「あー死ぬかと思った」 跡部が各部長にメンバーの確認を指示している傍で、げんなりとした声を上げたの言葉にも頷く。 画面の向こうで予想外の嵐に巻き込まれても痛くも痒くもなかったが、実際体験してみるとデット・オア・アライブの世界だ。 大方のストーリーを知ってるとは言え、これからの事を考えると頭が痛くなってくる。 「行くぞ」と差し伸べられた手を取って立ち上がったが白々しく「行くって何処に?」と尋ねると、凛は少し先に見える大きな島に視線を向けた。 「ここは潮が満ちたら沈むばぁよ。その前にあっちの島に渡る」 「そうなんだ」 見るとも裕次郎に連れられて一足先に向かう木手の背中を追いかけている。 凛とが一歩踏み出した時、跡部が「おい」と不機嫌な声を上げ、木手は「何ですか」と独特なイントネーションで言葉を返した。 「この島が沈むにしても、まだ時間があるだろうか。勝手な行動をするな」 「おやおや、いきなり命令ですか」 含みのある木手の言い方に跡部は眉根を浮かしたものの、相手にしない事にしたのだろう、各部長の確認を取りだす。 結果、選手は全員そろっているものの先生方が居ない事が判明し、場は一時騒然となった。 「ハァハハハハ!あのクソジジィ、俺を騙すからそんな目にあうんだよ」 「亜久津!言いすぎだぞ!」 「でもあたし、先生方が救命ボートに乗るの見たよ」 見かねたがそう言うと、凛は「見たか?」と訝しげな顔で尋ねてきて、 「凛々が助けに来てくれた時に、海を見たの。ぼんやりとしか見えなかったけど、あのピンクのジャージは竜崎先生達だと思うよ」と嘘八百を並べる。 先生達はもうすでに隣の大きな島で隠れて待機しているはずだ。 これは当初の予定通りなので、「俺も確認した。おそらくは別の場所に漂着したんだろう」と跡部も言った時、 ジャッカルが「なぁ」と声を上げ隣の島を指差す――「向こうの島の山の手の方にあるの、山小屋じゃねぇか?」 ともそちらの方に目をやるが、霞んでよく見えない。 いったいどう言う視力をしてるんだ、ジャッカル、と口角を引きつらせていると、菊丸が「お。ホントだ」と声を上げた。 「もしかしたら先生達はあそこにいらっしゃるかも知れない」 大石の期待を含んだ声音に、跡部は「かもな」と頷いて「行ってみるか」と手塚に同意を求め、手塚も頷く。 「ああ、そうしよう」 「だから、最初にそう言ったでしょう。人の忠告は次回から聞いておくべきですね」 救命ボートを使って島に到着すると、一足先についた比嘉中のメンバーと共に居たとも必然的についていく事になり、 みんなより先に合宿場に着いた五人のメンバーを見た木手は、眉根を寄せた。 「さっきから思ってたんですけど、なんで君たちが居るんですか」 「・・・ホント、何ででしょうねぇ・・・」 遠い目で宙を仰いだの傍で、裕次郎が「別にいいだろ」と言うと、木手はあからさまに不愉快なのを顔にありありと出す。 「君たちが何を言われて手懐けられたのかは知りませんけどね、本土の人間に気を許してたら、足をすくわれますよ」 「・・・木手さん・・・」 静かに声を上げたはいつもより真剣な表情を浮かべていて、凛が見た事もない顔に驚いていると、至極まじめに言葉を続けた。 「あたし、木手さんのそう言う所大好きです」 「「「・・・」」」 「こう言う子だから嫌味言うだけ無駄だと思いますよ」 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした木手は、咳払いをすると踵を返す。 「跡部君達には任せておけない。とりあえず、状況を把握しましょう。それから、俺は貴方に好かれても嬉しくないですよ」 「またまたぁ〜」 木手の様子は伺えないが、隣に立っている凛は随分複雑そうな表情で、は隣に立っている裕次郎に口を寄せるとこそこそと耳打ちした。 「もしかして平古場君っての事いいなぁとか思ってるの?」 息がかかるほど近づかれた裕次郎は内心穏やかではなかったものの、の言葉に呆気にとられて、ぽかんと口を開ける。 「やー、たしか(本当)に鈍い訳じゃないんだな」 「・・・は?」 「こっちの話ばぁよ」 含みのある言い方に瞬いただったが、追求する間もなく歩き出した裕次郎の背中を追って駆け出し、 しばらく付近の探索をしていると、跡部たちが遅れてたどり着いた。 「遅かったですね、皆さん」 淡々と言った木手に、橘は「木手!勝手な行動ばかりとるな!」と声を荒げ、木手が言葉を返す前に凛がやれやれと方をすくめる。 「ぬーあびてぃ(何言って)んだが。やったーがトロくさいから、わったーが先に状況を調べてただけさー」 そのまま一種触発しそうだった所をとがなだめて、唯一鍵のかかってないロッジへ促した所、 大石がこの島の地図と思しきものを発見し、柳は鍵の束を発見した。 が、その他のメンバーが付近を捜してみたものの、やはり先生達の姿は見つからず、心配で気をもむ大石に、跡部は「落ち着け」と眉根を寄せる。 「この島はたいした広さじゃねぇ。こっちが捜していたらいずれ出会うだろう・・・だが、問題は食料だ」 「食料?」 「俺達が船から持ち出した分を踏まえても、せいぜい昼飯ぐらいって所か」 「育ち盛りばっかりだもんねぇ」と言ったがブン太を見、「そうだねぇ」と相槌を打ったが桃城を見た。 これからこのメンバーの食事を用意する事になるのかと思うと軽くめまいがする。 「あの嵐じゃ船は座礁したでしょうね」 柳生が眉をひそめると、傍に立っていた仁王が続いた。 「救難信号が出とればいいけどの。あんまり期待せん方がいいじゃろな」 「となると、俺達はどれ位この島で過ごす事になるんだ?」 幸村が首を巡らせると、データコンビは二人そろって「そうだな」としばしの間考え込み、乾が先に口を開く。 「俺達は元々ここで一週間の合宿予定だった。一週間たっても俺達が戻らなければ家族が異変に気づくだろう」 「となると、最短五日、最長二週間と言った所だな」 二週間と言う期間は全国大会を控えてる彼らにとって貴重な時間で、 暗い雰囲気が漂う中、勤めて明るい声でが「おなか減ってない?」と話題を切り替えた。 「おなか減るとさ、上手く頭回んないし、マイナス思考になっちゃうでしょ?どうせ食料は一回分で尽きちゃうかもなんだし、パ――ッと食べてから考えようよ」 「お。確かにそうだよな、腹が減っちゃ出来るもんも出来ねぇしな」 「俺も賛成ッス!」 大食いコンビがここぞとばかりに賛成の態を示すと、手塚と顔を見合わせた跡部が「そうするか」と一息つく。 「食事の後でミーティングだ。、飯食うとこあったか?」 「あっちの方に食堂みたいな所があったよ。非常食は缶詰類ばっかりだし、準備も手軽だからね。、用意手伝って」 「あの、私たちも手伝います」 辻本が手を上げて、一瞬表情を曇らせたは「お願いしようかな」と笑顔を繕い、一同は食堂までぞろぞろと連れたって向かったのであった。 【遭難】 食べ終わってミーティングが始まり、跡部が仕切る中、話し合いは「食生活」と「先生たちの捜索」に焦点を絞られた。 「全員固まって行動するのは効率が悪い。ちょうどこの合宿場も北半分と南半分に分かれてる事だ、俺達も二手に分かれるのが得策だな」 「どちらかと言うと北が山が目立ち、南が海が目立ちますね。さしずめ山側と海側といった所でしょうか」 観月の言葉を境に、誰が海側に行き、誰が山側へ行くかと纏まりがなくなり、は「まずは代表を決めたら?」とさりげなく提案する。 「どっちにしろ誰かがリーダーになってお互い情報交換をしたりする必要があるでしょう? 今回の合宿の提案者は氷帝なんだし、跡部君ともう一人がなればいいんじゃない?ホラ、手塚君とか!」 「だとよ、手塚」 「俺は構わない」 口裏を合わせているとは言え、とんとん拍子で話が進んで行き、跡部は「マネージャーは二人か」と言ってとを見た。 「ちなみに俺とは海側担当だ。手塚、お前は山側のリーダーをやってくれ。切原は山側だ」 「・・・とってつけたように言いやがって・・・」 チィッと舌打ちをしたが「まぁ別にいいですケドね!アホベ様に好かれたって痒いだけだし!」と噛み付くように言うと、 跡部が「どう言う意味だ、それは」と低い声で尋ね、 「アンタに好かれるのと蚊に刺されるのは大差ないって言ってるんじゃッ!」とが牙を向く。 「ムヒが効くだけまだ蚊の方がマシだい!あーあ、ちゃん可愛そう!」 「・・・何でそこで私が出てくるのよ・・・」 完璧にそれた話に小日向と辻本はくすくすと笑っており、 収集がつかなくなる前に声をあげようとした真田を遮って、木手が「ちょっと待ってもらえますかね、跡部君」と口を開いた。 「我々の事を無視して、色々と勝手に決めてるようですがね・・・我々比嘉中は、キミ達と一緒に行動するとは一言も言ってませんよ。 ここの環境は沖縄に近い。つまり我々にとってはホームグラウンド。海の恐ろしさを知らないキミ達の指示に従うのは、逆に危険だと言う事ですよ」 挑戦的な木手の言葉に、跡部は「自信満々だな」というと、相手の時とは違う大人な対応を取る。 「いいだろう。お前達は好きにやれ」 「少し離れたロッジが二つありましたね、我々はそこを使わせていただきますよ」 「あ、そのひとつはあたし達が使います」 突然口を挟んだに全員の視線が向いて、彼女は笑った。 「さっき窓から覗いたらそこだけピアノがあったんですよ。 見た感じボロボロだったし調律とかは期待出来ないけど、ピアノは弾きたいから、あたしとちゃんでそこ使います」 やっと彼女達があのロッジを指定した訳が分かった跡部が「そう言う事か・・・」と小さな声で言うと、は「そう言う事」と笑顔で答える。 「勝手にしてください。我々はもうひとつのロッジを使います」 木手達の背中が見えなくなると、幸村は神妙な声音で「跡部・・・いいのかい?」と尋ね、 皆まで言わずとも比嘉中の事だと分かった跡部は「ああ」と頷いた。 「協調性の欠片もねぇ奴らを無理やり従わせた所で、空中分解するのは目に見えてるからな」 跡部の言葉に、が「大人だねぇ」としみじみ言うと、は理解出来ないと言う顔で「どこが大人よ、あれの」と跡部を指差す。 「俺様だし、樺地居ないと駄目だし、売られた喧嘩すぐ買うし、すぐキレるし・・・」 「前半は否定できないけど、後半はアンタが喧嘩売るのが原因なんだからね・・・? 今の木手君に下手な事言っても、彼が余計反発するのをちゃんと分かってるのよ。それに、跡部君があんな風に怒るのってアンタにだけでしょ。 それだけアンタの事を認めてて、対等だと思ってくれてるんだよ、きっと」 話に熱中するあまり、皆に聞こえてる等とは夢にも思わないは「そういえば」と言ってに笑った。 「跡部君のタイプって気の強い子だったよね?もしかしたらの事好きだ「私語は慎め」たりして・・・」 不機嫌な跡部の声には私語をしてた事を怒られたのだと思い「ごめんなさい」と素直に頭を下げて、 跡部の機嫌が悪くなった理由が分かっていると幸村は、そろって噴出すと、あさっての方向を向いて口元を押さえる。 ((報われないなぁ〜、跡部(アホベ様))) 「手塚が山なら、青学は皆山だよね?」 不二の言葉で脱線していた話が戻り、海堂が「そうッスね」というと他のメンバーも異論はないと頷いた。 幸村が「弦一郎はどうするんだい?」と尋ねると、 真田は仏頂面のまま「知れたこと」と腕を組んで「俺と赤也は山側へ行く」と断言し、赤也は「いッ!?」と言葉に詰まる――俺まだ何も言ってないッスよ! まぁが一緒ならいいか、とポジティブに考える事にしたらしい赤也の傍で、仁王は「おもしろそうじゃな」とにんまり両口端を引っ掛けたように笑った。 「俺も山にする。柳生も来るか?」 「そうですね」 「んーっ・・・山の方が人気があるようですね。海は日差しがキツイので苦手なんですが・・・ さんも居ることですし仕方ありませんね、裕太君、海側へ行きますよ」 どいつもこいつも後輩の意見聞かない奴らばっかりだなぁとが呆れた顔をしていると、 裕太は「え?俺も?」と驚いた声を上げ、観月は「お兄さんと一緒でもいいんですか?」とささやく。 さすが裕太の事を分かっているとも言うべきか、観月のその言葉にハッと目を見開いた裕太は、 「お、俺も海にします」と手を挙げ、その言葉を聞いた不二は至極残念そうに眉尻を下げた。 「あれ?裕太は海にするのか、残念だな」 「僕達も海の事には詳しいつもりだし、六角中は海にします」 「よろしくね、越前さん」 爽やかな笑顔を向けられて、これは何度見ても心臓に悪いと、 少し赤くなった頬で「よろしくお願いします」と頭を下げたから少し離れた場所で、神尾が「俺達は橘さんと同じ所に行きますよ」と言うと、橘は頷く。 「不動峰は山に行こう」 「やはり山の方が人気だな。山吹は海にしよう」 「ちょ、南ッ!こんな時だけ部長面するのは止めてよ!俺はちゃんと一緒がいい――ッ!」 「俺はいつでも部長だ。そう言う事で跡部、よろしく」 ああ、と頷いた跡部が岳人たちを見ると、天井を仰いだ岳人は「俺も山かな。侑士も来るだろ?」と聞くと、 忍足は投げやりに「どっちでもええで」と片手をひらひら振った。 「何が悲しゅうて、男42に女の子4人で野郎ばっかりとサバイバルせなあかんねん」 「あー、無人島に行くなら誰がいい?って話の種になるよな!侑士は誰がいいんだよ」 「綾波レイ」 「・・・お前人生ですでに遭難してる事に気づけ」 結局忍足、岳人と日吉が山側に、長太郎と宍戸、ジロー、そして樺地が海側に来ることになり、 事のなりゆきを見ていた白石の傍で金太郎が「ワイは山なッ!」と飛び跳るのを見た白石はため息をついた。 「俺は越前さんがおる海が断然ええねんけど、金太郎を一人にするわけにもいかんしな。しゃぁない、山にいこか」 残るは立海のみとなって、風船ガムを膨らませながら、「俺もやっぱ山かな」と言うブン太に目を向けた幸村が 「ブン太とジャッカルは海だよね?」と問い、その有無を言わさぬ迫力にブン太は思わず後退さった。 「何でだよ。俺だってと一緒の方がいいに決まってるだろぃ」 「ブン太が山に言ったらジャッカルまでそっちに行ってしまうじゃないか、俺が一人になるだろう」 「だったら幸村も海にすればいいだろ」 「が居ないから嫌」 何て横暴な・・・ッ!しかしそんなことを言えるはずもないブン太は、流されるまま海側になったものの、せめてもの抵抗を見せた。 「マネージャーの取替えを要求する!」 「なッ!丸井先輩卑怯ッスよ!俺なんて真田副部長と一緒なんッスから、心のオアシスがあったって許されるでしょ!」 「うるせぇ!人間ってのはな、肉体面の痛みは耐えれるが精神面は耐えられねぇんだよ! ビンタとブリザードッ、オアシスが必要なのは俺達だ!」 熱弁するブン太こそ気づいてないが、そのブリザードはすでに吹き荒れている 教えてやるべきかやらぬべきかが考えていると、それまで黙っていたリョーマも「俺も賛成」と突然名乗り出た。 「はいつも俺達のマネしてるんだし、慣れてる方が仕事も出来るでしょ」 「今更変えるとまたあぁだこうだ事態に収集がつかなくなるだろうが、最初の通り海側は、山側は切原だ」 堂々と職権乱用したにも関わらず、いけしゃぁしゃぁと言った跡部の言葉に、幸村は笑顔で頷く。 「逆を言えば、青学はいつもにマネして貰ってるだろ?たまには俺達にも譲ってくれないか」 幸村と跡部と言うある意味最強ペアが相手では言うまでもなくリョーマが不利なのだが、 引く気のないリョーマを見た手塚が諌めるように「越前」と言うと、静かに首を横に振った――ここままじゃ埒が明かない ふてくされたリョーマを見る小日向の傍らで、辻本は跡部に尋ねる。 「あの、私たちはどちらを手伝えばいいですか?」 「てめぇらは巻き込まれただけだ、気にしなくていい」 「そう言う訳には行きません。遭難したのは皆さんも私たちも一緒です。協力させてください」 「そうか・・・なら、辻本。お前、俺達の方を手伝え」 跡部が僅かに口元を緩めるように笑うのを見て、とは顔を見合わせた。 必然的に山側になった小日向が手塚によろしくお願いしますと頭を下げ、 手塚も「ああ。こちらこそよろしく頼む」と挨拶を返していると、跡部は「山側は手塚、海側は俺の所に分かれろ。ロッジの部屋割りをする」と指示する。 動き出した事でざわざわと人の声があるのをいい事に、は「ねぇ」と隣に座るぐらいにしか聞こえない声で言うと、ぎゅっと拳を握った。 「ここに来てから、色々な事があったよね」 遠まわしな言い方だったが、が言いたい事をおのずと理解したが「うん」と瞳を伏せる。 「嬉しい事も、悲しい事も含めて私たちが時間をかけて作ってきた信頼みたいなものをさ、たった一言で得ちゃうんだもん。ずるいよ」 ヒロインって、ズルイ その時のの瞳が咲乃たちの会話を聞いたあの日の自分と重なって、は何と答えていいか分からぬまま「そうだね」と相槌を打った。 堪えるような顔で瞳を揺らす二人を見る、リョーマや幸村、千石やブン太を初めとする数人の目。 それぞれの想いが交差する中、サバイバルが今、幕を開ける。 姉編 妹編 |