「あたしってさ、やっぱツイてるよね」 府立四天宝寺中学校と書かれた門前でしみじみと言ったの言葉に、は黙って頷く。 昨日は夜遅くまで食べて飲んで騒ぎ明かし、ホテルに戻った後午後まで眠りこけたのだが、 いざ四天宝寺に向かおうと言う話題になった時、ポツリとが疑問を口にした。 「夏休みとは言え、私服で学校入れるの?」 楽譜を持ってきていたも、さすがに制服までは持ってきていなかったようで、「あー」と言うと、頭を抱えてしゃがみこむ。 大阪と言えば四天宝寺、四天宝寺と言えば大阪――見に行かずにこの世界の大阪の何が語れよう! 「金ちゃん見たい。謙也君と財前君も見たい」 「私だって白石見たい…」 昨日十万取ったとは思えない程影を背負って落ち込んだ二人。 「とりあえず近くまでは行こう」とが言うのに対して、 「同じ空気だけでも吸おう」と立ち上がったに冷静な突っ込みが入った。 「、何かそれ変態チックだから」 「変態じゃない。どこまでも萌えを追求する女なのよあたしは」 「何でも萌えで片付けられると思ったら大間違いだぞ…?」 そのうち「萌えで済むなら警察はいらねぇんだよ!」とか言うハメになりそうだな、とは思う。 そんな突っ込みは入れたくない。何か色々品格が疑われそうだ。 とりあえず目立たない程度のラフな格好でホテルを出た二人は、 道行く人々に「四天宝寺中学校はどこですか?」と尋ねながら、門前まで何とか辿り着くと、 色々な制服の人が門を入って行ってるのを瞳に映した。 男子よりもどちらかと言うと女子の方が割合が多い。 さり気なく「今日は何かあるんですか?」と尋ねたに、 女生徒は嬉々とした表情で答えた――「今日は男テニの練習試合なの!」 そのままキャッキャと声を上げながら女生徒が去っていくのを見届けると、おお、と二人は顔を見合わせる。 何と言うタイミングの良さ!これなら私服で入っても目立ちまい。 そして冒頭部分に戻る訳である――「あたしってさ、やっぱツイてるよね」 「さぁ行こう、今すぐ行こう」と歩き出したの背中を見て、は一瞬考え込んだ。 やっぱ「程ほどにしろよ」と言うべきだろうか。 でもせっかく気持ちが浮上して来たなら、このままそっとしておいてやりたいのが心情だ。 大丈夫だよね、いくらなんでもここ大阪なんだし。 しかしは大きな勘違いをしていた。ここは大阪でもテニプリの世界 そして彼女が萌えをこよなく愛するトラブルメーカーだと言う事を 【大阪の萌え】 「見て見て!金ちゃんが居る…ッ!動いてる、喋ってる…あー思ってたより背高い!可愛い!」 「うわー。アニメで見るより美形だなぁ…白石」 人ごみを掻き分けて前まで辿り着いた二人は、フェンスに手をかけると、アップをしていると思われる部員達をまじまじと見る。 相手校と思われるテニス部は、言うまでもなく見た事もない学校で、 偵察に来ているであろう男子生徒はともかく、女生徒は明らかに四天宝寺目当てだと思われた――相手校がかわいそう とは言え自分達が応援してあげるのかと聞かれれば、当然否な訳で 試合が始まると、それこそ女子の黄色い悲鳴はコート中に響き渡り、 相手校はたいそう迷惑そうな顔をしていた(どちらかと言うと嫉妬に近そうだ)が、四天宝寺は慣れているのだろう淡々とゲームをこなしていく。 やがてダブルスが終わり(謙也と財前のコンビには、も他の女子に負けない声援を送っていた)シングルス3が終わると、 コートに入った白石を見て、はほぅっと思わし気にため息をついた。 「色男…」 「姉ちゃん、それ中三の言う台詞じゃないよ」 の突っ込みにはっと眼を見開いたが、コホンとわざとらしく咳払いをし、「カッコイイね」と言いなおす。 垣間見えた19歳と言う年齢に(19でも言うかどうか不安だ)はあきれ返ると、 パンッと言う音と共に相手コートに入ったボールに視線を向けた。 白石が顔に手を添えるのを見た二人が、ごくん、と固唾を呑む これは、もしかすると聞けるのではないだろうか 「んー、エクスタシィ」 デタ――((゜∀゜;;))――ッ!!(使い回し) キャ――ッ!っと女子が歓喜余ってふらりと倒れそうになりながら悲鳴を上げる。 悲鳴を上げる前に色々と突っ込みを入れるべきだろうと思うのだが、恋は盲目、この言葉すら魅力的なのだろう。 「ecstasy…感が最高潮に達して無我夢中の状態になること。恍惚(こうこつ)。忘我。(yahoo辞書参) 最初この単語だけ聞いた時は、綺麗な顔したとんだ変態だと思ったよ…」 「ああ、姉ちゃんこの単語が“絶頂”って言う意味で使われてた事最近まで知らなかったもんね」 「作者もさ、個性付けたいのは分かるけど、ちょっと無理があるって言うか…」 「それは今に始まった事じゃないし、そこがまた乙女心をくすぐる訳ですよ。萌え――ッ!って」 実際そんな単語を口に出来るのは腐女子の中でも希少価値だろうがな、とがを横目で見る。 ましてや本人達を目の前にして言えるのはだけだ。 そんな掛け合いをしながら見ていると、白石の試合はBIBLEと称するにあう、基本を忠実に極めたプレーで見事に勝利した。 その光景に、ふとが「あのさぁ」と言うと、 金太郎が屈伸している事で次の試合だと理解したが、喜びに眼を輝かせながら「何?」と首を巡らせる。 「実はずっと思ってたんだけど。 南が出たときはさ、基礎に忠実なプレーをして地味’sなんてあだ名を付けられたのに、白石はどうして目立つのさ」 「顔じゃね?」 あっさりと言い切ったの言葉に、 は「そんな事分かってるさ」と言いながらフルフルと体を震わせると、地を這うような低い声を出す。 「男はやっぱ顔か?そりゃ白石がカッコイイのは認めるさ、私も大好きだとも…ッ!(ここ重要) でも顔のいい男は三日で飽きるって言うでしょ? 現実的に考えて、南の方がそりゃぁ給料は平凡かも知れないけど、 公務員辺りに就いて安定した収入を持って帰って来てくれそうだし、年金も自動振込みだから老後も安定するし、 こっちの方がどう見たっていい物件ですよね!?」 カッと眼を見開いて力説したを見て、「物件って…」とが頬を引きつらせる。 もはや19歳の言う範囲を超えている。アンタ結婚に焦ってるの?とでも聞きたくなる言葉だ。 「いやさ、現実的に考えるも何も、向こうに居る人たちにとっては二次元のキャラクターな訳だし、 そんなリアリティーある事考えてるの姉ちゃん位だって。大体東方の立場がない事にそもそも気付こうよ」 「今の私の言葉を聞いて、頷いてる人は絶対に居るって…ねえ!?」(だから東方…) 「誰に言ってんのさ。だってさ、中学生の恋愛に給料とか年金の自動振込みだとか、いい物件とか関係ないでしょ。 年齢的にまだまだ遊べるって言うか、失敗しても融通が利くって言うか…」 「あんたも歳の割りに現実的だよね」 その時金太郎がコートに入り、が興奮し出したので会話が終わる。 最後のの台詞がきいたのか、割と落ち着きを取り戻したも、 ピョンピョコ跳びながら(岳人と合わせて雑技団になれると思う)確実にラリーを続ける金太郎の試合を真面目に見だした。 「…ネット…消したる…」 隣じゃなかったら聞こえない位の小さな声で呟いたの声が聞こえて、は「ん?」と首を巡らせる。 コートの中で動き回る金太郎を見るの眼は爛々と輝いていて、嫌な予感がした途端、の声が響いた。 突然歌いだしたに注目が集まるが、本人はまったく気にしていない。 むしろ拳をきかせて歌う姿に、聞き覚えのあるフレーズが、この後の彼女の行動を暗に示していて、 はわっと口元を押さえようと思ったものの、もう遅かった。 「皆行くでぇ〜!ドンドンドドドン 四天宝寺――ッ!!」 ギャァアアアアアとの断末魔が聞こえて、審判も相手校の選手も、金太郎も、他の選手の視線まで一気に集中する。 他人の振り…ッ!他人の振りッ…! そろそろと離れて行くと、「金ちゃんがコッチ見たぁ!」と言うを見た金太郎は、 「あ――ッ!」と二人を指差すと、「白石!昨日の子や!」と一際高く飛び跳ねた。 白石の視線があからさまに逃げようとするに移って、眼があったは口端を引きつらせると、逃げ場がないとがっくり肩を落とす。 昨日――身に覚えがありすぎる単語に、もはや諦めと言う四文字しか浮かばなかった。 「ホンマや」 見に来てたんですか貴方達。 金太郎と白石の言葉で、これだけ人数が居れば数打ちゃ当たるとでも言うべきか、試合を観戦していた生徒達に波紋が広がっていく。 「ねぇあの顔、昨日喉自慢に出てた子達じゃない?」 「ああ。ねぇ、あの歌結構良かったよね」 ヒィ――ッ!と声にならない悲鳴を上げたは、 「金ちゃぁん!」と両手を振っている(そして金太郎も答えてる)の腕を掴み引っ張った。 「ホラ、もう気が済んだでしょ。帰るよ」 「え〜。まだ金ちゃんの試合終わってない」 「だまらっしゃい!」 頼むから黙って帰って!と泣き声に近い声を上げたは、 食い倒れに釣られたとは言え、ましてや知り合いが居ないとは言え、あんな目立つ行動するんじゃなかったと今更ながら後悔する。 これ以上注目を浴びるのは勘弁と言わんばかりの表情で腕を引くを見て、 その必死さが伝わったのだろう、渋々と言った態でが帰ろうとした時、二人のすぐ脇から声が上がった。 「何や、もう帰るんか?」 「はい。もう十分堪能しましたしって近ッ!何時の間に来たんですか!」 見ると、反対側のコートに居たはずの金太郎がフェンスのすぐ向こうに居て、眩しい程の笑顔でにかっと笑う。 「ワイ遠山金太郎言いますねん!あんじょうよろしゅう!」 “あんじょうよろしゅう”が生で聞けた…ッ!嬉々とした表情を浮かべ、 それまで黙って腕を引かれていたも、電光石火のスピードでの手を振り払うと、金太郎に向き直った。 「あたし、切原って言うの!よろしくね!」 「なぁなぁ、ワイ昨日一曲目の途中からしか聞いてないんや、試合終わったら聞かせてくれへんか?」 「喜んで!でも、ピアノかキーボードがないと…」 「音楽室貸して貰えるようワイが頼むわ!」 「うん、じゃぁ全然OK!もう出血大サービスだよ!」 「ちょい待てェエ!勝手に返事をするなッ!そして人の話しを聞けッ! ああもう、そんなに私をハゲさせたいか…ッ!」 悲鳴に近い声で言ったは、きょとんと瞬くと金太郎の眼を見、 咄嗟に自分が何を口走ったかを悟ると、かぁあっと羞恥に頬を染める。 その途端、思い切り大きな声で言ったため周りに轟いたのだろう、観客も選手からもどっと笑いが起きた。 見ると白石まで笑っている。 ああもうヤダ…はふらりと眩暈がするのを感じると、「姉ちゃん!?」と言うの声を最後に意識を手放した。 □ 「それで、結局こうなる訳ですか」 うんざりとした表情のにまったく構う様子はなく、金太郎は「よ、待っとったで!」と両手を叩く。 眼が覚めるとそこは保健室で、「眼、覚めたんか!」と絶好調の金太郎の声にまたフラリと視界が霞んだものの、 半ば引きずられながら音楽室まで連れてこられ、ピアノを触っていたと、白石、謙也、財前に迎えられた。 聞くと、のあまりの面白さに(遠まわしだが「ハゲさせたいか」発言を指しているのは明白だ)、 小春や一氏、銀さん、千歳も来たがっていたらしいのだが、あんまり大勢居ると彼女がまた気絶するだろうという事で、 (むしろもう放って置いて欲しいと切実には思った)聞き手はこの四人に厳選されたらしい(ちなみにジャンケン)。 謙也と財前の登場には、も願ったり叶ったりだったのだろう。 上機嫌にピアノに指を走らせていて「丁度今“ハノン”で指慣らしが終わった所だったんだ」と言うと、 あからさまに不機嫌なの空気を読まず(この場合無視しているといった方が的確だ)、お待たせしましたと頭を下げる。 パチパチと拍手が鳴り、何かもう歌わないといけないような雰囲気に、は「しょうがないか」と腹をくくった。 さっさと歌って、さっさと帰ろう が旋律を紡ぎだし、は小さく息を吸うと、一言一言に想いを込めてメロディーに乗せた。 曲を歌い終わって、メロディーが最後まで流れると、は頭を下げる。 この拍手までの微妙な間は、正直居心地が悪い――嫌々ながら歌ったとは言え、期待はずれだなんて思われてたらどうしよう。 しかし金太郎が飛び跳ねながら拍手をすると、時が動き出したように音楽室は四人の拍手で溢れた。 ほっと安堵の息をついたに、金太郎はキラキラとした目で尋ねてくる――「他の歌ないんか?メッチャ聞きたい!」 まぁ喜ばれて悪い気はしないので、がに首を巡らせると、 は金太郎に「金ちゃんはラジオとか聞く?」と小首を傾げて尋ねる。 「あー、あんまワイは聞かへんなぁ…白石は?」 「俺は勉強の合間にたまに聞くで」 「んじゃ、姉ちゃんアレやろうか」 「分かった」 との中でラジオと言えば、あの曲しかない さっきのゆっくりな曲調とは違い、アップテンポなリズムでピアノの上で指先を躍らせるにあわせて、 手拍子が鳴り、は瞳を伏せると、唇を開いた。 ありがとうございました、ととが頭を下げると、 音楽室は拍手で割れるような音が響き渡り、はその中で「やっと帰れる」と疲れたため息を零した。 四天宝寺は好きな学校だし、白石の顔を近くで見られるのは嬉しいが、 キャラだと思ってた人たちと面と向かって話すのには未だ慣れない。 とは言え、リョーマと暮らしたり、不本意ながら氷帝と面識が出来たり、幸村と話したお陰で少し慣れてきていているのは確かだ。 だが、「ハゲさせたいか!」発言はの中で結構な重荷になっており、出来れば早く帰って寝て今日と言う日を思い出にしたい。 いつか「ああ。そんな事もあったな」と笑える日が来るのだろうか――どちらにしろ大分先だ。 「さ、じゃぁ帰ろうか」と言おうとしたの先手を打って、 金太郎が「なぁなぁ、昨日はどこ食べ行ったんか?」と尋ね、 が「それがね、こっちの店よく分からないから適当に入ったの」と言うと、ここぞとばかりに食いついてきた。 「ワイのお勧めの店紹介したるで!たこ焼き、イカ焼き、串カツ、食い歩きや!」 「なんや金太郎。それならお好み焼きのがええやん」 「食い歩きのがええ!な、光」 「せやな。俺もそっちの方がええですわ」 「あたしお好み焼きこの前亜久津と食べたしなぁ…食べ歩きがいいかも」 「でも、せっかく大阪来たんだから、本場のお好み焼き食べたくない?」 あ、しまった。つい話題に乗ってしまった、とが後悔したときには遅かった。 白石は「せやったら」と言って、金太郎を指差す。 「金太郎、財前、謙也、それに切原さんがが食い歩きチーム。そんで俺と越前さん」 は?とは瞬くと、何時の間に名前を教えたんだと無言でを睨み、はあからさまに視線を逸らした。 どうやら身に覚えがあるらしい。とにかく、事が荒立たない程度に断ろうと思ったは、遠慮がちに口を開く。 「あの、私達はご遠慮――」 「やったぁ!んじゃ金ちゃん行こう!」 だからお前は話し聞けって言ってるだろうが…ッ! 「んじゃ俺ら行きますわ」 「…なんで俺がお子様のお守りやねん…」 片手を挙げた財前、強制的に決定された謙也が金太郎達の後に続いて出て行き、 がの背中に向かって伸ばした手は、悲しくも届かなかった。 「…」 「ほな、俺達も行こか」 とりあえず、早く今日と言う一日が終わればいいのに ++++++++++++++++++++++++++++++++ 原作を読んでいない上に、アニメうろ覚えの管理人’sは四天宝寺の愛だけで突っ走ってます。 金ちゃんが部員を何て呼ぶか分からない。白石が部員を何て呼ぶか分からない。 勢いだけで行くので、ついてこれる人は着いて来てください(遠い眼) ![]() |