぃ、とは肩を抱いて後ずさる。バッグに黒々としたものが見えるのは、気のせい…だろうか…


「さ、見て見るといい」
「…はあ……」

おそるおそる手を伸ばしてみる。
握ったが最後、手が離れなくなるとかいう品があったらどうしよう!と思ったが、そしたらオヤジの手がすでに犠牲になっている事に気付いた。その点は安心らしい。

ゆっくりと店内を見渡しつつ、どんどんと暗がりの中に進んでいたは、ぴたりと足を止めた。

「これ…」
「おー、お目が高いね。
それはいわくつきでも盗品でもないんだが…ほら、デザインがちょっと斬新だろ?だから客の引き取り手がなくてねー。いわゆるお蔵入りってやつさ」


手に取って見ると、吸いつくような感覚を感じた。
「日本刀だ…」

「日本刀?」
「あ、いえ…そういう刀にデザインが似てるな、って思って」

「へえ。これと似た刀なんてあんのかい!なかなかの一品なんだが、こっちじゃそんな剣は見慣れないからね。可哀想な事だよ」

こんな埃っぽい所にしまっているどの口がいうのか。
呆れた顔でオヤジを見たはその横にあるのも見た――銃?

思えばディスティニーキャラで銃を使う子はいない。アビスではリグレットがいるけれど…そうか、銃もこっちでは主流じゃないのか。

弓だのなんだの、少し古典的なような気もするなーと銃を手にすると、オヤジはひゅ、と口笛を吹いた。


「そいつも知ってんのかい?
おっかない武器だからね、早々店先には置けないよ」

バーンだからね!とオヤジが両手を広げて大笑いする。

「これって…手入れとかいるんですよね?」
「まあね。手入れのセットも一緒に手に入れたのは手に入れてるんだよ。ただ、俺自身武器マニアってだけで、使うわけじゃないからね。
手入れ道具も手入れの仕方も奥の方に仕舞こんだままさ!

そいつを使うには弾っつーやつがいるそうなんだが、それも確か奥に…
あー、そいつを買ってくれるっつーんなら、弾の仕入れを考えてもいいぜ。お客さんにだけ、特別な」


金づるだ!と顔に書いてある。
まあ定期的に弾を買いに来るとなったら、それはそれで金づるだろうが…そんなハッキリ顔に出さなくても、とは肩をすくめた。

「じゃあえーっと、その銃のセットと、この刀と…あと、面に置いてあった短刀もください」
「結構な金額になるぜ?」

「お給料前払いな上に、思わぬ衣食住の保証もされちゃったんで、あんまりお金使わなかったんですよ。しかも結構高給取りなんですね!これが!」

グ、と親指を突き出すと、気を良くしたオヤジもグ、と親指をたてた。
どうやら本当に金づるだと思われたのか、買い手の気前よさに心を打たれたのか、一緒に落札したらしい銃のホルダーもセットをただで譲ってくれた。


とりあえず店の奥を借りて、動きやすいと踏んで買った服に着替えさせてもらう。
その後飛びつくようにオヤジがなんやかんやと世話を焼いてくれて、左のふとももに銃のホルダーを装着。
手入れの仕方を一緒に紙を見つつ教えてくれて、ピカピカになった銃を収納。
腰には日本刀、小刀はジャケットの奥の見えない場所――腰の後ろに短刀のホルダーもつけてくれて至れり尽くせりだ。短剣も装着すれば、これで本当のRPG雰囲気。

「重くないかい?」
「いえ…思ったより結構軽いです」

「ハハ!どんな体力してんだいお嬢ちゃん!」

前ならちょっと運動しただけで疲れてた(どんだけ運動不足だよ)だったが、どうやら身体能力もかなり強化されているよう。
あれだけ買い物しても疲れないし、荷物を持った手も別段痛くないし、これだけ装備しても身体が軽い。

「すごいな、神様見習い…」
「なんかいったか?」
「いえいえ、ではお代の方を…」


てっきり金づるだと思ってガッポリせしめられるかと思ったが、どうやら後者の気を良くした方だったらしい、
きっちりと妥当な値段を請求され、支払った所で「また面白い品があったらすぐ声かけるな!」と爽やかな笑みを浮かべられた。

「ありがとうございます」
「弾はこまめに補充するんだぜ!あと、俺が言うのもなんだか、手入れはこまめにな!」

店頭に並んである商品は見栄えのためかしっかり手入れされているのに、奥に押し込められた品物たちは埃だらけだった。
あはは、とは笑うと、店先に置いていた荷物を抱えて「それじゃ」と挨拶をする。

「おー!武具の調子、教えてくれよッ」

自称武具マニアなオヤジは興味があっても使えない武具が使える人の手に渡った事が嬉しかったらしい、
報告を求める声に笑顔を返してが屋敷に戻ると、屋敷の前にたむろしていた(言い方が悪い)リオンが「遅い」と眉根を寄せた。スタンたちがこちらへ首を巡らせる。


「え…スイマセン……」
「急な話だが、ストレイライズ神殿に行く事になった。当然貴様もだ。準備はすんだか?」

「あ、はい。買い物は済みましたけど…準備に少し時間が欲しいです」

お水とかお菓子とかを(遠足か?)リュックサックにつめたいし、せっかく買ったウエストポーチの付け心地も試したい。
その意を込めていうと、てっきり不機嫌になるかと思われたリオンは「さっさとしろ」と言ったのみだった。

昨日の今日でこの態度の差は何だ?(昨日は後ろから蹴り飛ばさん勢いだったのに)

「ぼくも、出かける前に少し用がある。ここで待ってろ」


そういってリオンが屋敷の中に入っていくと、ルーティーがひゅ、と口笛を鳴らした。


「もう一人いるっていうから誰かと思ったら、アンタの事だったのね」
「先日はどうもお世話になりました」

ぺこりと頭を下げると、最後まで眠っていて顔をあわせなかったスタンが首を傾げたかわりに、ディムロスが『巻き込んだのはコチラだ。スマンな』とわびをいれる。

「あ、いーえ。わたしの方こそ勝手に使わせて貰ってすみませんでした」
「え!?君、ディムロスの声聞こえるのか…!?」
「あ、はい…まあ…」

『そのせいで一本取られたのよね』
とクスクスとアトワイトが笑う。声だけで美人さんと分かるというのはすごいなーとは困ったように笑った。おっしゃる通りで。

「でも、なんでそのアンタがリオンの部下になったわけ?」
『あれで腕を買われたんだろう』
『見事だったものね』

えへへ、いやーそんな、うふふ
照れたように笑っていると、どうやらマリアンと話終えたらしいリオンが戻ってき、「さっさと行って来い!」と立ち話をしていたを一喝した。
どうやら態度が温和になったのは気のせいらしい。

「はい!」

あわてて返事をして屋敷に駆け込んだは、荷物という荷物を片付ける間もなく散らかし、
帰って来た時に片付ける大変さに内心涙をのむ暇もなくさっそくストレライズ神殿へ出向く事になったのだった。

(あーあ。ホントに先が思いやられるなぁ…)




【A thread of the strain】




駆けだしたは手前にいるモンスターを一刀打に切り、背後から押し寄せた別のモンスターには銃口を向けた。パンパン、と乾いた音が鳴り響く。
「――ッ」
その瞬間飛び散る血。
息をのんで後ずさったは、息をつく間もなく、他のモンスターに来襲され、蹴り飛ばした。


「すごいな…」


マリーが斧を振り回しつつ、感心したような声を上げる――こっち見てる暇あったら手動かしてください、手!

「ファイアーボール!」
最後の一匹をファイアーボールで仕留めて、はようやく生きた心地を取り戻した。
街を出てからというもの、モンスターが後を絶たない。身体的にはまったく疲れていないのだが、心労がしんどかった。
相手を斬る、という感覚になれない。

というよりも、なれないほうがいいのが正しいのだ。こんなものになれる必要はない。

「はっ、はっ」

その点スタンたちは手なれた様子だ。この世界では当たり前。モンスターがいて、剣をふるうのはご飯を食べることと同じなのだ。戸惑いを感じる事のほうが理解できないのだろう。
途中アルメイダの村にも立ち寄ったが、そのほかはほとんど野宿。
見張りを買って出たのは、なれない野宿で寝られなかったからだ。おかげでアルメイダの村ではスタンと一緒で、叩き起こされるまで寝続けたが。
オベロナミンCを飲んでくぅ!と喝を入れるのはいつもの事。

後一歩でストレイライズ神殿にたどり着くそうなのだが、暗くなった森は危ない。

よって今日も焚火をかこんで野宿ということになり、はまた見張り役を買って出た。


「いーわよ。アンタ、野宿のたびに見張ってるじゃない」
「あ…いえ…えーっと、いいんです。あんまり疲れてないから」
「んな訳ないでしょう?こんの鬱陶しい森の中…歩いてるだけで疲れるわ!」


ルーティーが前髪をかき上げる。
フードサックから出るいなりずしで空腹を埋めたスタンは早々と焚火の前でうとうとしていた。歩きながら寝る特技を持った彼だ。野宿なんて朝飯前なのだろう。

「とにかく、大丈夫ですから。みなさん休まれてください」

にっこりと笑うと、ルーティーも「そう?」と言って寝袋に潜る。
誰だって疲れるのだ。寝れるもんなら寝た方がいい――のように、寝れないのなら話は別だが。

「本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、マリーさん。何かあったらみなさんを叩き起こしますから!」

「ああ!そうしてくれ!」と、マリーが豪快に笑う。

ルーティーもマリーも本当に優しい。スタンは言うまでもなくいい奴だ。
そしてパーティーの中で未だになじめない――というか、上司なんだから一番になじむべきはずの――リオンは木の根元で瞳を伏せている。

誰も信用していないだろう彼は寝てるのか寝てないのかもわからないが、まあとにかく、嫌味だの皮肉だの言われない夜中はある意味一番心安らぐのだ。
火を見るのも落ちつくし。


「…」
『眠れないのか』

ディムロスが問うてきた。
夜は機能停止をして、眠っている状態と同じになっているらしいが、本来ソーディアンは睡眠を必要としないらしい。

「え…えーっと………はい、まあ」

言いにくいながらも正直にいうと、アトワイトが困ったように笑う声が聞こえた。

『どういう原理が知らないけれど、あなた、あまり戦闘に慣れていないみたいだものね』
「わかりますか」
『我らをなんと心得ている』
「剣ですよね」
『だよねー』


のんびりとしたシャルティエの声が向こうから聞こえた――君は喋るんじゃない!リオンが起きるだろうが!
シ、と口元に手を当てると、『大丈夫。坊ちゃんは起きないよ』とシャルティエが声をあげて笑う。どうやらの反応がよほどおかしかったらしい。


『昌術を詠唱なしで使う事も関係あるのでしょう?』

アトワイトの声に、はえーっとと言葉を濁した。
『ま、無理に聞き出そうなんて野暮な事はしないって。ねえ、ディムロス、アトワイト』

ええ、とシャルティエの声に優雅に相槌を打つアトワイトと、一瞬言葉に詰まったディムロスの声が聞こえる。こっちは少し問いただすつもりだったらしい。


『闘いは怖いくらいがちょうどいいのよ。平気になる必要も、無理に毅然とする必要もないわ』
「…そう、ですよね」
『あからさまに血から逃げるのは怪しいけどね!』
「……ですよねぇ」
『まあ、そういう意味で慣れてくれば、自然と避けられるようになる』
「そうですかね」
『そうそう』


こんなに力強く励まされているのに、今傍から見れば、一人で怪しく喋ってる女なんだろうなーと思うと笑えてくる。
が「はは!」と声をあげて笑うと、シャルティエも「あはは!」と笑った。

声を出して笑うのってやっぱりいいなー

「あの…」
『何だ?』

「理由は言えないんですけど、わたし、剣の手入れとかしたことなくて。銃の手入れは、店のオヤジさんに教えて貰ったんですけど…よかったら、教えてもらえませんか?」

そういうと、ディムロスが『なかなかいい心がけだな』といたく感心したような声をあげ、
アトワイトが『いいわよ』と優しい声を出した。

『道具はあるの?』
「あります」

そう言ってリュックから一式取り出すと、ソーディアンの剣の手入れ講座が始まる。
えいさ、ほらさとなれない手入れをして迎えた次の日は思った以上にしんどくて、その日、ははじめて見張りを変わって貰い、寝袋の中に潜り込んだ。

こうして入って見ると、思ったより悪くない。

疲れてなかったように感じたのも、どうやら緊張が糸をはっていたせいらしく、はその日見事爆睡。次のストレライズ神殿では大活躍できそうだ!